第5話  決断

マサミはこれから購入するバイクで迷っていた。

カズヨシはヤマハのSR400に乗っている。

イギリスの旧車が好みでBSAやトライアンフにあこがれている。

関ぴょんはカワサキのゼファーだ。

Z-1や4フォアが好みだ。そしてフィフティーズが好きな奴だった。

ネイキッド系は自分には合わない。誰にも言えないが足が着かないから嫌だった。

カズヨシのSRはカッコ良かった。

まだカスタム中だが単気筒から発せられるキャプトンマフラーのサウンドがとにかくカッコいい。

「マサミ金ねーだろ?だったら中古のエストレアはどうだ?」

「それなら足届くぜ。」

見透かされている。

「車検いらねーし、カスタムベースにすればいい。」

「でも250だろ?お前らの走りについていけねーよ。」

「まぁー物足りねーな。」

バイクの事を1から教えてくれる2人に流されつつあった。


マサミはハードロック好きだ。

兄の影響を受けLAメタルが好きになった。

特にモトリークルーが大好きだった。

高校生の時に全米No1になったアルバムDR,FEELGOODにどっぷりとはまっていた。そのMVではメンバーがハーレーに乗りながらインタビューに答えている。

それがとにかくカッコ良かった。

だからアメリカンタイプがいいと思っている。

ハーレーに乗れば俺もロックスターになれる。

若さとは恐ろしいもので身の程をわきまえない。

ヤマハのビラーゴ、カワサキのバルカン、スズキのサベージ、ホンダのスティード。

ノーマルで乗る気はない。カスタムしていかにカッコイイかだ。

アメリカンにもスタイルが色々ある。ドラッグ、チョッパー、クラシック。

バイク雑誌を読み漁り理想のスタイルを探す。

免許取得からずっと迷っていた。


数日後、カズヨシが言った。

「明日、タカにバイクで来させっからよ。見てみろ。」

タカはカズヨシの高校時代の仲間で同じデザイン学校の建築デザイン科に通っていた。タカが乗っているのはホンダのスティードだった。

真近で実車が見れる。ドキドキした。

翌朝、校舎の前で待っているとドドドッとエンジン音が近づいてきた。

タカだった。

カスタムはマフラーとウィンカーだけ。しかし長身のタカの乗るスタイルは超カッコよかった。

「どうだ?」

カズヨシが楽しそうに言う。根っからのバイク好きだ。

「マサミにはでかくね?」

と関ぴょん。


講議が終わり校舎を出る。

「今日は天気いいし流して帰るか。」

「そうだな。」

「海沿いから帰ろう。」

カズヨシ、関ぴょん、タカの3人はバイクへ向かいながら話していた。

マサミもそこまでついていく。

こいつらのカッコイイところは流されないところだ。

マサミは高校時代流されていた。

田舎の町でヤンキー全盛期、虚勢を張る事が全てでちょっとでもケンカの強い奴がいればそいつを中心に暗黙の上下関係ができる。

しかもケンカが強いというのは噂でしかなく武勇伝を見たヤツはいないパターンがほとんどだった。

1年で1クラス分の人数が退学する荒れた高校でマサミは流され虚勢を精一杯張り過ごしてきた。

体が小さいからナメられる事も多かった。だから尚更頑張った。間違った方向に・・・。

だがここにいる奴等は違う。

それぞれのスタイルを貫き決して強制はしない。

スタイルは違うが価値観は共通だった。

タカが言う。

「マサミ、スティードはやめた方がいい。カズヨシと乗ってるとついて行けねぇーよ。コイツはぇーからな。乗り方もえげつない。」

「オメーがおせぇ。」

「うるせー。」

「でも自分が乗りてーのが一番。」

「だな。」

駐輪場に着く。

3人がバイクにまたがりエンジンをかける。

「マサミも行くか?今日うち泊まれよ。」

カズヨシが言う。

「今日はバイトだからダメ。」

「仕方ねーな。しっかり働いて早くバイク買え!」

3台のカスタムバイクが爆音を立てる。

手を挙げて見送る。


必ずこの仲間に入る。

決めた。

スティードに乗る。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る