第40話 雨の中
雨の中を、バシャバシャと水溜まりを蹴りつつ俺は走った
「待って!!」
後ろから、俺と同じように雨に濡れながら、静琉は追いかけて来る
どれくらい走ったんだろう
たぶん、久しぶりだ、こんなに走ったの
「ハア…ハア…」
息を切らしながらも、俺は、文字通り逃げるように走り続けた
「待って…」
彼女の声が小さくなる
少し距離が開いたんだろう
それでも俺が走り続けようとしたその時、
バシャン!
と、少し大きな音が後ろで聞こえた
え?…もしかして…
振り返ると、静琉は転んで水溜まりの中でうずくまって、それでも立ち上がろうとして、でも、立てなくて……
それでも、俺の方をずっと見続けている
このまま…まだ走るのか?
…静琉………
でも、もう今更話すことなんかないよ…
もう…もう終わった話なんだよ……
そうだろ?…なあ…そうなんだろ?
俺はそのまま立ちすくみ、動けないでいると、ゆっくりと起き上がった彼女が、こちらへと歩いてくる
「蒼くん…」
綺麗な洋服は泥だらけになり、顔にまで泥が跳ね、少し足を引きずっている姿が痛々しい
俺のせいで…
でも、でも…静琉は…他に男がいるんだろ?
なんで、そんなになってまで俺を追いかけて来るんだ?
俺なんか放っておいて、あいつとよろしくやってればいいじゃないか…
俺は何も言葉が出ず、ただ彼女を見つめるだけだった
「蒼くん…どうして…?」
「………」
「ねえ…どうして?」
この雨の中でも分かるくらいに、静琉は大粒の涙を流して泣いていた
「なんで…?……ねえ、どうしてなの?」
「………」
「なんでいきなり…別れようってなるの?」
「………」
「なんで…何も言ってくれないの?」
「……なんでかな…」
「ねえ!どうして?なんでなの?」
「…分からない?」
「え?」
もう、これ以上…俺に関わらないでくれ…
なんか…惨めになるだけなんだよ…
辛いんだよ…!
「あの男の人と、幸せになりなよ」
「……え?」
「もう俺に構わなくていいよ」
「…え?……ちょっと…どういうこと?」
「だから…そういうことだってば!」
もう…もうこれ以上は…辛くて無理だよ……
俺がまた走り出そうとすると、ギュッと腕を掴まれる
「ちょっと!どういうことよ!!」
「もういいだろ!俺に構うなよ!!」
俺が無意識に、たぶんキッと睨むと、静琉はそれ以上に凄みのある目で俺を見据える
「ねえ…ちゃんと説明してよ…」
ちょっと怖いけど…でも、さすがにここで引き下がるわけにはいかない
「…見たんだよ」
「何を?」
「写真だよ…」
「なんの?」
「…静琉が…他の男と……」
「他の男と、何?」
「嬉しそうに…腕組んでる写真だよ」
「え?」
「だから…もういいだろ!」
「ちょっと、どういう事?」
「それは俺の台詞だよ!!」
「意味分かんないんだけど」
「それも俺の台詞だよ!!」
「そんなのありえないよ」
「なんでそんな事が言えるんだよ!」
「だって、私には蒼くんしかいないもん」
たぶんお互い睨み合ってるんだろうけど、傍目に見て、俺が押されてるのは間違いないと思う。
そう思えるくらい、今のこの静琉の凄みは半端ない。いつもの俺だったら涙目で謝ってることだろう
でも、俺は…俺は悪くないだろ…
悪いのは、他の男と……くっ…!
「スマホの画像で見たんだ!」
「え?…スマホの…画像…?」
「そ、そうだよ…」
俺の腕を掴んだまま、結構な力で掴んだまま、静琉は少し考える素振りを見せる
なんだよ、やっと思い出したのか?
それとも、諦めて認める気になったのか?
もう、いい加減辛いんで離してくれよ…
「…ねえ、ちょっと」
「もういいだろ…」
「いいわけないでしょうが!!」
くそっ…!
めちゃくちゃ怖えぇ…
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