禁忌六迷宮/ハイセとサーシャの場合④
「ここは……」
サーシャたちが向かったのは、ノーチェスと戦ったさらに奥。
そこは階段になっており、金属に囲まれた広い部屋だった。
そこに、巨大な円形の扉があり、周囲が凍り付いている。
「凍っていますわね……」
「ね、ね……ここが、財宝のあるところ?」
「……素晴らしい」
「お、おいタイクーン……おま、泣いてんのか?」
タイクーンはハンカチで目元をぬぐう。
どうやら感動しているようだ。サーシャたちは、こういう時にタイクーンに話しかけると、延々と話し続けることを知っていたので無視。
近くに小部屋を見つけたので、中へ。
「ここは、休憩所か……」
「けっこう広いな。倉庫じゃなくて、こっちで休めばよかったぜ」
「こ、ここは……見ろ、この箱、このガラスの箱に文字が書かれている!! いや、ガラスに文字を映しているのか!? の、能力を箱に封じてあるのか!? す、素晴らしい……」
「サーシャ、やかましいからタイクーンを気絶させません?」
「ま、まぁ待て。タイクーン……ここが、ダンジョンの終わりなのか?」
タイクーンは涙を拭い、コホンと咳払いする。
「あの魔族、ノーチェスの話から推察するに、ここは『ショゴス・ノワールウーズ』の本体が封じられている場所だろう。あの扉を開けると、本体が飛びだし、ボクたちだけじゃなく、禁忌六迷宮全体、そして極寒の国フリズドをも覆うだろう」
「えぇぇ!? や、やばいよぉ~」
「封印を解放したら、の話だ。見ろ……あの中で、完全に凍り付いているようだ」
「で、財宝は? ここまで来て、本当に何もありませんの?」
ピアソラがムスッとする。
タイクーンは眼鏡をくいッと上げた。
「恐らく、何もない。本当に禁忌六迷宮は、『七大災厄』を封印するための檻だな」
「そ、そんな……」
「だが、道中で回収したダンジョンの魔獣素材などは高額で売れるだろう。それだけでも、クランを数年維持するだけの資金にはなるはずだ」
「うぅぅ……目に見える成果が欲しいですわ」
「おーい、お前ら!! こっち見てみろよ!!」
と、レイノルドが手招き。
部屋にあった小さなドアを開けると、分厚い金属の扉があった。
その扉を開けると……なんと、中から虹色に輝く宝玉が、大量に出てきたのである。
「これ、見たことない宝石だぜ。お宝じゃね?」
「レイノルド!! 私、初めてあなたを見直しましたわ!!」
「うぉぉっ!?」
なんと、ピアソラがレイノルドの腕に抱きつき、宝石を手に取った。
宝石を眺めるピアソラは、うっとりする。
「キレイ……これは、私とサーシャの婚約指輪に相応しい輝きですわね」
「おま、離れろっての。サービスしすぎだ」
「フン、お礼のつもりですから、勘違いしないように」
ピアソラはレイノルドからあっさり離れた。
宝石を全て回収し、ピアソラのアイテムボックスへ入れる。
そして、レイノルドはタイクーンに聞いた。
「なぁタイクーン……ダンジョン、どうやって閉めるんだ? ダンジョンコアを破壊しないと、禁忌六迷宮は残り続けるぞ。ダンジョンは、ダンジョンコアを破壊するか持ち帰るかして、初めて踏破したことになるんだぞ」
「わかっているが……正直、未知の部分が多い場所だ。ボクにもよくわからない。サーシャ、どうする?」
「むぅ……」
サーシャも悩む。
どうしたものかと悩んでいると、ロビンが『光る金属の箱』を眺めていた。
「綺麗な箱……それに、この四角いのいっぱい付いた板、なんだろ? 文字も描いてあるし、古代人って変なのばかり作ってたんだねぇ」
と、『Enter』を押した。
同時に、警報音が鳴り響く。
「な、なんだ!?」
「ロビン、何をした!?」
「え、え、え? えっと、この四角いの、触っただけで……」
『最終安全装置起動。最終安全装置起動』
「最終、あんぜん、装置……まさか!!」
タイクーンが外に出ると、扉から冷気が発生していた。
「まさか、凍結……ショゴスを再び凍らせているのか!?」
『凍結中。凍結中。凍結中』
すると、地面から『透明な筒』が現れた。
「へ、部屋が……誰かが喋っていますわ!!」
『作業員は直ちに脱出をお願いします。作業員は直ちに脱出をお願いします』
「脱出……そうか!! サーシャ、みんな!! ここは破棄される!!」
「ど、どういうことだよ!?」
「恐らく……いや、間違いない!! ショゴスを封印するための最終的な処置が行われているんだ!! その後、この施設は破棄される。ここは檻……そして、七つの災厄が誰の手にも触れられないようにするための処置をする場所でもあったんだ!! このタイミングで起動した『何か』……みんな、あの透明な筒に飛び込め!!」
「だ、大丈夫なのかよ!?」
「わからん!! だが、地上に出るまで何日もかかる。徒歩では戻れない!! この施設が破棄されるなら、古代人は脱出経路も用意したはずだ!!」
「す、推測にすぎませんわ!!」
「だがそれしかない!!」
「全員、行くぞ!!」
サーシャが走り出す。
ロビンが続き、頭をガシガシ掻いてレイノルドが、やけくそになったピアソラが。
そして、凍結する扉を見つめ、タイクーンが呟く。
「古代人……きっと、封じたはいいが、最後の起動ができないままだったんだ……」
そう呟き、透明な筒に飛び込んだ。
◇◇◇◇◇
「ぅ……」
『む……』
ハイセ、チョコラテの二人が眼を開けると……そこは、森の中だった。
筒の中に入ると、眩い輝きと浮遊感に包まれた。そして、十秒もしないうちに、森の中だ。
意味が分からず、ハイセは周囲を見る。
すると、すぐ近くに森の出口があり、二人で出た。
森を出ると、そこにあったのは───……。
「な、なんだ、これ……」
『おぉぉ……』
デルマドロームの大迷宮。
地上にあった遺跡が陥没し、底の見えない『大穴』になっていた。
迷宮の消滅。
つまり───……ダンジョンのクリアである。
「…………終わった、のか?」
『…………』
「おい、どうした?」
『いや……』
チョコラテは、デルマドロームの大迷宮跡地を見て、目を閉じていた。
大迷宮で生まれ、これまで生きてきたのだ。あのダンジョンはチョコラテの故郷でもある。
それが、目の前で消えた。
「……もう二度と入れないだろうな。それに、ヤマタノオロチだっけ? あいつも凍結して、地の底だ」
『ああ』
「……」
ハイセは、久しぶりに戻った地上の空気を胸いっぱい吸う。
そして、チョコラテに聞いた。
「お前、これからどうする?」
『…………我は、決めていたことがある』
「俺に付いてくる、ってのは却下だぞ」
『違う。我は……旅に出たい。ダンジョンから出て、外の世界を見てみたい。お前と過ごすうちに、そう思うようになった』
チョコラテは、兜を脱ぐ。
素顔を晒し、ハイセに跪いた。
『ハイセ。お前に出会え、我は世界を知ることができた。ありがとう』
「バカ。知るのはこれからだろ……ほれ」
ハイセは金貨袋を取り出し、チョコラテに渡す。
『金、だったか』
「使い方はわかるよな」
『ああ』
兜をかぶり、剣を差し、盾を背負い、槍を背負う。
肌の露出が一切ない。誰も、チョコラテがゴブリンとは思わないだろう。
旅の冒険者。または、傭兵。
『さらばだハイセ。また会おう』
「ああ。またな」
チョコラテは、歩き出す。
その背を見送り、ハイセも歩き出した。
チョコラテがどんな冒険をして、どんな出会いをするのか。それはチョコラテの物語であり、ハイセには関係がない。
ハイセは振り返ることなく、町へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
町に戻る途中、大勢の冒険者とすれ違った。
当然だ。デルマドロームの大迷宮が崩落……つまり、クリアされたのだ。
歴史に名が残る快挙だ。一体誰が?……その疑問は、ハイセがディザーラの冒険者ギルドに戻った時、解決した。
「は……ハイセ!? まさか、おま……お前、なのか?」
ギルドマスターのシャンテが、信じられない物を見るような目でハイセを見た。
ハイセは頷き、言う。
「S級冒険者『
「…………っ」
シャンテは、フラフラと後退り、カウンターに手を付いた。
そのシャンテを押しのけ、『巌窟王』のクランマスターであるバルガンが前に出る。
「やったのか」
「ああ。っと……証拠は、これと」
ポケットから、虹色の宝玉を出す。
そして、アイテムボックスから『ヤマタノオロチ・ジュニア』の首をドンと出した。
ギルドの受付前のスペースが埋まるほど大きな生首に、冒険者たちが驚き、後退り、恐怖し、興味津々といった感じでハイセを見る。
「なっ……」
「ダンジョンボスだ。こいつを倒したらダンジョンが消滅した」
「……先程、デルマドロームの大迷宮が崩落した。お前がやったんだな?」
「ああ。踏破した」
「……すまん。まだ現実を受け入れられなくてな。シャンテ」
「あ、ああ……で、こ、これは? う、売るのか?」
「ああ。あと四つあるから、一つはギルドに寄付するよ」
「きふ……き、寄付?」
「ああ。デルマドロームの大迷宮が崩落した迷惑料だ。あそこ、観光地みたいだしな」
「…………そ、そうか」
反応がぎこちない。
まだ、禁忌六迷宮が攻略され、踏破されたことを受け入れられないようだ。
ハイセは大きく伸びをして、シャンテに言う。
「じゃ、今日は帰るよ。さすがにくたびれた」
「……あ、ああ」
あまりに強烈な驚きだと、困惑のが強い。
ハイセはそんなことを思いつつ、冒険者ギルドを出た。
そして、その足で、迷宮に入る前に使っていた宿へ向かう。
すると───……宿の前に、人がいた。
「……あれ、お前」
「…………」
エルフの少女だった。
弓を背負い、砂漠の国なのに肌が真っ白。誰が見ても美少女と言うであろう容姿。
プレセア。
ハイセが最後に会った時よりも、髪が伸びていた。
プレセアは、ハイセを見るなりスタスタと近づいてくる。
「お前、なんでこの国っぶぁ!?」
そして、思いきりビンタした。
いきなりのことで反応できなかった。
「サーシャに変な依頼をして、私を気絶させた分はこれでチャラにするわ」
「お、おま……な、なにしやが」
そして、ハイセが文句を言う前に───……プレセアはポロポロ涙を流し、ハイセに抱きついた。
「死んだかと、思った……」
「…………」
「バカ、バカ……あなた、馬鹿よ」
「離せ。目立つだろうが」
「…………部屋、行く?」
「ああ。眠い」
プレセアから離れ、ハイセは宿へ。
自分の部屋を取ると、そのままプレセアが来る前に入り鍵をかけた。
「……ちょっと」
「悪いな。眠いから寝るわ。ベッドなんて久しぶりなんだよ」
「私も一緒でいいわ」
「嫌だ。入ってきたら気絶させるからな。じゃ、おやすみ」
「…………ばか」
プレセアは隣の部屋へ入ったようだ。
ハイセはベッドに寝転がり、小さく呟いた。
「心配してくれて、ありがとな……おやすみ」
この日、ハイセはぐっすりと───……半年ぶりに、熟睡した。
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