第24話 二撃必殺
粉々に砕けた板から血が噴き出した。
そこから赤い光が差すと、板の破片からストーリー・テラーが弾き出された。最早元の姿を保っておらず、顔と胴体がバラバラの野ざらし状態。
『わ、わたしがこんなやつにまけるなど……がはっ』
まだ生きてるのかよ……この執念深さには最早恐れ入る他ない。
だが、もう長くないはず。手足も消え、まともな形状を保てているのは顔面のみ。後はこれを消滅させれば俺達の勝利となる。
最後の一振りに、ありったけのエネルギーを込める。そうして出来上がったのは紫に染まる二回りほど膨れ上がった拳。
ただ、その拳はこれまでの純度を保てておらず、フルパワーの1割もない。
かくいう俺も一撃でも喰らえば戦闘不能になる位には力を消費しきっていた。これ以上はどうあがいても出力が上がらない。
そう、これが俺の最後の一撃だ。
「今度こそ、これで最後だ」
拳を天高く振り上げ――
『ま、待て! 私が悪かった。命だけは……命だけは見逃してくれ!』
情けない声で喚き散らすストーリー・テラー。
この期に及んで、命乞いか?
上から見下ろす俺に何を思ったのか、興味もわかないことをベラベラと並べ上げる。
『そうだ、私はこの世界でも有り余る程の宝を持っている。お前に全てやる、そうすれば何代先の子孫も一生遊んで暮らせる富が手に入る!』
お前、知ってるか。そうやって命乞いをしてきた人達が、どれだけお前の遊び道具にされたのか。
システリア城にいた実験体の中には、家族を養っている魔族だっていた。
そんな守るべきものを持っている人達が、お前の気まぐれによって理不尽に殺されていったんだ。
『じゃ、じゃあ私が貴様に最高の女を用意しよう。誰よりも美しく全ての欲に応える女だッ!! その女の抱き心地は何人にも代えられない、あらゆる調教をしても全て受け入れてくれるっ。な、その女を私が作ってやろう。だから――』
「そんなもので、消えていった人たちが浮かばれるかぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
最後の一撃に、全体重を、全ての怒りを、亡くなっていった全ての人達の無念を込めて振り下ろすッ!!
『馬鹿めッ!』
背中に喰らった強烈な一撃。あまりの衝撃に肺から空気が全て抜け、踏ん張る事すらロクにできず地面へと突き飛ばされる。
激痛で目を開くことも苦しく霞む視界から見えたのは、宙に浮かび、赤く激しく光る胴体。どうやら真後ろに忍ばせていたらしい。
身動きが取れない俺の横を通り抜け、目前で転がり落ちた首は浮遊して胴体を目指し、距離を詰める。結果、顔面と胴体が結合して上半身の5割が元に戻ってしまった。
追い討ちで、粉々になったストーリー・テラーの一部が破片から飛び出して、先程のように光を放ちゆっくりと奴の上半身に纏わりつく。
そうして、ついに右腕が完全回復。
ストーリー・テラーは攻撃ができるようになった。
『回復出来るのが貴様だけだと思うなァ!』
宙を浮きながら接近して、倒れて動けない俺を何回も殴りつける。
動く度に吐血する程弱らせているというのに、一発一発が気絶するほどの力。着実に意識が削られていく。
だが、もう俺は完全に力を使い切り精神力はゼロに等しい。体を液化して衝撃を逃がすことすらままならず、無抵抗に受け続けるしかなかった。
『くくく、きひひひひひひ。この程度、
今度は俺と奴の立場が逆転していた。
ストーリー・テラーの右腕に計り知れないエネルギーが凝縮され、禍々しく光る拳を俺の顔面へと振り下ろす。
やっぱり、こいつも最後の一手を残してやがった。とはいえ、体が動かない。もう俺にはどうすることもできない。
『この後、貴様の仲間も纏めて殺してやる。良かったな! 死後、貴様等纏めて私の人形にしてボロ切れになるまで使い倒して最後まで一緒にいさせてやる!』
その時は、やってくる。
『ふははははは、終わりだあああああああああああああああああ!!』
もう身動き一つ取れない俺を、死に追いやる一撃がコマ送りで迫ってくる。
どう転がっても、俺にはどうすることもできない。
「……え、……う」
だから、これをお前に預けたんだ。
やっちまえ、
「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
遥か上空から耳を貫くような爆音。
その音すらも置き去りにした圧倒的なスピードで、真下の標的へと直進。
それはさながら流星のようだった。
両腕を真一文字に前へ突き出すと、空気との摩擦によって生まれた熱が真紅の光となって二つの拳を纏い、地面へと滑空。その光と紫光が絡み合い、眩しくも目が離せない一筋の紅紫色は、一直線に標的へと接近。
呆けきった顔で空を眺める敵に、トドメの二撃が放たれた。
「
直撃した瞬間――ストーリー・テラーを巻き込みながら遥か地中の彼方までぶち込んだ。
その衝撃で地表一体に亀裂が走り、遠く離れた場所にまで拡散。蜘蛛の巣状の谷が無数に広がって、遠く離れた場所では、奥底に溜まっていたであろうマグマが空高く噴き出す始末。
もう、間違いなくオーバーキルだろうという一撃だった。
は……はは、この真下でアレが噴き出したら俺達もあの世行きじゃないか?
思わず笑いがこみ上げ、ぽろりと口に出してしまった。
「……やりすぎだ、あのバカ」
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