放課後のさよなら その1

 月曜日。朝のホームルームが始まる前、太鳳が教室に入ってくるのが見えて明はほっとした。

 太鳳は席に着くなり珍しくスマートフォンをいじり始めた。

 すると明のスマートフォンが震え、見ると太鳳からメールが送られてきた。


 ──今日の放課後デートしませんか。


 ドドドッ! と足音が聞こえてきそうな勢いで明は太鳳の方へ駆けた。

 太鳳はぎょっとした。

 バンッ! と机に手を付いて明は前のめりになり、身を反らして固まる太鳳を凝視した。


「君、もう少し普通に来れないの」

 明の顔にじんわりと笑みが広がっていく。


 教室がしんと静まり返り、全員が二人を注視したが、明は足取り軽く自分の席へ戻って行った。

 何も言わんのかい、と誰もが思った。


「何だ、また突発性の欲求不満か」

 祥子が呆れて聞くと、明は嬉しそうに「秘密ー」と言った。

 すると真希が不安そうに明を見つめてきた。


「大丈夫だよ、マキ。タオは安心・安全のウミツキ産なんだから」

「意味分からん」

「そういう事じゃないんだよ、アキラちゃん」

 咲がやんわりと言った。


「何が?」

「ウッシーが最近構ってくれないからマキが寂しがってんだよ」

「はっ!? 別にそんなんじゃっ、誰もそんな事言ってないでしょ!」

 真希は顔を真っ赤にして反論した。

「マキ……」


 明は慈愛の眼差しを真希に向けた。

 珍しく真希が動揺し、落ち着きなくきょろきょろと視線を彷徨わせている。

 そんな真希に愛しさが込み上げ、ひっそり抱きしめた。


「ごめんね、マキ。寂しかったよね。でも今日はタオと約束があるから明日一緒に遊ぼうね」

「……うん」


 いつもと立場が逆になっている、と祥子と咲は苦笑した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る