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初公判は9月半ばだった。
神牧と曽田は自分達の罪を認め、川口と結花主導の指示でやったと証言した。
ガムテープで子供達を身動きできないように指示された。
最初はその場のノリで、川口の指示に答えていた。しかし、結花から丁重に扱うように言われ、結局すぐに解放させたと。
神牧と曽田は、家のためにバイトをしていたが、その中に高額な収入を得られると見つけたのが、川口が主導でやっている闇バイトだった。
『即高額収入! 運送業バイト! 日割り5万!』
普通の求人サイトに入っていたので、余計疑わずに申し込んだという。
しかしいざ蓋を開けてみたら、仕事の詳細はあんまり答えず、とりあえず『運送業』だけと一点張りだった。
まさか、人様の子供達を誘拐して脅迫するまでとは思ってなかったと2人は答えた。
すぐにお金が必要という感情が先走った結果によるものだった。
川口と堀内は、結花、神牧、曽田との関係や出会いを黙秘した。
証拠があるなら見せて見ろと挑発した。
メッセージアプリを復元させたものを見せると、目の色を変えた。
神牧と曽田に対しては騙されたバカと揶揄した。
『世の中そんな大金をいきなり手に入れるなんて怪しいのに、そんなのに釣られてのこのこやってくる人が多くて面白かった』
『稲本庄吾が売れてきて調子に乗ってきてるから、何かスキャンダルないかと思ったら、結花の娘の夫と知り、これで失脚したら面白いと思って暴露した』
『稲本夫妻が、子どもが誘拐されて叩かれてるの見て、メシウマだと思った。これで殺されたらなお良かったかもしれないが、結花に止められたのでやらなかった』
反省の色はなかった。
まるで思い出話するかのように、楽しかったなと挑発するだけだった。
結花の証言台に立つ番になると、周りは引きつった顔をしたり、眉を顰めたり、「嘘だろ」と呟く声が出てきた。
裁判官から名前や年齢を聞かれ
「呉松結花です。世界一可愛いゆいちゃんです! みんなゆいちゃんって呼んでね! 年は37歳。せんぎょーしゅふです! ゆいちゃんって呼んでね!」
媚びを売るかのように、裁判官に上目遣いをしてぶりっ子口調で答えた。
人定質問で、裁判官から確認するように、結花の本当の年齢や職業が聞かれ「……はい」と不承不承で答えた。
法廷はさらにざわついたのは言うまでもない。
厳粛な場にも関わらず、胸元が開いた赤のチャイナドレスだった。露出の激しい格好だ。
これでもまだましな方で、最初は下着に間違えられそうな格好で出廷した。
一度裁判官から着替えてくるように言われ、一時休廷になり、再開した。
それでもこの格好なので、これ以上何も言わないことになった。
「うっそ……56かよ」
「ババアじゃん、チェンジ」
「うわぁ、胸開きのチャイナドレスとかなし」
「ワンチャンいけるな。40代かと思った」
「この年でTPO分からねえってヤバいじゃん」
「自分のこと名前で言ってるのってネタだと思ってたけど、ガチじゃん」
「長谷川ひかるが言ってた意味が分かった。そりゃ逃げたくなる」
傍聴席から結花の容姿の品評会が漏れ出る。
化粧でいつものように目をやたら大きく見せているが、加齢によるしみやしわは必死に隠していた。
髪はセミロングだが、白髪があちこち生えていた。
自覚しているがあらがえない老いに、必死に隠そうとしていた。
世界一可愛いゆいちゃんの矜持が崩れるから。
年齢と見た目に釣り合わない自己紹介で、さらに法廷の厳粛な雰囲気をぶち壊した。
裁判官から傍聴席へ「静粛に。これ以上騒ぐなら退廷を求める」旨が発言された。
検察側による証人尋問で、被害者である琥珀と翡翠は、結花と顔を会わせたくないということで、別室で保護者立ち会いのもと出廷した。
稲本陽鞠、庄吾夫妻、悠真、そして姉の静華。
公に結花と関わらないと表明していたが、陽鞠の義父と静華の夫の朝典と親族関係ということもあり、今回付き添いで来た。
朝典は傍聴席にいる。
結花の出廷姿に静華は凝視しながら「まだ生きてたんだ。てっきり社会的に抹殺されてるかと思った」「相変わらずTPO弁えられてないね。今日はある意味主役だけど」と挑発するように呟いた。
静華はベージュのブラウスに、グレーのパンツスタイルだ。
正反対の服装の妹を見て軽蔑の視線を向ける。
じいじの別荘へ行く最中に、川口のお兄ちゃんから、オレンジジュースを貰って、飲んだ後に段々眠くなった。
目が覚めたら暗い所に閉じ込められて動けなくなったけど、すぐに神牧のお兄ちゃんがやってきて、外してきた。ごめんなと言っていた。
そこから神牧のお兄ちゃんと曽田のお兄ちゃんとゲームしたりおやつ食べたり、虫取りしたり、夏休みの宿題を手伝って貰った。
殺されるとは思ってなかった。言い遊び相手のおじちゃん。
結花に対しては、ママの悪口を言ったり、神牧と曽田と一緒に作った作品を壊されたから嫌い、もう会いたくないと話した。
陽鞠は神牧と曽田が危害を加えなかったとはいえ、遊び相手になってくれたとずっと繰り返しいうことが気になっていた。
本当に親戚のお兄ちゃんに遊んで貰ったノリのようだった。
犯人に同情するなと思う反面、彼らもある意味、結花の被害者なのかもしれないと。
――あの人と関わったのが運の尽き。
被告人質問が始まった。
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