禁忌六迷宮/ハイセの場合⑤

 ハイセは、自動車の屋根に座って拳銃を弄ぶ。

 目の前に座るのは、カオスゴブリン。

 拳銃を突きつけ、ハイセは言う。


「じゃ、知ってる事を話せ。嘘ついたり、時間稼ぎだって俺が判断したら、容赦なく撃つ」

『あ、ああ……』


 カオスゴブリンの腕には、包帯が巻いてある。

 ハイセが投げ渡し、カオスゴブリンが自分で巻いた。

 仲間を殺された恨みはない。あるのは、死への恐怖だった。


『ここは、デルマドロームの大迷宮……と、人間たちは言っている。だが、本当は違う……ここは、かつて魔族が住んでいた地。魔族が『イセカイ』と呼ぶ地だ』

「イセカイ……」

『ああ。大昔、我々のような魔獣、お前のような能力を持つヒトがいない時代に、この地に住んでいた者たちだ。高度な文明を持ち、平和に暮らしていたそうだ』

「へぇ……タイクーンが聞いたら喜びそうだ」

『だが、大昔……ツナミという現象により、全てが崩壊した。そして、この地が砂に埋まり、独自の生態系が築かれ、魔族たちが目を付けた。魔族は、この地の文明を研究し、自分たちの住む地で再現しようとしている。魔族の文明レベルが人間より高いのは、そのせいだ』

「なるほど。で……? ここ、どうやってクリアできる?」

『こ、ここは地下六百一階層。あと百ほど下に降りれば、『テーマパーク』とかいう、魔族たちが住んでいた町がある。そこに、魔族が残した財宝がある。それ以上の下は、ない』

「あと百……!! それは朗報だな」

『ああ。だが……ここから下の階層は地獄だ。長くここに住んでいるオレでも、下にはいかない。下には、地上にいる魔獣とは桁が違う、強大な強さを持つ魔獣がウヨウヨいる』

「ふぅん……」


 ハイセは、デザートイーグルのマガジンをチェックし、スライドを引く。


「一つ、確認する。俺はお前の仲間を殺したけど、恨んでるか?」

『恨んでいない。仲間と言うか、種族が同じなだけだ。お前たち人間だって、知り合い以外の人間が死んで悲しむか? たまたま傍にいた者が死んで涙を流すか?』

「…………」

『たまたま、人間の匂いがしたから、同じ場所に集まっただけだ。ここは住みやすいからな』

「そっか。じゃあ、わかった」


 ハイセは立ち上がる。

 そして、カオスゴブリンに言う。


「情報感謝する。もう行っていいぞ」

『……お前は、どうするのだ?』

「下層を目指す。あと百なら、五十……いや、三十日くらいで行けるかな」

『ほ、本気なのか!?』

「ああ。ここを制覇するのが、俺の目標だ」

『……っ』


 ハイセは、酒瓶を一つだし、カオスゴブリンに渡す。


「金あげてもしょうがないし、お礼にやる。地上の酒、美味いぞ」

『…………』

「じゃあな」


 そう言い、ハイセは下層へ向かう。

 すると、カオスゴブリンが言った。


『ま、待て!! ええい……わ、我も同行する。多少なり、ここの知恵はある』

「いや、いい。俺はソロで行きたいし」

『まま、待ってくれ!!』


 ハイセは、下層に向かって歩きだす。

 カオスゴブリンは、ハイセの隣に並んだ。


『待ってくれ。同行させてくれ』

「なんでだよ。俺、お前の同族を殺したんだぞ」

『気にするな。それより……あんたに興味がわいた。ぜひ、同行させてほしい。オレが裏切るようなら殺してかまわん』

「はぁ?」

『頼む。くくっ……もしかしたら、この階層より下に進めるかもしれん。同族のいない階層を目指して、進んでみたい』

「……変な奴」


 ハイセは無視し、歩きだす。

 ちょうど、下へ向かう階層を見つけた。


『待ってくれ。名前、名前は』

「ハイセ」

『ハイセ。いい名前だ。では、向かおうぞ』

「……本当に、変な奴」


 こうして、ハイセにカオスゴブリンが同行することになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る