いっちょやりますか! じゃねえんだわ
じゃねーんだわ。じゃねーんだよ。
まずは自治体の人などにお話を聞いてなぜこうなっているかを調べるのが基本じゃ無い? なぜ忍び込もうって話になってるん?
「それがねえ、急に役所が機能しなくなったのよ。町長が屋敷の中に引きこもっちゃって重要決済ができないんだって」
「はえーそうなんですか。もうどれくらい前からですか?」
「三年くらい前かしらねえ。抗議に行った自治体の関係者は帰ってこなかったの。殺されたんじゃないかって、だからみんな町長を恐れちゃって。どうしようも無いのよ」
とは宿屋さんの女将さんの弁。そっかやっぱり忍び込むしか無いじゃん。
ポチたちは宿屋に残して屋敷を下見。
高い壁に囲まれた屋敷。よじ登ってのぞき込んだ所、建物は凸型の形をしている。二階建て。そんなに豪華では無いな。
ぐるっと周りを見てみた所、南北に二つある門の前にはやる気の無い衛兵が二名立っていて、屋敷の周りは特に何も無い。逃げる時隠れる場所が無いってことか。
中の構造も見てみたいけど、図書館に見取り図が所蔵されているでも無い限り調べるのは不可能だろう。実際図書館には無かった。
ただ上下水道は敷かれているので、下水道から忍び込めるかもしれないなとは思った。臭いからしない。巨大ビルじゃ無いんだ、下水路も小さいだろうし。上水道は、水が常に圧がかかって流れているから溺れて死ぬ。現代的上水道。
よく使われる搦め手はこの異世界では通用しないようだ。お城なら別だろうけどね。
裏戸や二階の窓から侵入、くらいしかないか。
よし、いっちょやりますか!
月(なんかこの星は二つも衛星を持ってる)の無い深夜、ぽちから〈隠密〉をもらい忍び込む。
やる気の無い衛兵の目をかいくぐり、高い壁を飛び越える。音も無く着地し、素早く裏戸へと移動する。ここまではバレてない。
裏戸へ到着。鍵はかかっていなかった。音を立てずにドアを開け、ゆっくりと侵入。内部へ入った瞬間、なんらかの魔法障壁の内部に入ったことを自覚する。ぬめっとした感覚が全身に流れたからね。見られてるかもしれないな。短い棒を利き腕の左手に持つ。いつもの棒は室内だと大きすぎるのでおいてきた。
一階の裏戸からすぐにメインホールへと出ることができた。血で真っ赤に染まったメインホールへ。
「完全に乾いてる……数年は経ってるかな。地面の血液は何らかの法則性を感じる。ただちょっとなんなのかわからない。魔力が吸われていくのは感じるけど。今度は魔法学を学んでおくか」
メインホールから渡り廊下を通り、食事室へ到着。何もないのでそのまま厨房へ出た。何も無いのも変だけどね。使われた様子が無い。
厨房では意思が消えている料理人がいた。こちらを気にかける様子も無い。ただ黙々と料理を作っている。この食材はどこから運んでいるのだろう?
厨房の鍵を開けて外へと出る。すぐ目の前に茂った草。こちらも数年使われていない……? 内部のどこからか食材を調達している? 召喚術にそういうのがあるのかな?
錆びた武器防具の並んだ武器庫や、きつく封印されていおり中の様子がうかがえない礼拝堂などをなぞって一階の調査はとりあえずおしまい。
二階へ侵入を試みる。階段からは危険だと思うので、厨房の廃熱排煙管を駆け上がった。煤で洋服が凄いことになった……はずなのだが、ミニスカ衣装様はなぜかとても綺麗なままであった。というかミニスカ衣装できちゃったよ。隠密をするアイドルってありぃ? ありかぁ、そっかぁ。
廃熱排煙管から二階の屋根に登った。不思議なことに人々の愉快な声が私の耳に届いてきている。二階のどこかで宴会でも行っているかのようだ。明らかに怪しいのでそこへ向かうこととする。入り口の真上だな。
渡り廊下の窓を開け、静かに侵入。なんか変な匂いがする。
まっとうな状態では無いことは明らかだな。
ここで引き返して見たことを書状にし、それをヒゲソリ騎兵隊経由で男爵に送れば調査隊が送り込まれるとは思う。
しかし、どうなっているのかちょっと見てみたい気もするな。
入り口の真上、そこは町長の部屋だった。看板が掲げられている。
人々の歓喜の声は、陽悦で甘美な声へと変わっており、中で破廉恥な行いが開かれていることは明らかだ。しかも大人数で。なんでこんないびつな状況でそんなことを?
町長の部屋のドアを開く。その瞬間にドアに仕込まれていた魔法障壁が動き出し、私に魔法の刃を向けてきた! ほあぁ! サイドステップ回避! 〈隠密〉を解除し〈瞬〉へとチェンジ! 戦闘モード!
私は右手でミニスカ衣装のポケットから爆弾を取り出して魔法障壁に投てき! 魔法障壁にぶつかる!
「どうよ、ディメリウスの粉の効果は! 魔法封じされて息もできないって感じ!?」
ディメリウスの粉をまともに食らった魔法障壁は溶けるように消え去っていった。魔力を封じる効果のあるディメリウスが入っているんだ、障壁くらいなら余裕で壊せる。
町長の部屋のドアを蹴り飛ばし、内部を確認する。
そこではたくさんの人物が淫らな行為を楽しんでいた。
「なんだってこんなことをこんな状況で? だれが統率してる?」
私の目の前で口に男根をくわえていた女性にこちらを向かせ、「ボスはどこだ」と問いかける。女性はぼんやりした目で部屋の最奥に立っている人物を指し示す。
「あれがボスか。背中にコウモリの羽根、蛇の尻尾、雌羊の巻き角。伝承で聞いたことがある。あれは間違いなく――」
――サキュバスだ。
人を避けながらサキュバスの方向へとまっすぐ進む。
サキュバスはこちらに気がつくと、顔を真っ青にする。
「やぁやぁサキュバスくん、ご機嫌いかがかな? 何回イッタ?」
「あ、こ、これはおきつね様。いえいえそんな、私は無理矢理この宴に参加させられている身でそんなことは決して全く。今もいやいやと受け入れていたわけでして」
大慌てで否定するサキュバス。サキュバスには戦闘能力が無いからな。私でも殺せる。
そして
「グガァァァァァァァ!!」
「ぎゃあああああああ!!??」
サキュバスの真後ろの窓から真っ黒なオオカミが顔を突入させ咆哮した!
サキュバスはあり得ないほど大声で叫んだ後ガクっと気を失った。
サキュバスは所詮は雌の羊なので肉食動物に弱い。そう、ぽちの咆哮とか特にね。私もきつねだし相当怖かっただろうな。
「つまり町長が召喚術を使ってサキュバスを呼び出してしまい、サキュバスは生きるために少しずつ人を屋敷に引き入れて性を搾取していた、と」
事を終わらせ、綺麗になった町長の部屋でそう話す。近くには町長の死体だった骨が転がっている。
「はいそうなんです私は悪くありません町長が全て悪いのです私は悪くありません食べても美味しくないです」
早口でまくし立てるサキュバス。
「……棒打ち一〇〇回だな」
「え?」
「棒打ち一〇〇回で殺さないことにするね。町長が悪霊を呼び出してしまった、私がそれを撃破した。ってことにしておいてあげるよ」
「じゃあ、私死なないですむんですか!」
ぱぁっと顔が明るくなるサキュバス。くそ、さすが性の悪魔、めっちゃ綺麗。魂が導かれそうになる。
「私の下僕にはなってもらうけどね。さあて、私の棒に体が耐えられるかな」
「いやーん、たぁすけぇてぇ(ハート)」
とりあえず細部はごまかした調書を作成して領主に送付。そして悪魔の下僕ちゃんを手に入れるのであった。
何かあったらぽち、いや大豆と小豆ですら黙ってないから大丈夫でっしゃろ。雑用やらせようっと。
めでたし、めでたし。
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