天空の舞踏城ドレナ・デ・スタール③/大空へのファンタジア
ハイセは起床し、ベッドから降り着替えをする。
腕と首をグルグル回し、身体に異常がないかを確認。
アイテムボックスである指輪を付け、窓を開けて外の空気を目いっぱい吸う。
外は日が上ったばかり。雲一つない快晴で、朝の冷たい空気がハイセの胸を満たす。
「───……よし」
今日、ハイセはこれから、禁忌六迷宮の一つ、『ドレナ・デ・スタールの空中城』へ挑む。
準備を終え、一階へ下りると……店主が新聞を読んでいた。
シムーンはいない。だが、カウンター隣のドアが開く。
「あ、ハイセさん。おはようございます。すぐに朝食にしますね」
「ああ。紅茶も頼む」
「はい」
最近知ったことだが、店主の座るカウンターの隣がキッチンになっており、ここで朝食を作っているようだ。店主も、シムーンに全て任せているのか、何も言わない。
馴染みの席には新聞が置いてあり、ハイセは新聞を読む。
すると、新聞の片隅に、昨日ハイセがボネットと会った劇場が売りに出されることが書いてあった。
すぐにその記事には興味をなくし、新装開店した武器屋や、大手の薬屋の安売りセールの記事などを読んでいると、シムーンが朝食のトレイを運んでくる。
「ハイセさん、朝食です」
「ああ」
焼きたてパン、野菜ごろごろスープ、ベーコンエッグ、サラダ、チーズだ。デザートにカットしたフルーツもあり、シムーンが紅茶を淹れてくれる。
さっそく食べ始める。焼き加減も絶妙で、スープの野菜もいい感じにゆで上がっていた。
「うん、うまい」
「ありがとうございます! えへへ」
シムーンは店主を見てニコニコすると、店主も少しだけ微笑みウンと頷いた。
ハイセは朝食を食べ、新しく入れた紅茶を飲みながら言う。
「シムーン。今日からしばらく留守にする。部屋の掃除、頼むな」
「はい……その、どれくらいいないんですか?」
「……わからん。数日か、それ以上。でも、必ず帰って来るよ」
「……はい」
「帰ってきたら、イーサンも一緒に、美味い物でも食いに行こう」
「はい! あの……ご、ご主人も一緒に、いいですか?」
「え」
ハイセが主人を見る。
長年、それなりに付き合いがあるが、一緒に食事などしたことがない。というか、主人がどんな食事をしているのかも、ハイセにはわからなかった。
ハイセは主人に「どうする」と目で言うと、主人は「なんとかしろ」と顎をしゃくる。
「あ、ああ……まぁ、うん」
「やったぁ。えへへ、うれしいです」
「お、おお……」
紅茶を飲み終え、ハイセは立ち上がる。
食器の片付けをするシムーンを尻目に、ハイセは主人に金貨を支払う。
「とりあえず、しばらく留守にする。延長一か月分の支払いはしておくから」
「……ああ」
「……その、食事」
「……まぁ、あの子が言うからな」
つまり、行ってもいいということだ。
ハイセは苦笑し、それ以上言わずに宿を出た。
イーサンは母屋で掃除をしているらしく、邪魔しちゃ悪いと思い、フェンリルの頭を何度か撫で、ハイセは出発した。
◇◇◇◇◇◇
冒険者ギルドに向かい、ガイストに挨拶する。
「じゃ、行ってきます」
「ああ。で……どうやって行くんだ?」
「もちろん、俺の『能力』ですよ」
「……お前のは、武器だったか? それを使うのか?」
「ええ。ガイストさんには言うまでもないことですけど……能力は進化します。俺の場合、『武器マスター』が進化したことで、使えるようになった『兵器』があるんです」
「へいき? 武器ではなく?」
「まぁ、ちゃんと話したことないですよね。誰にも話したことないし」
「ああ。能力や、その使い方に関して聞くのはマナー違反だからな」
「ま、そういうことです。じゃ」
ハイセは冒険者ギルドを出た。
すると、当然のようにプレセアが隣に並ぶ。そして何故かヒジリも。
「……連れて行かないぞ」
「行かないわ。また気絶させられたら嫌だしね」
「アタシ、強い魔獣には興味あるけど、禁忌六迷宮とか興味ないわ」
プレセアはしれっと言い、ヒジリはどうでもよさそうに言う。
結局、二人は王都の正門を出てくるまで付いてきた。そのまま少し歩き、ハイセは望遠鏡を取り出し太陽の位置を確認。地図を見ながら羊皮紙に何かを書き記す。
「何してんの?」
「測量ね。太陽の位置と、自分の位置から、地図上で自分がどの位置にいるかを計算しているわ。マッパーの基礎技能の一つよ」
「プレセア、詳しいわねー」
「常識よ」
二人が話しているのを無視し、ハイセは望遠鏡をアイテムボックスに入れて「よし」と呟く。
そして、プレセアに言う。
「これから俺は禁忌六迷宮の一つ、『ドレナ・デ・スタールの空中城』に挑む。プレセア、時間があったらでいいから、シムーンやイーサンの相手をしてやってくれ」
「……それ、依頼?」
「ああ」
「じゃ、戻ってきたら報酬もらうから」
「……ああ」
「アタシも!! ふふん、鍛えてやるからね」
「いや、そういうんじゃないが……まぁ、いいか。じゃあヒジリにも頼むわ」
友達でもなければ、仲間でもない。同業者の二人にハイセは頼み事をする。
以前のハイセであれば、こんなこと考えもしなかっただろう。
ハイセは、「自分も変わったな」と思った。
すると、正門から数人の冒険者が現れた。
「あ、サーシャたちじゃん」
サーシャたちが来た。
サーシャは、ハイセを見て言う。
「行くんだな」
「ああ。悪いけど、先に行かせてもらう」
「…………」
サーシャは、どこか悔しそうに見えた。
すると、レイノルドが言う。
「ま、頑張れよ。オレらは空中城より、『狂乱磁空大森林』に挑むことにするぜ」
「フン!! さっさと行きなさいよ。私、アナタの見送りなんてしたくないんだから!!」
「……ハイセ。空中城に図書室などあれば……ックゥ、羨ましい!!」
「ハイセ、頑張ってね!!」
レイノルド、ピアソラ、タイクーン、ロビン。
何しに来たのか不明だったが……まさか、激励とは思わなかったハイセ。もっともピアソラは少し違うだろうが。
ハイセは「ふん」と鼻を鳴らし、軽く手を振った。
そして、右手を真正面に突き出し、強く念じる。
「来い───……!!」
ハイセの真正面に、巨大な金属の塊が出現した。
細長い、灰色の金属の塊。上部分には細長い剣のような板が四枚付いており、見ただけで得体の知れない『何か』だと全員が理解した。
ハイセは迷うことなく近づき、先頭部分の取っ手を掴む。すると、ドアのように開き、ハイセは乗り込んでしまった。
そして、椅子に座り何か操作をしている。スイッチを入れると、徐々に高まる甲高い金属音とともに突如として四枚のブレードが回転を始めた。これに仰天するタイクーン。
「な、なんだ、これはッ!? は、ハイセの、能力……!?」
ブレードの回転数が異常だった。
魔法でも、こんな強力な回転を引き起こす『現象』は不可能に近い。
猛烈な風が発生し、レイノルドが盾を構えて風を防御する。
UH-1Y ヴェノム。軍用攻撃ヘリコプター。
ハイセの『
聞こえないだろうが、ハイセは窓から言った。
「じゃあな」
ヴェノムは、ゆっくりと上昇……離陸した。
◇◇◇◇◇◇
ゆっくりと上昇する攻撃ヘリ。
サーシャは、その様子をジッと見つめていた。
「すっげぇな……あれ、飛ぶのかよ」
「あれがハイセの言っていた《アテ》か……恐らく、いや確実に魔法よりも高い空を目指せるのだろう」
すでに、全員が首を上に向け、ゆっくり上昇する攻撃ヘリを見ている。
「くっ……落ちればいいのにぃ!!」
「ピアソラ、そーいうこと言わないの!!」
「フン!!」
そっぽ向くピアソラ。そしてピアソラの頬をツンツンするロビン。
「…………」
「すっごいわねー……あれ、アタシでも壊せないくらい硬そう」
プレセア、ヒジリも見送っていた。
だが───サーシャは、限界だった。
「……みんな」
「ん?」「どうした?」「はい?」「どしたの、サーシャ」
四人のチームは、サーシャを見る。
プレセア、ヒジリもサーシャを見ていた。
「すまない。私は……やはり、諦めきれない!!」
サーシャの全身を黄金の闘気が包み込み、サーシャは闘気を噴射させて跳躍した。
全力の跳躍は、高さ百メートルほどまで到達。上空を飛んでいた戦闘ヘリのソリのような部分、スキッドを素手で摑んでぶら下がった。
当然、ハイセは気付いていない。
そのまま、攻撃ヘリはぐんぐん上昇していく。
「───……っく!!」
サーシャはスキッドにしがみつく。
闘気で身体を保護しているが、寒さや空気が薄くなっていく。
下を見ると、大騒ぎしているレイノルドたちが見えた……本当に、悪いことをしたと思っていると、ヘリコプターが雲を抜け、雲の上へ。
そして、ハイセとサーシャは見た。
「───……あれが」
「ドレナ・デ・スタールの空中城……」
上空に浮かぶ、金属の城。
地上から見えない理由は、下部が空色に輝き、擬態していたから。
大きさは王都よりも小さい。中央にある巨大な城を、ドーナツ型のリングがいくつも囲っている。そのリングの上には住居があり、緑も多かった。
そして、ハイセはようやく気付いた。
「!? な、お前!?」
「は、ハイセ……な、なか、中に、入れてくれ!!」
「……ッ、この、大馬鹿!!」
ハイセがスイッチを操作すると、ヘリのドアが開いた。
サーシャが中に滑り込み、ドアが閉まる。
「この、大馬鹿!! 何考えてんだ!!」
「う、うるさい……我慢、できなかったんだ」
「お前、最初からこうするつもりだったのか!?」
「違う!! と、咄嗟に動いてしまったんだ……わ、私も、何でこんなことを」
「……ああもう、とにかく!! 城に着地するぞ!」
「…………」
ハイセとサーシャは、《ドレナ・デ・スタールの空中城》の下部リングへ、ヘリを向かわせた。
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