後悔と抱擁 その1
十時頃、チャイムが鳴り、美里はドアホンの液晶画面を見て玄関へ向かった。
ドアを開けると青白い顔をした明が立っていた。
「アキラちゃん」
「お母さん、タオは」
返ってくる言葉は分かっているのに聞かずにはいられなかった。
美里は寂しそうに微笑み「行ってしまったわ」と言った。
明をダイニングへ通し、ソファーに座らせた。
冷たい麦茶を出し、美里も向かいのソファーに腰を下ろした。
「昨日ね、ヨコタニ君とマツウラ君という子達が訪ねてきてくれたの。タオに会いにきてくれてね。留学した事にしたけど、嘘を付くのが辛かったわ。でも嬉しかった。高校でもいい友達を見つけられたみたいで。タオ、中学の時の友達全部失くしちゃったから」
「……タオ、二人といる時は私には見せない顔をしてた」
とても気楽そうな。それが羨ましかった。
「アキラちゃんにしか見せない顔だってあったはずよ」
それはどんな顔だろう。
笑っている顔だろうか、怒っている顔だろうか、呆れている顔だろうか。
最後、太鳳はどんな顔をしていた。
「タオの部屋、行ってもいい?」
「どうぞ」
階段を上がり、二階の一番奥のドアの前に立った。
今度もこのドアから夢へ向かったのだろうか。
どうか、私を夢の世界へ連れていって。そして太鳳に会わせて。
そんな願いを込めてドアを開けると、前に来た時と同じ、現実の、太鳳の部屋がそこにあるだけだった。
明は壁に寄り掛かり部屋を眺めた。
今なら分かる。
ここは私の部屋に似ていたんじゃない。おばあちゃんの部屋に似ていたんだ。
断捨離なんかじゃない。
いつ死んでもいいように、遺品整理がしやすいように物を置かなかっただけだ。
そんな、子供の、悲しい気遣い。
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