セイファート騎士団
サタヒコの案内で、一行は『セイファート騎士団』の中心へ。
かなりの広さだと思っていたハイセたちだが、その考えは違っていなかった。
クランの中心は広く、まるで一つの町。木造の建物が多く、サタヒコが着ているような伝統衣装を着ている冒険者が多かった。
衣装の背中には、様々な紋章が刻まれている。
ハイセはポツリと呟く。
「伝統衣装……ああ、これ東方にある島国のやつか」
「ほう、ご存じで」
サタヒコが嬉しそうにハイセを見た。
すると、タイクーンがハイセの隣に来て言う。
「東方の島国アマツの文化だな。人間界と魔界の中心に浮かぶ島国で、海への行き来が唯一可能な船を持つ国……その文化は、我々とは全く違うそうだ」
「本で読んだな。確か……『ワソウ』だったかな」
「そうだな。ふふ……ハイセ、やはりキミの知識は深い。話してて楽しいよ」
「そりゃどうも」
タイクーンは嬉しそうだ。サタヒコも少し驚いている。
「いやはや、その若さでよくご存じで。フフ、興味があるなら、ウチの古書店に寄るといい。きっと面白い本が見つかりますよ」
「ほう!! それはいい!!」
「俺も気になるな」
「よしハイセ、さっそく」
「って、待て待て。まずは依頼だろ……って、なんで俺が止めなくちゃいけないんだよ。おいサーシャ」
「あ、ああすまん。二人が楽しそうでつい……」
何故か、サーシャたちは一歩引いていた。レイノルドは「ああなったタイクーンに近づくんじゃねぇぞ」と、プレセアやヒジリに注意までしている。
サタヒコは「はっはっは」と笑い、歩きだした。
タイクーンがブツブツ言いながらレイノルドに引っ張られて下がったので、ハイセは自然とサタヒコの隣へ。そして、周囲を見ながら言う。
「それにしても……小さな町くらいの大きさはあるな。クランの中に、飲食店や道具屋、武器屋に防具屋……他にもあるぞ」
「これだけ大きいと、専門職人がクラン内にあった方がいいんですわ。商業系のギルトと契約すれば、クラン内にいろんな店を設置できますよ。サーシャさんのトコにも来てるんじゃないですかねぇ」
すると、サーシャがサタヒコの隣に。
「ああ。実は、いくつかそういう話もある。商業ギルドが商人を紹介したり、飲食ギルドが飲食店を紹介したりとな」
「へぇ……入れるのか?」
「一応考えてはいる。お前も知っての通り、クラン『セイクリッド』がもらった土地は広い」
現在、王都郊外に建設中のクラン『セイクリッド』の本拠地。
ハイセは遠目でしか見たことがないが、いろいろとあるようだ。未だにボロ宿暮らしのハイセには全く興味がなく無関係な話だった。
それから数分、クラン最奥にある一番大きな建物へ到着。
槍を持った門兵は、サタヒコを見るなり頭を下げた。
「お疲れさん。クロスファルドさん、いるかい?」
「はッ!! 奥の間にいらっしゃいます!!」
「はいよ。じゃあ、行きますか」
門が開き、先へ進む。
不思議と、全員が喋ることはなかった……入った時に感じた『威圧感』が、そうさせるのだ。
そして、最奥の扉が開くと、そこにいたのは。
「来たか。サーシャ」
「クロスファルド様……!!」
古い木造りの部屋だ。
壁一面が本棚であり、古い紙本が大漁に敷き詰められている。
テーブル、椅子、ソファと全てが古めかしいが、逆に趣を感じられる部屋だった。
全員で中へ入ると、クロスファルドが微笑を浮かべた。
視線は、ハイセに向いている。
「お前がハイセか」
「……はい」
「ノブナガと同じ能力を持つ者か……奴の日記を持っているそうだな」
「ええ。これ……ですね」
ハイセは、懐から日記を出す。
それを見て、クロスファルドは懐かしむように微笑んだ。
「以前のパーティーでは挨拶ができなかったな。クロスファルドだ」
「ハイセです」
「うむ……少し、その日記を見せてくれないか?」
「……どうぞ」
ハイセは日記を渡す。
クロスファルドは、懐かしむようにページをめくった。
「あいつは、毎日この日記にその日の出来事を記していた。内容は『ニホンゴ』や『エイゴ』、そして『カンジ』という文字を組み合わせた暗号でな、何十年も一緒にいたが、ワシらの誰も読むことができなかった。ふふ……ハイセ、お前には読めるのだな?」
「はい。完全ではないですけど……ん?」
と、日記を受け取ると、読めるページがあった。
「ん、どうした?」
「いえ、読めるページがありまして……これ、その日というか、その時の状況で読めるページがいきなり現れたりするんです」
「ふむ、それは面白そうだ。読んでくれんか?」
「ええ……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
〇月×日 晴れ
クロスファルドのやつ、今日もしつこく『勝負しろ!』って迫ってきた。こいつオレよりモテるくせに、女に微塵も興味持ってない。アイビスは『ノブナガのことが好き、ケツ穴綺麗にしておけ』とか馬鹿笑いするし、正直うっとおしい……ってわけで、勝負受けて返り討ちにした。
勝者の特権として娼館に連れてった。ククク……顔真っ赤にして出てきたクロスファルドを、アイビス、バルガン、メリーアベルと四人で出迎えてやったら、本気でキレて大暴れしやがった……さすがに命の危険を感じたぜ。
とまあ、これに懲りたら少しは俺の追っかけやめて欲しい。フツーに飲むならいくらでも付き合うからよ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……い、以上です」
「…………」
室内は静寂に包まれた。
クロスファルドは背中を見せ微動だにしない。
サーシャたちも、何を言えばいいのか迷っている。ハイセも何故こんなクソ文章を律義に最後まで読んでしまったのか、激しく後悔していた。
「……クソ、ノブナガめ。くくっ……あいつは、全く」
だが、クロスファルドは笑っていた。
ほんの少しだけ、声が上ずったような……涙を拭うような仕草をした。そしてハイセとサーシャに向き直り。
「こほん。さて、余計な手間を取らせたな。用事は……『破滅のグレイブヤード』の鍵だな。これだ」
クロスファルドは、重い鉄製の鍵をハイセに渡す。
ハイセはしっかり受けとり、全員が見ている前でアイテムボックスに入れた。
「さっそく行くのか?」
「いえ、今日は作戦や情報のすり合わせなどをして、明日挑みます」
「ふむ……なら、サタヒコ、アヤネを呼んでくれ。サーシャ、グレイブヤードのことなら、うちの五番隊隊長のアヤネが詳しい。きっと役に立つ」
「よ、よろしいのですか?」
「うむ。そうだな……宿屋で話すのも落ち着かんだろう。うちの空き家を提供するから、そこで話すといい。サタヒコ、世話してやってれ」
「はい、かしこまりました。じゃ、皆さんこっちへ……案内します」
「クロスファルド様、ありがとうございます」
サーシャはペコリと頭を下げ、つられるようにハイセも下げた。
クロスファルドは小さく頷き、柔らかな微笑を浮かべていた。
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