九つの試練『神の箱庭』①/誰が行く?

「みんな!! 『神の箱庭』に向かう九人のメンバーを決めようと思う!!」

「「「「…………」」」」


 クラン『セイクリッド』本部。

 どこかに出かけたサーシャが戻るなり、仲間たちを集め、元気いっぱいに叫んだ。

 どう見ても上機嫌。何があったのか不明だが、機嫌がいい。

 ロビンは、レイノルドにボソボソ言う。


「ね、なんかご機嫌だけど……どうしたのかな?」

「知らん。けっこうヘコんでたと思ったが、悩みが解決したのか?」


 タイクーンが眼鏡をクイッと上げ、サーシャに言う。


「九人のメンバー、つまり……『神の箱庭』の鍵を開くということか。ハイセに助力願えるのかい?」

「ああ。というか、鍵はもう預かった」

「何!?」


 驚くタイクーン。サーシャはアイテムボックスから木箱を出し机に置く。

 興味津々のタイクーンに釘を刺すように言う。


「言っておくが、これはハイセの『信頼』を得ることで預かった物だ。開けるのは、九人のメンバーが揃った時……それまでは開けないからな」

「む、むぅ……知的好奇心を刺激されるが耐えよう。サーシャ、わかったからその箱をしまってくれ」


 どうやら見ていると開けたくなるのか、タイクーンはチラチラ見つつも仕舞うように言う。

 サーシャは箱をアイテムボックスに入れるのを見つつ、レイノルドが言う。


「それで……九人のメンバーってのは? オレら五人、ハイセで、あと三人を決めるのか?」

「それも考えた。だが……クランをまとめる者が必要だ。それに、『箱』の詳細が不明な以上、戦闘可能な者で向かいたい。外部の冒険者に協力を求めることも考えている」

「なーるほどな……くやしいが、理にかなってやがる」


 レイノルドは理解した。

 そう、『一人で戦闘可能な挑戦者』と『クランをまとめる者』の役割分担だ。

 その言葉に、ピアソラは真っ先に反応した。


「サーシャ!! それってつまり……」

「……ピアソラ。お前にはここで、クランをまとめる役目を任せる」

「そ、そんな!! でもでも、『聖女』の能力にだって、戦闘用の魔法はありますわ!! それに、怪我をしたら誰が治療をするんですの!?」

「わかっている。だが……『神の箱庭』の扉は九つ。一人一つの扉しか通れない。扉と言う以上、中に入ると全員が同じ空間に入れるとは限らない……九つの空間があると考え、分断されるべきと考えた方が自然だ。個人のお前の強さはB級冒険者ほど……危険すぎる」

「で、でも……」


 ピアソラは個人ではA級冒険者。だが、それはあくまで冒険者としての等級。純粋な戦闘能力では、B級冒険者下位ほどだ。

 何も言えないのか、俯いてしまうピアソラ。


「それと、レイノルド、ロビン……私は、お前たちも残ってもらいたい」

「……やっぱり言うと思ったよ」

「……オレは、納得のいく説明を聞きたいぜ」


 ロビンは悲し気に、レイノルドはやや不機嫌に言う。


「ロビン。お前は個人での技量はA級冒険者以上。あと数年すればS級冒険者に認定されてもおかしくない。だが……お前は、個人戦より集団戦、そして援護に特化している。一対一の戦闘には向いていない」

「……だよねー」

「ああ。扉の先は未知だ。少なくとも、個人の技量でS級に届く力がなければ難しい」

「…………うん」


 ロビンは納得したのか、俯いた。

 全て、サーシャの言う通りだった。個人の強さでは、ロビンはクランに所属しているA級冒険者の中でも下の方だ。

 ただし、斥候、罠の配置、魔獣の知識……それらを駆使し、森の中での隠密戦となれば、ロビンは間違いなくS級に匹敵する強さを誇る。


「今回、欲しいのは『あらゆる状況に対応し、圧倒することが可能な戦闘力』だ……レイノルド、私が言いたいことはわかるか?」

「……ああ。オレは基本的に『守り』だしな。喧嘩は強いけど、どうあがいてもS級には届かねぇ。オレがS級認定されたのも、仲間を守ることに特化し、あらゆる攻撃から仲間を守り切った功績からだ。純粋な戦闘となればお前がいるしな……」

「それもある。だがレイノルド……お前には、サブクランマスターとして、クランをまとめてほしい」

「オレが?」

「ああ。正直に言う。私は……クランマスターは、お前の方が向いていると思う」


 サーシャはずっと思っていた。

 レイノルドの人望、カリスマは他者を引き付ける。

 現に、サーシャはクラン内で『強さの憧れ』であり『超えるべき壁』だが……レイノルドは違う。レイノルドは『目標』であり『リーダー』なのだ。

 サーシャではなく、レイノルドが『セイクリッド』を引っ張れば……と、サーシャは何度も考えたことがあった。


「レイノルド。ロビン、ピアソラと共に、私とタイクーンが留守の間、『セイクリッド』をまとめてほしい」

「……タイクーン、お前は理由に納得したか?」

「サーシャの考えに穴があれば指摘しようと思ったが、現状ではベストだろうね。サーシャは圧倒的戦力を持ち、ボクは冷静な分析、多彩な魔法がある。初見の相手でも対応してみせるさ」

「……ったく、仕方ねぇなあ」


 レイノルドは椅子に寄りかかり、頭を掻く。


「わーったよ。でも、忘れんなよ? 外部に助けを求める時点で『セイクリッド』の禁忌六迷宮挑戦じゃなくなる。攻略しても、称えられるのは個人だぜ」

「わかっている。タイクーン、これまで会った人の中で、お前が考えるベストの人選を聞かせてくれ……もう、考えてあるのだろう?」

「フフフ……サーシャ、キミも言うようになったね。当然ある」


 タイクーンはニヤリと笑い、考えを披露するのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 一方、ハイセは。

 イーサンに稽古を付けにきたヒジリ、シムーンに本を貸しに来たプレセアを呼んだ。

 すると、呼んでもいないのに部屋からエクリプスが来て、一階の食堂スペースに座る。


「はい!! ハイセさんの好きな『蜂蜜たっぷりクリームフルーツパンケーキ』です!!」

「…………」

「「「…………」」」

「あ、皆さんのもすぐにできますから、待っててくださいね」


 シムーンはキッチンへ。そして、ヒジリがゲラゲラ笑いだした。


「あっはっは!! あ、アンタ……そんなお子様みたいなおやつ好きだったの!?」

「……んなわけあるか。シムーンが作った菓子で俺が「うまい」って言ったらよく作るようになったんだっつーの……甘すぎて死にそうになる」

「でも、完食するのね」

「……残すと悲しそうにするんだよ」

「でも、おいしそう……ふふ、楽しみね」


 エクリプス。

 今はもう、完璧に馴染んでいる。

 ハイセは微妙な顔をしつつナイフでパンケーキを切り、口に入れた……相変わらず甘い。


「ヒジリ、プレセア。お前らに頼みがある」

「ぷぷぷ。パンケーキ食べながら言うとめちゃくちゃ面白いわねー」

「いいじゃない。そういうハイセも貴重よ」

「……真面目に聞け。お前らへ個人依頼を出す。禁忌六迷宮『神の箱庭』へ同行しろ」


 クリームを舐めつつ言う。ヒジリが椅子に深く腰掛け、胸を張る。

 大きな胸が揺れるが、ハイセは見向きもしない。


「そういや、そんな話だったわね。んー……めんどくさいわ。それにアタシさ、迷宮で彷徨うとかイライラするし」

「『七大災厄カタストロフィ・セブン』」

「……なにそれ?」

「古の人間が封印した七つの大魔獣だ。そいつが迷宮にいる」

「───……!!」


 ヒジリの目が見開かれた。

 そして、ハイセは一瞬でケーキナイフをヒジリに突きつける。


「攻略の報酬は……俺だ」

「「!!」」

「アンタ? なに、ご飯でも奢ってくれるの?」

「違う。全力でお前と戦ってやる。かつてお前とサーシャがやった決闘だ。死んでも生き返えれるし、ギルド公認だからどんなに暴れても気にする必要はない。サーシャとケリ付ける前に、俺が全力で相手してやる……どうだ?」


 ッバン!! と、ヒジリがテーブルを叩いた。

 頬が紅潮し、笑みを浮かべ、ハイセに顔を近づける。


「……本気?」

「顔、笑ってるぞ。もちろん本気だ……」


 ハイセはパンケーキをカットし、フォークに刺し、ヒジリの口元へ持っていく。

 ヒジリは口を開け、パンケーキにかぶりついて咀嚼した。


「あっまぁ……」

「で、どうする?」

「やるわ。で、アンタに勝つ。勝った後はどうする?」

「好きにしろ。殺すもいい、小間使いにしてもいい、お前の言うことなんでも聞いてやる」

「「!!」」

「最高。いいわ、乗ってやる。禁忌六迷宮、アタシが手を貸すわ」

「決まりだな」


 ハイセはパンケーキをカットし、自分に口に入れる。


「「!!」」

「……で、さっきから何驚いてんだ、お前ら」

「「…………」」


 ハイセは、プレセアとエクリプスがジッと見ていることに、ようやくツッコんだ。

 ヒジリとの決闘、『自分を好きにしていい』と『間接キス』が、気になっているようだが、ハイセは全く気にしていないし、ヒジリも気にしていない。

 プレセアが、やや前のめりになって言う。


「私、手を貸すわ」

「……まだ何も言ってないが」

「報酬は、あなたを好きにしていいのね?」

「んなわけあるか。お前には金を払う」

「いらない。その代わり……デートしてちょうだい。私、行きたいところがあるの」

「……デート?」

「ダメ?」

「別にいいぞ。それくらい、安いもんだ」

「じゃあ決定」

「よし。エクリプス、お前は箱を持ってきたし、参加の意志はあったな」

「……え、ええ」


 何か条件を付ければよかったかも……と、エクリプスは微妙に後悔していた。


「俺、サーシャ、ヒジリ、プレセア、エクリプス、タイクーン……これで六人か。あと三人」


 すると、宿屋のドアが開いた。


「ふいー!! いい汗搔きましたっ!!」


 クレアだった。

 ハイセは訓練を終えたクレアを見る。


「あれ、どうしました師匠」

「…………お前、どのくらい強くなった?」

「えーっと、けっこう?」

「……よし。久しぶりに実力を見る。今日は休んで体調を整えておけ。明日、本気の手合わせだ」

「え、え? え、あ、はい」


 禁忌六迷宮の挑戦。

 残りメンバー枠は、三人。

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