禁忌六迷宮/ハイセの場合①
砂漠の国ディザーラ。
熱線のような日差しが常に差し、夜は逆に凍り付くような寒さ。
家には暖炉が当たり前のようにあり、魔石を燃やし暖を取る。
ハイセは、ディザーラの宿を取り、禁忌六迷宮の一つ『デルマドロームの大迷宮』について情報を集めた。
冒険者に聞いたり、冒険者ギルドの図書室で調べたり。
十日ほど調べ、集めた情報を整理する。
「デルマドロームの大迷宮。噂では砂漠にある巨大遺跡って話だったけど……その通りだな」
ディザーラの南にある、砂漠のど真ん中に存在する巨大遺跡。
かつて、この地に住んでいた『魔族』が治めていた大国家。魔界の財宝という財宝が集められた宝物庫には、想像を絶する『お宝』があるという。
だが、一度入ると二度と戻れない。
現四大クランの一つ、ドワーフたちの集団である『巌窟王』のクランマスターが率いたチームでも、攻略できずに撤退したという経緯がある。
過去、撤退が出来た冒険者チームは『巌窟王』だけ。
「『巌窟王』のクランマスターに話を聞きたいけど……」
実はハイセ。ディザーラに到着してから、冒険者ギルドを経由して『巌窟王』のクランマスターに会いたいと打診をした。が……未だに返事はない。
ディザーラに来て十日。そろそろ、出発したい。
窓の外を見ると、綺麗な夜空が輝いている。
窓を開けると冷たい風が部屋に入り、暖炉の火が揺れた。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
ハイセは冒険者ギルドへ行くと、ディザーラ・冒険者ギルドのギルドマスター、元S級冒険者『
「来たわね、ハイセ」
「え、あ……はい」
『女氷』のシャンテ。
『氷』の能力を持つ二十九歳。冒険者を引退して四年経ち、引退の理由が『婚活する』ためという、なんともいえないギルドマスターだ。腕の立つS級冒険者によく求婚してはフラれていることから『求婚』のシャンテという二つ名まで付いていた。
長い水色のポニーテール。褐色に焼けた肌が健康的で、引き締まったスタイルは魅力的だ。顔立ちもよく、唇がぷっくりしているのがまた美しい。
シャンテが歩くと冒険者たちが道を譲る。二十九歳という年齢は、冒険者にとって一番脂の乗った年齢であり、経験、実力が充実した時期でもある。引退したシャンテは、今がまさに冒険者としてベストコンディションなのは間違いない。
「『巌窟王』のクランマスターと連絡取れたわ。あなたに会ってもいいって」
「本当ですか!?」
「ええ。クランの場所、わかる?」
「ええと……」
「仕方ないわね。私が案内してあげるわ!!」
「え」
ハイセの肩をガシッと掴むシャンテ。
すると、近くにいた冒険者たちがヒソヒソ言う。
「なぁ、ギルマスのやつ、『巌窟王』のクランマスター狙ってるってマジなのか?」
「マジみたいだぜ。クランマスターに用事あるなんてS級冒険者、滅多にいないしな。こんな美味しいチャンス、逃すわけねぇだろ」
「さっすが『求婚』のシャンテ……『ハイエナ』のシャンテでもいいんじゃね?」
次の瞬間───噂話をしていた冒険者二人の足下に、鋭い『氷柱』がビギィン!! と立った。
その先端が、冒険者の喉元まで迫ったところで凍結が止まる。
シャンテが、ニコニコしながら言う。
「何か言った?」
「「何でもありません!! すみませんでしたぁぁぁ!!」」
冒険者二人は下がり、土下座した。
ハイセも青くなる。シャンテに掴まれた肩が、少しだけ凍り付いていたのだ。
「じゃ、案内してあげるわ」
「お、おねがいします……はい」
ハイセは、シャンテだけは怒らせないようにと気を引き締めた。
◇◇◇◇◇◇
砂漠の国ディザーラ。
城下町の一角に、『鍛冶工房区』という、鍛冶を生業とするドワーフたちが住む区画がある。
ここに住むのは、全員がドワーフであり、全員が冒険者。
そう、この区画全てがクラン『巌窟王』だ。
「区画を丸ごと、冒険者クランのホームに……」
「正確には、ディザーラ王国が、クラン『巌窟王』のクランホームを取り込んだのさ。数百年前まで、ディザーラ王国には『鍛冶工房区』なんてなかったらしいからねぇ」
「へぇ……」
ハンマーと鉄の音が響き、周りには職人たちが闊歩している。工房だけではなく、武器防具屋も多くあり、それと同じくらい酒場も多い。
ハイセとシャンテが向かったのは、鍛冶工房区の最奥にある、一番古くて大きな建物へ。
そこには『バルガン工房』と書かれた、古い看板があった。
「ここが……」
「さ、行くよ」
「あ、はい」
シャンテが工房のドアをガンガン叩き、ドアを開ける。
ドアを開けると、とんでもない熱気が噴き出してきた。シャンテが手をかざすと、冷気が発生して中和される。
そのまま中に進むと、鍛冶場に一人の男性がいた。
「バルガン。この子が、あんたに話があるんだって」
「…………」
バルガン。
身長二メートル。体重は百キロを超えているだろう。
筋骨隆々で、身体中に傷があり、顔半分に引き裂かれたような傷があり、片目が完全につぶれていた。
真っ赤な髪は逆立ち、残った眼でハイセをジロリと見る。
「用件は」
いきなりだった。
しかも、渋い声。
背後にある炉の炎が黄色く燃え、ジリジリとした熱気が背中を焼いている。だが、本人は汗も掻かず、全く気にしていない。
ドワーフと聞いたが、身長二メートル超えのドワーフなんて、ハイセは聞いたことがなかった。
ハイセは言う。
「あなたが、デルマドロームの大迷宮に挑んた時の話を聞かせて欲しい」
「帰りな」
「……は?」
「ガキには無理だ」
「…………」
それだけ言い、バルガンはハイセに背を向けた。
「お、おいバルガン!! 話を聞くんじゃ」
「ガキに話すことはない。スタンピードを止めたS級冒険者と聞いていたが……つまらん、ただのガキだ」
「…………ああ、そうですか」
ハイセも背を向けた。
「シャンテさん、帰ります」
「は、ハイセ? いいのか?」
「ええ。よく考えたら、ダンジョンから逃げ帰った臆病者の話なんて、聞く価値なかったです」
「…………何?」
「俺、明日にでもデルマドロームの大迷宮に挑みます。すみません、こんなくだらない時間使わせちゃって。いやはや、本当に時間の無駄だった」
「おい、ガキ……今、何て言った?」
「うるせえぞ臆病者。お前の話なんて聞く価値ないね」
「このガキ……」
バルガンが立ち上がり、傍にあった槌を手に取る。
ハイセはデザートイーグルを抜き発砲。バルガンの槌の木製部分が砕け散った。
「これ以上、余計な時間取らせるな。同じ四大クランのマスターでも、アイビスさんとは全然違うな。あの人は、俺のことを子供扱いしなかった。俺のことを最初から子供だって決めつけるあんたなんかに、聞く話なんてない」
今度こそ、ハイセは鍛冶場を出た。
◇◇◇◇◇◇
「すみませんでした……」
「いや、私はいい」
帰り道、ハイセはシャンテに謝った。
せっかく話の場を設けてもらったのに、何も話せなかった。
むしろ、喧嘩を売ってしまった。
ハイセがクランに所属しているなら大問題だが、フリーなので辛うじて問題はないのが救い。
「勘違いしないでほしい。バルガンは……禁忌六迷宮の恐ろしさを知っている。だからこそ、お前を突き放したんだ」
「ただガキ扱いしただけみたいな気もしますけどね」
ハイセは深呼吸し、怒りを鎮めた。
「明日、デルマドロームの大迷宮に挑みます」
「……長期になるぞ。バルガンのチームが大迷宮に挑み、ダンジョンから出てきたのは四か月も経過した後だったと聞く」
「大丈夫です」
物資は山ほどある。
禁忌六迷宮の一つ、『デルマドロームの大迷宮』
いよいよ、ハイセは夢に向かって突き進む。
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