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「おー! すごーい高い天井!」
開放感あふれる天井に、人工の大理石の玄関に生活感が一切でないような黒の下駄箱と全身ミラー。
玄関のすぐそばには、白を
「あ、こっから先行かないでね。家族がいるから」
あくまでも玄関までということだ。
「なんでよー! 中入らせて! ね、ここ何LDK? お茶!」
「さっきの話聞いてた? うちの家族があなたのこと苦手って」
望海は結花の意図を察することなく、うんざりそうに眉をしかめる。
家の中なんて見せた日なんて、最悪な展開しかない。
キッチンやリビングはじめ、夫婦、子供達の部屋やお風呂とか見たがる。
それぞれケチつけるのが目に見えてる。
壁紙がダサいとか、部屋が小さいとか。実家の方が綺麗と。
そりゃあの
子供達も何年も会ってないし、親族との付き合いが面倒に感じる年頃。
夫も結婚式でゆいちゃんに失礼なこと言われたり、友達にちょっかいかけてるとこ見て、いい感情を持ってない。
しかも「お茶!」と偉そうに! 私は召使いじゃない!
粗相したらどうせお茶引っかけるんでしょ?
以前ゆいちゃんの実家にお手伝いさん3人がいたおばちゃん達を思い出す。
ゆいちゃんの機嫌を少しでも損ねたり、コーヒーの量を間違えたら、八つ当たりで服に引っかけたり、足踏んで、転ばせていた。
しかもそれをゆいちゃんは嬉しそうに話す。
罰としてやったと。まるで世間話するノリで。
お手伝いさん達がゆいちゃんと
大丈夫ですかと言っても、お手伝いさん達は「望海お嬢様は気にしないでください」といつも、無理矢理笑顔を作って気を遣っていた。
そんな陰湿な人、家族と鉢合わせさせたくないし、早く帰らせないと。
今子供達が外出しているのが幸いかもしれない。
「どこが? あんな陰キャ世界一可愛いゆいちゃんなら、イチコロよ」
胸を張って望海にウィンクする結花。
「なんなら、ふみちゃんに会わせてよ? 久しぶりにおしゃべりしたいの。ね、ちょっと借りていいでしょ? 外で一緒にランチしたいの」
結花の無邪気さは、望海にとって恐怖に過ぎない。
「借りていいってなに? 私の夫は物じゃないよ。レンタル彼氏みたいな扱いしないで」
少し語気が強くなる望海。
「はぁー? あんな陰キャみたいな人ほどゆいちゃんにコロッと心惹かれるのよ。真面目なあんたに飽き飽きしてんじゃない?」
真面目だとなーんにも面白くない。単にお金入れてくれる存在。
いいこちゃんで、褒められて、目立って、上にいって、世界一可愛いゆいちゃんの主役の座を奪われちゃう。
しかも口うるさいし、偉そうだし。
真面目ってなーんにも褒めることがないときに言う物で、喜ぶものじゃない。むしろそんなので、嬉しいと思ってる人は、遠回しに「何も特に褒めることがないから仕方なくコメントしてやった」ということに気づいていない。おめでたい人。
そういう人が嫌いだから、ちょーっとからかって、おたおたするところを楽しんでいた。
特に女子慣れしていない男子を狙うと、あっさり言うこと聞いてくれる。
妻が口うるさいとか、劣化したとか聞いてて、優越感に浸れる。
ゆいちゃんより格下ののんちゃんが、こんないい家に住んでて幸せそうなのがムカつく。
分家の子のくせに!
だからちょっとたくちゃんをからかってやろう。
家族に追い出されてつらいんですぅと"相談女"として、ついでにあいつの悪口を聞き出そう。
今までこれとゆいちゃんの可愛さでからかってきたんだから。通用するはずよ。
世界一可愛いゆいちゃんなんだから。
「いい加減にして! ゆいちゃんが、家族に追い出されたのはそういとこでしょ! 人を人と思わないとことか、大事にしないとことか、自分本位なとこだよ!」
夫を侮辱された望海は普段より倍以上のきつい言い方になる。
顔は赤くなり、呼吸が荒くなる。
「分家の子の癖に! 本家のお嬢様に逆らう気?」
「家の立場は関係ないでしょ! 今の状況を本気で分かってるの?! 家追い出されてお願いする立場なのに、いきなりお家見せてとか、人の夫借りたいとか言って、はいどうぞってなるわけないでしょ! 普通は」
普段言われっぱなしっでおっとりしている望海が、
本当は緊張している。これ以上悪口言われたり、腹いせになにか物を壊されたり、家族に危害を加えられそうで。
最初はゆいちゃんがいじめられているから、母が周子おばさんから、同性の同い年の友達がいないからと遊び相手として呼ばれた。
何かされても、言われてもずっと我慢していた。
中学からはお世話係化していた。
付き合いをやめたいと何度も言っても、周子おばさんが「結花ちゃんと付き合わなければ、お金の支援やめる。両親が経営している会社を買い取る」と両親に脅していた。
母と周子おばさんの間で見えない上下関係があるのと一緒で、私とゆいちゃんでも、同じ従姉妹というだけで、私が下みたいな扱いになっている。
良輔兄さんと
特に良輔兄さんに代替わりしてから、ゆいちゃんへの態度が厳しくなったし、無理して関わる必要ないと言ってくれている。ただ、ゆいちゃんの動向を時々送ってくれる。念のためにという形で。
明博おじさんは注意するけど、結局ゆいちゃんと周子おばさんの勢いに負けることが多かった。何度も生活態度や言動を注意しているけど、もう諦め切ってる所があった。
元々お兄さんお姉さんは、ゆいちゃんのわがままに一番振り回されていたから、ここぞとばかりに、やり返しているのだと思う。
お世話係から解放されて安堵している。もう冠婚葬祭ぐらいしか関わらないだろうと。
だから必要最低限しかやりとりしなかった。
ゆいちゃんが離婚して、遠くへ行ってくれて、平穏な生活をやっと手に入れたのに。
今、目の前で壊されそうになる。
早く出て行って! そのためなら多少強く言われても言い返すまで。
もう昔のように、はいはいあっさり言うこと聞く私じゃないんだから。
「いーじゃん! 本家のお嬢様の言うことぐらいありがたく思いなさいよ!」
結花の口調もヒートアップして顔が紅潮している。
むしろ結花の声の方が大きい。玄関どころかリビングまで届きそうな。開放的なお家だから2階までいきそうだ。
このままだと2人の言い争いが続きそうなだった。
「さっきから女性の声がすごいするんだけど?」
リビングから、青のブラウスにベージュのチノパンを着ている男性がでてきた。
黒い縁の太い眼鏡をかけて、四角い顔で、少し白髪かかったパーマ――望海の夫、
「ふ、ふみちゃん……?」
文登は結花を見た瞬間凍り付いた。
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