第8話 筋金入り
マサミにはもう一人仲の良かった男がいる。
那須だ。
那須と初めて会ったのはエレベーターだった。
傘を持ち黒いジャケットを羽織りまるでホストの様だった。
同じ階で降り、同じ部屋に向かう。
他の生徒と一線を画す雰囲気を醸し出していた。
まさかの同じクラスだった。
ホストの様でありヤンキーの様でもありビジュアル系でもあった。
割とイケイケで鋭い目つきであちこちを睨むようだった。
「なんでこんな奴がデザインなんだ?」
そう感じた。
同じクラスでタバコも吸う。学生ホールでもエレベーターでも顔を合わせる機会が多くあった。
少しづつ話すうちに那須もバイクの免許を持っている事がわかった。
今はバイクよりも車に夢中で走り屋。AE86レビンを所有していた。
マサミの親しい友人の中で新潟市で一人暮らしをしている事もあり那須のアパートに行く事も多かった。
ある晩、那須に聞いた。
「なんでデザイン学校なんだ?カズヨシとか関ぴょんはなんかわかる。ぶっ飛んでるけどアートなところがある。けど那須は走り屋だし、ヤンキーっぽくもあるし」
少し間があり那須が言った。
「そうか?じゃ教えてやる。けど絶対誰にも言うなよ、特にカズヨシは言いふらすから!絶対だぞ!」
「わーった、わーった、で?」
那須は一冊のノートを取り出した。
「見てみ」
そこにはロールプレイングゲームのキャラクターが何ページも描かれていた。
[ゴーレムがやってきた]
タイトルのついたページがいくつもありそこには動きのあるキャラクターがいくつもいた。美少女もいる。
ぷぷっ!思わず笑う。
「うわーヤベーな」
マサミは思わずつぶやいた。完全にオタクの世界である。
仮にもマサミの仲間達はワイルドで通っていたし那須にそんなイメージは全くなかった。
見ている方が恥ずかしくなるようだった。
当時オタクといえば[宅八郎]など陰気でヤバいイメージで今のように社会的に確立された文化は地方都市ではまだなかった。
「本当はこういうのやりたかったんだよ」
これが那須がデザイン学校を選んだ理由だった。
マサミもまんざらではなかった。
その日は二人でキャラクターを描きまくった。
お題[ガンダムの新しいモビルスーツ]
それぞれが思い思いに描き見せ合う。
「名前は?」
「ガドゼル」
「うおーっ!」
笑いと興奮で時間はあっという間に過ぎていた。
気が付けば窓の外は明るかった。
朝、那須のアパートを出る。
「じゃぁな、学校で」
「おう!今日の事は2人の秘密な」
「しかし那須ってオタクだったんだな」
「いや」
那須は否定した。
「ただのオタクじゃない!筋金入りのな!」
その声は自信に満ち溢れ、瞳は輝いていた。
那須にはゲームも漫画も数多く教えてもらった。
家庭用ゲーム機の任天堂のファミコンはもちろん、SEGAのメガドライブやサターンなどの開発の背景、次世代機のスペック、対抗機種、アーケードゲームからの移植などなど・・・。
後に知ったのだがSEGAのゲーム[ぷよぷよ]の彼の腕前は全国トップレベルだった。
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