クラン『セイクリッド』にて

 ハイセ、クレアの二人は、ハイベルグ王国郊外にあるクラン『セイクリッド』本部へ向かっていた。

 クレアは緊張しており、カチカチになりながらハイセに聞く。


「あの、師匠……クラン『セイクリッド』って、どんなところですか?」

「知らん。俺も初めてだ」


 そう言い、あくびをするハイセ。

 緊張もなく、ただの付き添いとして歩いている。

 クレアは深呼吸をしてハイセに聞く。


「師匠。セキさんたちチーム『スカーレット』の勧誘ですけど……」

「今すぐ答えを出さなくていい。向こうの勧誘理由、条件を聞いて、総合的にお前が判断しろ。すぐここで結論は出すな」

「は、はい……」


 二十分ほど歩くと、大きな白い壁に囲まれた砦のような建物が見えてきた。

 壁には大きな門が設置され解放されており、大きな看板が掲げられている。看板には当然、クラン『セイクリッド』と刻まれていた。

 壁の近くには中規模の建物がある。


「あの建物、何でしょうか?」

「受付だな。あの建物が冒険者ギルドみたいな場所で、クラン『セイクリッド』に依頼できる」

「へー」


 まず、二人は建物の中へ。

 そこには、冒険者はいない。依頼人たちが大勢おり、クランに依頼を出している。

 老若男女問わず、依頼人は多い。

 ハイセはクレアを連れ、空いていたカウンターへ。


「S級冒険者サーシャに面会したい」

「え……? あの、あなたは?」

「ほれ」


 ハイセは冒険者カードを見せる。そして数秒後、受付嬢が真っ青になり建物の裏へ。


『た、大変です!! だだ、『闇の化身ダークストーカー』さんが来ました!!』

『マジ!? なな、なんで!?』

『さ、サーシャさんに会わせろって……どど、どうしましょう!?』

『ど、どうするって……い、言うこと聞くしかないじゃん!! 殺されるし!!』

『でもでも、サーシャさんに……』

『だだ、大丈夫。サーシャさんならきっと!!』

 

 と、でかい声で聞こえてきた。

 おかげで、とんでもなく目立ってしまい、ハイセは舌打ち。

 戻ってきた受付嬢が「ど、どうぞクラン内へ~」と青い顔だ。

 ハイセとクレアは、クラン内へ。

 正門を抜け、初めてクラン『セイクリッド』へ踏み込んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


「わぁ───……」


 クラン『セイクリッド』本部。

 門を抜けた先は、まるで小さな町だった。

 中央広場があり、壁際には飲食店、武器防具屋、鍛冶屋、道具屋、宿屋が並んでいる。

 広場を歩くのはほぼ冒険者のようだ。

 クレアは、キョロキョロしながらハイセに聞く。


「すごいですね!! あのあの、クランの本部なのにお店いっぱいです」

「……クランホームには大手の商会が直接店舗を入れる。店に来てもらうより、クラン内に店があれば楽だしな」

「へぇ~……あれ? クランなのに宿屋も?」

「貴族とかが依頼に来る場合、そのまま宿泊したりもするんだろ」

「なるほど……喫茶店とかもあるんですねぇ」

「これだけ大きなクランホームは、『五大クラン』くらいだろ。契約した商会がどれだけあるかは知らんけど……」

「ふむ……すごいです」


 クレアは興味深々だ。

 それよりも、ハイセとクレアに注目が集まっている。

 すると、大柄な男が近づいてきた。


「お前、『闇の化身ダークストーカー』だな? うちに何の用だ?」

「お前に関係ないことだけは確かだな」

「……フン、元『セイクリッド』だか知らねぇけどよ、いつまでもサーシャさんと仲良くしてんじゃねぇぞ。サーシャさんにはレイノルドさんがいるんだからな」

「あっそ」


 そう言い、ハイセは男を素通りした。

 その態度が気に入らなかったのか、青筋を浮かべた男がハイセの肩をつかもうと手を伸ばす……が、手がハイセに触れようとした瞬間、ぴたりと止まった。

 ハイセが、男を睨んだのだ。


「触れたら、殺す」

「ひっ……」

「はいはいそこまで。ボスマン、今のはおめーが悪いぞ」


 と、ここでレイノルドが現れ、ボスマンと呼ばれた男の背中をバシッと叩いた。

 ボスマンは汗びっしょりになり、手を下ろす。

 レイノルドは、苦笑していた。


「ハイセ……あんまビビらせてくれるなよ」

「下の連中、ちゃんと躾しておけよ。次にこういう喧嘩売られたら、問答無用で痛めつけるからな」

「はいよ。ま……見てた連中も思い知っただろ。お前の殺気でな」


 遠巻きに見ていた冒険者たちは、ハイセから目をそらしていた。

 レイノルドは、ハイセと肩を組んでクレアを見る。


「きみがクレアちゃんか。オレはレイノルドだ」

「は、はい!! S級冒険者『絶対防御イージス』レイノルドさんですよね!? わぁ~、会えて光栄です!!」

「お、うれしいね。キミみたいな可愛い子に覚えてもらえてるとはね」

「か、かわいい!? そそそそんな、私なんて……」

「いいね、マジでいい。おいハイセ、この子可愛いじゃん」

「……おい、離れろよ。あと用事があって来たんだ」

「はいはい。っと、サーシャなら本部にいるぜ」

「ああ。おい、行くぞ」

「は、はい!!」


 レイノルドから離れ、ハイセとクレアは歩き出した。

 レイノルドはその背中を見送りながら思う。


「師弟ねぇ……ハイセも変わったもんだ」


 ◇◇◇◇◇◇

 

 サーシャは、執務室で手紙を読んでいた。


「むぅ……」

「サーシャ、どしたの?」

「顔色が優れませんわね」


 ロビン、ピアソラも一緒にいる。黙っているがタイクーンは壁際にある本棚の前で読書していた。

 サーシャは、届いた手紙を見せる。


「冒険者ギルド連盟が、S級冒険者の中でも特に強大な力を持つ七人を選定し、『七大冒険者』を制定した。その一人に、私が選ばれたようだ……」

「「えぇ!!」」


 ロビン、ピアソラが驚いた。

 サーシャは続ける。


「ちなみに、ハイセとヒジリの名前もある」

「すっごいじゃん!!」

「すごいですけど……その『七大冒険者』というのは、何か意味が?」

「……近年、冒険者の数が増加しているようでな、若き冒険者たちが目指す旗印としての役目のようだ。任命されたから何かが変わるというわけではない。近々、世界中の冒険者ギルドに、七大冒険者の名が伝わるらしい」

「なーるほどねぇ」


 ロビンがうんうんうなずいていると、本を閉じたタイクーンが言う。


「クラン『セイクリッド』にとっていい宣伝にはなるな。冒険者の数が増えているか……確かに。だが冒険者の数が増えても、クランに持ち込まれる依頼や冒険者ギルドに持ち込まれる依頼が減ることはない。むしろ、増えているのが現状だ」


 タイクーンは、サーシャたちの前にあるソファへ移動する。


「サーシャ、その選定された七人はどんな連中だ?」

「ああ。S級冒険者であり、若手の実力者から選ばれた七人だ。S級冒険者でありながらギルドマスターを務めている者や、長期に渡り依頼を受けていないS級冒険者は選ばれていない」


 サーシャは、届いた羊皮紙をタイクーンに見せる。

 それを見てタイクーンは「ほう」と頷いた。


 ◇◇◇◇◇◇


 〇七大冒険者

 序列一位『闇の化身ダークストーカー』ハイセ

 序列二位『聖典魔卿アヴェスター・ワン』エクリプス・ゾロアスター

 序列三位『金剛の拳ヘラクレス』ヒジリ

 序列四位『銀の戦乙女ブリュンヒルデ』サーシャ

 序列五位『月夜の荒鷹ヴェズルフェルニル』ウル・フッド

 序列六位『技巧の絡手イップマン』シグムント

 序列七位『空の支配者スカイライナー』エアロ・スミス


 ◇◇◇◇◇◇


「これはこれは、名が知れた冒険者ばかりだな」

「キィィィ!! サーシャが四位でアイツが一位とか!! チックショォォォ!!」

「ふむ……知らない名前もあるな。ん? どうした、ロビン」

「…………」


 ロビンは、名前の書かれた紙を見て黙り込んでいた。

 そして、「ん、なんでもない」とサーシャに言う。

 そして、話題を逸らすようにタイクーンに聞いた。


「ハイセが一位なのは納得だけど、この二位のヒトだれ?」

「知らないのか? やれやれ……サーシャ、説明を」

「…………えっと」

「……まさか、キミもか。仕方ないな……」


 タイクーンは眼鏡をクイッと上げて言う。


「S級冒険者『聖典魔卿アヴェスター・ワン』エクリプス・ゾロアスター、彼女は現在、この世界で一人しかいない『マジックマスター』の能力者だ。南西にあるプルメリア王国の貴族、ゾロアスター公爵家の長女で、若干十七歳にしてこの世界に存在する全ての魔法を使うことができる天才だ」

「なんと、そんな冒険者がいたのか……」

「プルメリア王国は、森国ユグドラ、砂漠王国ディザーラ、氷結国フリズドと同じ、ハイベルグ王国の属国だ」


 そこまで説明すると、ドアがノックされた。

 入ってきたのは、チーム『スカーレット』のヒノワ。


「失礼します!! サーシャさん、S級冒険者『闇の化身ダークストーカー』ハイセさんが、クレアを連れてきました。対応をお願いします」

「ん、わかった。すまんなタイクーン、この話はまた今度」

「うむ。そうだな」

「サーシャ!! そのランク付け、わたくしは納得してませんからね!!」


 サーシャ、ピアソラ、タイクーンが部屋を出て、ロビンも部屋を出ようとして立ち止まる。

 振り返ると、ロビンはテーブルに置いたままの羊皮紙を見ていた。

 その視線の先にあった名前は、序列五位『月夜の荒鷹ヴェズルフェルニル』ウル・フッド。


「…………お兄ちゃん」


 ぽつりとそう呟き、ロビンは部屋を後にした。

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