第10話:王都1日目(2)
メイドさんに注意された後、昼食が出来たと呼ばれてご飯を食べて再び自室に戻る。しかし魔力を流しただけで怒られるとは。心なしか他の使用人たちもソワソワしていた気もする。今後は気を付けないと。
「卵は一旦置いておくとして・・・んー、錬金人形でも組み立てるかなぁ。」
さっきみたいに魔力云々とか言われると面倒なので、テーブルとかソファを壁際に寄せて魔法テントを展開。その中にある錬金部屋で作業を行う。錬金部屋にはフラスコとかビーカーとか理科室で見たことあるような道具が沢山並んでいる。今回の組み立てで使うかはわからないけど。
まずは人形を倒した時に手に入れた各パーツと錬金人形の本を取り出す。そして錬金人形の本を読んで組み立て方を確認する。まず組み立てに必要なのは人形のパーツ(手、腕、足、脚、胴、腰、頭)とコアとなる物。魔石はもちろん、ゴーレムのコアでもいいとのこと。
「ゴーレムのドロップってコアになるかな?」
ふと、綺麗な水晶玉をドロップしたことを思い出して取り出す。使えなければ普通の魔石を使えばいい。
次に、パーツが用意できたらそれらに対して錬金魔術の一つ“指定刻印”を使用してパーツの指定を行う。ここは右腕とかこれは左腕とかを指定するための魔術のようだ。これの魔術式も本に記載されているので、これを元に実践すればいいだろう。ただし、パーツごとに使用する魔術が異なるので注意が必要だ。ここを間違えると、右腕と左腕が逆になるとかそういうことが起こってしまう。しかもこれ全部七文字の超級魔術に分類される。地味に難易度が高い。
「んー、これは時間かかりそう。とりあえず錬金魔術の“指定刻印”の練習はしようか。ぶっつけ本番は怖いし、いま魔力も少ないからね。」
使えないことはないが、ぶっつけ本番はやはり不安なので、適当な魔石を取り出してそれに刻印魔術を使用していく。
それにしても人形を組み立てるのに7文字の魔術が必要とは思ってなかった。魔力消費もそれ相応に多いし、これ結構大変だな。とりあえず卵に魔力流すのは夜寝る前にして、昼間は色々と作業するのに使おう。
「することなくなったし・・・寝ようかな。」
練習しているうちに、魔力が少なくなってきた。丁度眠かったので、私は寝室に行き、ベッドにダイブして眠りについた。
―――side.ウォート視点
「お久しぶりです。ウォート様。」
「うむ、久方ぶりじゃな。実に三年ぶりかの。」
稀代の天才魔術師である儂、ウォート・クリムゾンは3年ぶりに王都に戻ってきた。久しぶりの帰還ということで、活動報告と称して王城内にある魔術師団の基地に顔を出しに来た。まだ三年しか離れていないというのに、随分と懐かしく感じるの。師団長のザックも少し老けたように見える。何かと苦労しておるようじゃな。
「えぇ、なんでも弟子をとったとか。どういった心変わりですか?皆驚いていましたよ。今まで誰も取らなかったのに!って。」
「まぁ、成り行きじゃ。それよりも儂の活動報告はいらんのか?いらぬのならとっとと帰るが。」
「おおっと、それは困ります。と、その前に協会の組合員を呼ぶので少々お待ちいただけますか?」
「む、魔術協会の者も来とるのか。わざわざ向こうに出向かなくて済むなら同時に済ませてしまおうかの。」
どうやら魔術協会の連中も来ているらしい。そういえば、ちょうど今くらいの時期に魔術の認定試験を行っておったな。それでか。
「お待たせしました。魔術協会の組合員を連れてきました。」
「初めましてウォート様。魔術協会の賢者、ハルトと申します」
「ほう、賢者とな。そういえば1年ほど前に新たな賢者が産まれたとかいっておったな。お主がそれか。」
賢者といえば、魔術協会の最高幹部達の二つ名。魔術という一点においては特級魔術師以上の実力者じゃ。ま、儂はそれよりも凄いがな。にしても想像以上に大物が来たの。最高幹部がここに来るとは珍しい。何かあったのかの?ま、儂が気にすることではないか。
「えぇ、それが私です。かの“クリムゾン“にあえて光栄です。今後ともよろしくお願いいたします。」
「そういうつもりがないのはわかるが、賢者のお主がいうと嫌味に聞こえるのぉ。ま、なんでもよいわ。お主たちからの依頼報告もあるからな。はよ座れ」
「えぇ、そうしますよ。で、魔境はどうでしたか?」
「うむ、相変わらず魔境は魔境じゃったな。ダンジョンも100くらい潰したから、向こう5年ほどは魔境から魔物が溢れることはないじゃろ。」
「ダンジョンを100も・・・!噂には聞いてましたが本当に凄いのですね。」
「かっかっか!まぁ、今回は色々と準備しておいたからの。楽に攻略できたわい!」
「しかしそれでも5年ですか・・・。結構厳しいですね。」
「まぁ、だからこそ魔境というのじゃがな。今回は事が事なだけに儂が出たが、今後はお主たちで何とかしてくれ。それよりもほれっ。お主たちの依頼で作った魔境にいるう魔物の一覧じゃ。特徴も一緒に書いてるぞ。あと魔物の死体はこのマジックバックに入っとるから、好きに分配するとよい。」
儂は懐からマジックバックを30個取り出す。これに入っとるのは全部魔物の死体じゃ。各種魔物を一体ずつ入れただけなのに、それだけでマジックバック30個がパンパンになるとか、魔境の魔物は数多すぎじゃろホントに。畑と違うんじゃぞ。
「それと、魔術協会にはこれじゃな。ダンジョンコア。依頼通り規定のサイズを10個取ってきたぞ。コアを壊さずに回収せなあかんから大変だったわ。ちゃんと報酬は用意しとるんじゃろうな?」
「おぉ、ありがとうございます。もちろん用意しておりますよ。こちらが竜玉です。」
組合員が取り出した竜玉は、神聖な雰囲気がありつつも何物も寄せ付けない圧のようなものを発しておった。
「ほう・・・これがか。結構な無茶を言ったつもりじゃったが、まさか本当に用意してくるとはの。さすが魔術協会といったところか。」
「こちらとしてもかなり無茶を言った自覚はありますからね。これくらいでないと釣り合わないだろうと、賢者も竜を探しに加わりましたからね。」
「かっかっか、あの偏屈爺どもも動いたか。ならまぁ、頑張ったかいがあったかの。」
”流石にそれは無理!”とかなんか適当な理由をつけて、グレードを落として数を用意してくると思っていたのじゃがな。そこを突いて、ダンジョンコアで何をする気なのか聞き出そうと思ってたのじゃが、いい意味で予想が外れたの。
「あぁ、そうじゃ。黒いモヤを体から出した魔物を見かけたが、こっちではどうじゃった?光属性以外の攻撃が一切効かないというやつなのじゃが」
「魔術ではなく攻撃が・・ですか?こちらでは聞いたことないですね・・・。」
「協会でも聞いたことないですね。少し調べる必要がありそうですね。」
「そうですね。特定属性の魔術が効かないならともかく攻撃が通用しないとなると、対策を用意しないと街が潰れる可能性もありますね。」
「街どころか、国が亡ぶ可能性だってあるぞ。この3年で100体近くみたからのぉ。どれもダンジョン内じゃったからよかったが、あれが外で湧いたら大変じゃぞ。普通の魔物は光属性なんぞ扱えんから、そいつだけがどんどんと肥えて強くなってくからのぉ。早く対抗策を講じないと本格的にまずいことになるぞい。」
「あぁ、魔物同士の争いもありますからね。証拠となる魔物はいますか?」
「今しがた団長に渡したマジックバックに入っとるぞ。モヤが出てたやつはマーク付けとるから、直ぐにわかるじゃろ。」
「そうですかありがとうございます。」
「さて、報告は以上じゃ。儂は帰るぞ。」
「おっと、少しお待ちいただけますか?」
「なんじゃ、まだ何かあるのか」
報告だけとっとと済ませて帰りたかったんじゃがの。師団長殿はまだ何か儂に用があるらしい。地位を得ると自由になるが、その分面倒ごとが飛んでくるのも嫌になるのぉ。なんとなくでアンナを弟子にしたが、あいつを正式に儂の後継として育てて、この辺の面倒ごと押し付けようかの。そしたら儂も魔術の研究に専念できる。・・・うむ、そうなるよう動くのがよいかの。
「こちら、陛下からの招待状です。」
「招待状?何のじゃ。」
「つい先日、新たな特級魔術師が産まれたので、あなたが帰ってくるタイミングでパーティを開くことになりまして。あなたにも是非参加してほしいと。」
ほう、賢者だけでなく、特級魔術師も新たに産まれたのか。そろそろ世代交代の時期ということかもしれんの。
「儂行く必要あるかの?もう80なんじゃが?老体はいたわって欲しいのぉ。」
「ダンジョン100個潰してきておきながら何をおっしゃるのですか。肉体も精神もまだまだ若いではないですか。英雄クリムゾンはまだまだ現役ですよ。」
「その名はあまり好きじゃないんじゃがな。はぁ~、ま、奴の顔を見に行くには丁度いい機会じゃな。受け取っておこう。」
仕方ない。ついでに弟子も連れて行って、儂の後継じゃとアピールしておくかの。面倒ではあるが、いい機会じゃろ。
「ありがとうございます。ところで弟子が出来たとか?」
もうその話を聞きつけたか。それを聞かれる前に帰りたかったのじゃが・・・。ふむ、聞かれたついでじゃ。あれの自慢でもしようかの。儂が一通り読んでから自慢する予定じゃったが、今ここで自慢してこやつらと弟子のパイプを作り、儂の後継じゃと言うのもありじゃな。そうすれば儂ではなく弟子の方に目がいくじゃろ。
「うむ、まぁ成り行きでの。といっても弟子にしたのは先日じゃから、まだ何も教えとらんがな。」
「ほう、どのような方なのですか?私も気になりますね。」
「そうじゃなぁ・・・古式魔術の使い手・・・。それも八文字を実践で使えるレベル・・・と言えばいいかの」
儂がそういうと、二人とも大きく驚いた顔をしおる。儂の期待通りの反応じゃな。ま、驚くのもわかるわ。古式魔術を実践レベルで使えるなど、儂だって聞いたことないしの。せいぜいが一文字か二文字で、それ以上の魔術は殆ど記録がないからの。
「そ・・・それは凄いですね。どうやってそのような方を見つけたのですか?」
「たまたまじゃな。日頃の行いが良かったんかの?かっかっか!」
さすがにテレポートに失敗して湖に落ちて助けられたとか、そんなことは言えんわ。
「で、実際はどんな方なのですか?さすがに古式魔術の使い手など信じられません。」
ハルトの坊主は儂のことを疑っているようじゃな。まぁ、たとえそれが儂の口から出たものだとしても、そうそう信じられるものではあるまい。ザックは儂のことをよく知っているから大いに驚いているがの。では、ここで切り札を出すとしよう。
「ほれ、これが弟子が持っていた本じゃ。」
今度こそ二人とも大いに驚いたようじゃな。そりゃそうじゃろ。こんな完璧な状態で古式魔術の本が見つかったことなどないしの。これが本物である証拠に、現代でも再現できない刻印がされておる。魔法具で刻まれたとされるが、その現物も見つかっておらんから、結局なにもわからずじまい。その完全版じゃ。魔術師で驚かない人なぞおらんわ。・・・まぁ、写しなんじゃがの。さすがに弟子の本をかすめ取るほど落ちぶれとらん。刻印自体は本物じゃから嘘はいっとらんしええじゃろ。
「こ・・これは間違いなく本物ですね。これをあなたの弟子が?」
「そうじゃの。そういう本を何冊も持って居るのぉ。」
「あ・・・あの!それらの写しを提供いただくことは可能ですか!?」
「魔術師団としては、写しを頂きたいのもそうですが、当人に教えていただきたいですね。」
予想通り食いついてきたのぉ。まぁ、当然か。現代の魔術の基礎となった魔術じゃ。魔術師でこれに興味を持たんやつなぞおらん。もしそんなのがおったらそやつはアホじゃな。
「まぁ、それは報酬次第じゃろ。原本を持ってるのは弟子じゃからな。本人に直接交渉してくれ。」
「その場を設けていただけると思ってもいいですか?」
「・・・まぁ、儂にも予定があるからの。先のパーティもしかりじゃが、色々とあるのでな。なるべく早い方がいいの。」
儂も早くあれの研究に手をつけたいからの。面倒なことはさっさと済ませておきたいものじゃ。
「・・・では、今日の夜、食事会をしませんか?我々とあなたの弟子も含めての食事会です。」
ザックがそう提案し、ハルトの坊主もそれに頷いた。早くても明日の夜かと思っておったが、これの価値をしっかりとわかっておるようじゃな。
「ほう、まぁよいだろう。では、弟子にもそのように伝えておこう。場所はお
主らで用意しとくれ。じゃ、儂は帰るぞ。場所が決まったら伝えてくれ。でわな」
「はい、また後程。」
かぁ~、それにしても疲れたのぉ。仕事の話はいくつになっても面倒で疲れる。さて、帰って弟子がもって来た本を読むか。最近はあまり面白いものがなかったからの。楽しみじゃわい。
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