TS転生した少女は賢者になるようです。

雪乃大福

第1話:TS転生したようです

「ん・・?ここは・・・?」


 目が覚めると見覚えのない石の天上。洞窟のような感じ。昨日はオフ会に行ったはずなんだけど何でこんなところに?たくさん飲んだのか昨日の記憶があまりない。状況から察するにどうも酔っぱらって変なところで寝てしまったらしい。

 硬い地面で寝ていたせいで身体が痛い。かなり酷い酔い方をしたようだが、二日酔いがないのは幸運だ。


 石の寝台から身体を起こして辺りを見回すと、今いる場所は洞窟にある小部屋といった感じだった。小部屋には本がぎっしり詰まった棚と石で出来た机に椅子。机の上には一冊の本が置いてある。扉などはなく、他の場所に繋がると思われる通路が一つある。


 とりあえず外に出て場所を確認しようと体を起こす。すると普段よりも身体がやたらと軽い。まるで別人のような感じだ。足元を確認しようと視線を下に向けると胸辺りに謎のふくらみが。ついでに服もボロボロというか殆ど着てないようなものだった。


「ん・・・???」


 何だこれと思って試しに触ってみるとおっぱいとしか言いようがない感触。嫌な予感がして股間に手を伸ばすとあるはずの物がなかった。


「は・・・はああああああ!?!?!? えっ、なっ、なにこれ!?声も変わってる!?!?」


 あまりに信じられなくて、何度も身体のあちこちを触ったり、夢でないかと頬をつねってみたり、色々声を出してみるも何も変化がなく、しばしその場に立ち尽くしていた。


「はぁ・・・何がどうなってるんだ・・・顔が見えないからよくわからないし・・・。あとなんか胸にタトゥーも入ってるし。とりあえず外出よう。」


 今後どうしようとか色々と考えないといけないことはあるが、それらは一旦家に帰ってから考えよう。部屋を出て通路を進んでいくと、明らかにヤバそうな爆発音が聞こえてくる。それも一度ではなく何度も爆発しているようだ。明らかにヤバい雰囲気だが、状況を確認しないことには今後の方針も決められないので、震える足を抑えて外を確認しにいく。


「っ・・・!!」


 通路を進んだ先にあったのはやたらと広いドーム状の広場。その中で真っ白なドラゴンと真っ黒なオーラを漂わせた巨大な狼が戦っていた。思わず叫び声を上げそうになるが、口に手を当てて必死に抑える。目の前で繰り広げられる戦いに恐怖して身体が硬直する。そうして動くことも出来ずにいる間もその二体は戦い続け、やがて奥の通路へと消えていく。


 チョロロ・・・


 その場を支配していた恐怖が消えたことで力が抜け、漏らしてしまう。


「はぁ・・・はぁ・・・し・・死ぬかと思った・・・」


 しばらくその場に座り込み、息を整える。動けるようになったところで、急いで部屋に戻る。


「ふぅ、本当に死ぬかと思った。というかアレなに。ドラゴンもありあえないし、それと戦ってる狼もやたらデカいし。ゲームの世界に転生したとかそういうやつ?・・・まさかね・・・」


 試しにステータスオープンと呟いてみると、ステータス画面が表示された。


「まじかよ・・・」


表示されたステータスはこうなっていた。



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ステータス


名前:アンナ・セリーニ

職業:無

種族:人(?)

レベル:1

ランキング:未実装


HP体力:50/50

MP魔力:100/100

VIT生命力:30

MND精神力:70

DEX器用:500

AGI敏捷性:20


スキル:無

称号:奴隷

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 いや本当に出るとは思わなかった。しかもこの名前、確か来月発売の世界初フルダイブVRMMO『アナザーワールド』に登場するキャラじゃなかったっけ。どこに行ってもこの広告を見かけたから覚えている。設定ではどっかの国の王女様だったはず。てか奴隷ってどういうこと?あとDEX器用だけ異常に高いような??まぁ、よくわからないから気にしても仕方ないか。


 とりあえず、ここがそのゲーム世界っぽいことはわかった。もしかして記憶にないだけ泥酔してる間にβテスターに応募して参加していたとか・・・?そんなことある?でも異世界転生とかよりはまだ現実味があるよあなぁ。異世界転生はそれはそれでロマンあるけど、死んだとかは考えたくないし、何より日本に帰りたい。


 とにかくここがゲーム世界ならログアウトとかGMコールとか出来るはず。


 そう思い、メニューオープンとかログアウトとかGMコールとか、登録されてそうな単語を色々と呟いてみるが何も起こらなかった。



「・・・マジ?え、βテスターとしてログインしたとかそういうのじゃなくて、マジの転生?しかもTSして!?嘘でしょ!?」


 TS転生の可能性が高くなり、日本に帰れないかもしれないと考えると頭が痛くなってきた。勘弁してほしい。


「はぁー。まぁ、落ち込んでてても仕方ない。とりあえずここから出ることを考えよう。まずは・・・服脱ぐかぁ。着替えはないけど。」


 汚してしまった下だけ脱ぐ。まるで変態みたいな恰好になっているが、誰もいないからいいでしょ。もしかしたら魔法とかで綺麗にできるかもしれないからこれは取っておく。何もないよりはマシ。


 服脱いでやっと気が付いたけど、服の丈が異様に短かった。本当にないよりはマシかな程度でエッチ目的の服なんじゃないかって感じ。上もよく見ると胸の下くらいまでしか丈がなくて、首元もがっつり出ているから本当に酷い。スラムの娼婦でもここまで酷くないぞ多分。



「さて、まずはこの机の上にある本を読むか。多分チュートリアル的なやつがこれなんじゃないかな。てかそうであってくれ。頼む。」


 とりあえず余計なことは考えず、机に置いてあった本を手に取って読み始める。



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<ダンジョンクリアのために>

 このダンジョンのどこかに存在する4つの鍵を集め、ダンジョンボスを倒しましょう。攻略すると豪華な報酬を得ることができます。是非頑張ってください。


 当然ですが、死んでも蘇るとかはありませんので慎重な行動を推奨します。


 本棚にある本は魔術・魔法関連となっています。このダンジョンでは、これらの本に書かれている技術を使えることを前提とした難易度になっていますので、しっかりと練習しましょう。目安としては最低でも超級魔術の一つを使用でき、上級魔術程度は楽々使いこなせてようやくスタート地点と言った難易度です。

 

 食料はアイテムボックスの中に肉を定期的に支給しますのでそれを食べてください。


 一つ注意として、火属性・・・火に関する事象はこのダンジョン内では起こせません。無理に起こそうとすると死にますよ。


 では頑張ってください。

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 本を最後まで読み、内容を呑み込めずにボーっとしていると、本が光の粒子となって消え、いつの間にか左腕に腕輪が付いていた。


 「・・・はっ!?何が起こったの!?」


 何かいきなりダンジョンがどうこう魔術・魔法がどうこう言われた気がする。そしていつの間にか左腕に腕輪がついている。


 「えーっと、何だっけ。ダンジョン内にある鍵を集め、ボスを倒すことでダンジョンクリア?蘇るとかはなし。魔術・魔法の資料が置いてあるから、それ使ってしっかり学べ?アイテムボックスに肉やるから、食事はそれで済ませてね?」


 ・・・はい?いや、まぁ、うん。もちろん死ぬつもりはないけどさ。なんでここにいるかとか、このダンジョンがどこにあるかとかもうちょっと詳しい説明あってもよくない?それなりに分厚い本だったじゃん。内容薄すぎない?



 はぁ・・・。まぁ、そんなこと言っても仕方ないか。あのドラゴンと狼を先に見ちゃったら現実として受け入れるしかないよな。

 

 

 とりあえずアイテムボックスの確認をしよう。何か入っているかもしれないし。


 ・・・ってこれどうやって使うんだ?えーっと、使いたいと念じればいいとか?


 ステータスを表示させるような感じで念じると、ゲームのインベントリのような感じで視界にウィンドウが表示される。


 中には『グレーターウルフの生肉』が10kg入っていた。あれ、ここって火使えないんじゃなかったけ。生のまま食べるしかないってこと・・・だよね?


 ・・・いやいやいや、流石に食べても大丈夫な肉のハズ。うん、きっとそう。じゃないと死んじゃうし。


 べ・・・別にお腹空いてないからいまはいいかな。うん。


 

 さて、アイテムボックスの確認も終わったし、次は本棚にある本を読もう。このダンジョンはここの本に書かれている魔術・魔法を使用できることが前提みたいなこと書いていたからね。しかも、上級魔術程度は楽々使えて超級魔術を一つは使えないとお話にもならないみたいなことも書いていたし・・・。


 あの本を読んだ時、『ダンジョンの手引書みたいなのがあるとか優しいなぁ、これがチュートリアルかぁ』とか思っていたけどもしかして全然そんなことない・・・?


 いやいやいや、まぁ。うん、気が付いてはいけないことに気が付いた気がする。忘れよう。


 そ、それはそれとして魔術だよ魔術!アニメ・漫画の世界でしかなかった空想上の物が実際に使えるとか絶対に楽しいんじゃん!楽しみだなぁ!! やっふー!!




 と、いうことで本棚の中から、『魔術・魔法をこれから学ぶ人へ』という明らかに初心者向けのタイトルが書かれている本を取り出して読み始める。


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<概要>

 魔術と魔法は、どちらも“魔力を用いて事象干渉を行う“という意味で同じ技術である。違うのは体系化されているか、そうでないかの違いだけである。


 魔術は練習すれば誰でも使えるようになるが、魔法を使えるかどうかはその人のセンスに大きく左右される。発動される魔法は人によって異なるため、固有魔法と呼ばれることもある。

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 まずは魔法と魔術についての説明から始まった。“事象干渉“とかなんか難しい言葉使っているけど、要は指先から火を出したり、水弾を発射させたりすることを言いたいのだろう。魔法はフィクションとしてベターなものだから、この辺はまぁいいかな。固有魔法っていうのは非常に気になる。なんかカッコいい。是非とも使えるようになりたいところだ。


 

 本の続きを読んでいくと、魔術も魔法も、魔力を自在に操作できないと話にならないらしい。なので最初に取り組むこととして、魔力操作の練習方法が書かれていた。


 

 本によると、魔力は血液と共に全身に流れているようで、血液を操作するイメージを強くもって念じているうちに感覚を掴み、操作できるようになるらしい。


 現実には存在しない概念なので、この方法で本当に出来るかどうかはわからないが、とにかく挑戦しよう。



 えーっと、血液を操作するイメージを強く持って念じる・・・ステータス画面を表示するときのような感じだろうか?


 ・・・おっ!これが魔力か?何かフワフワしたりザラザラしたり不思議な感じ。フワフワしてるときはスムーズに動いてるし、ザラザラしてるときは動きが硬い。魔力操作を鍛えることで一定になるのかな?



 魔力操作を極めた人は、身体から漏れ出る魔力を完全に0にしたり、魔力の“質“を変えて魔力感知を誤魔化したり、魔力そのものを操作して離れた場所にある物を持ったりとか色々出来るらしい。


 何をどうしたらそんなことになるのか今のところさっぱりわからないが、現状は魔力を操作するだけでもかなり集中する必要があるので、一旦はスムーズにできるようにしていきたい。


 


 それから魔力操作の練習を続けた後、食事としてあの生肉を食べた結果、そのあまりのまずさに気絶した。


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