第9話 真実
「え……」
お風呂から出た俺達はリビングで向かい合って座り、俺は真実を教えた。
「そう。その男の子は
なるほど。いろんな点が繋がってこの結果。こうなってしまったら、もう静琉は…
「そりゃ弟だから目は似てたかもね。静琉…ごめんね…」
彼女は少し口が開いて唖然としている。
「本当に…俺…俺……ごめんなさい」
せっかく教えてくれたのに、せっかく俺も好きになってたのに、もっと好きになりたかったのに……
もう俺は顔を上げて彼女の顔を見ることが出来なかった
「蒼介…ごめん…私…ちょっと混乱して…」
「うん…」
「ごめん…今日は帰るね……」
「うん…」
彼女は服に着替えて、荷物も鞄に急いでまとめて出て行った
ああ…もう…明日バイト行きたくないな…
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
「おはようございます」
「うす!緋村」
「お願いしまーす」
「緋村。速水さん今日具合悪いからって連絡あったから休みなんだ。頑張ってくれよ」
「はい…」
その日、静琉…速水さんはバイトを休んだ。
無理もない。俺と顔合わせたくないだろう
なんなら、もうバイト辞めちゃうかも
今日は日曜ということもあって滅茶苦茶忙しく、そのおかげで俺は彼女のことを考える余裕もなかったのがせめてもの救いだった。
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
「お疲れ様でしたー」
「おう!お疲れさん」
今日は疲れた。本当に、いろいろと…
「お前、やっぱりメガネない方がいいぞ?」
「え?」
「ほら、あれ」
店長が目配せした方に向くとホール担当のバイトの女の子の何人かがこちらをチラチラと見ていた。は?なんで?
「今日ずっとポテト揚げっぱなしでメガネ外してたろ?そのせいだぞ」
「はあ…」
「やる気ないな、お前は」
「まあいいや、お疲れ」と店長はそのまま仕事に戻って行った。
俺は更衣室に入って服を着替え、荷物を持って店を出る。
「そういえば」とスマホを見てみるとLineの通知が来ていた。
『話があるんだけど、会えない?』
速水さんからだった。
俺は『分かりました』と返信し、指定された彼女の部屋の近くのカフェに向かった。
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
「あの…昨日はごめんね…」
「いえ、俺の方こそ、すみません」
「蒼介は悪くないわよ…」
「速水さん…話しがあるって…」
「速水さん、か。そっか、そうだね…」
彼女は寂しそうに微笑み、
「あのね、考えたんだけど…」
「あ、大丈夫です。俺、そのつもりです」
「え?」
「俺に気を使わないでください。むしろ俺の方が申し訳ないと思ってるんで」
俺の事は本当に気にしないでほしい。でも、初めてを貰ってしまったのは本当に申し訳ないと思っていた
でも、兄さんの連絡先教えてくれとか言われたら、それはちょっとつらいな…
「申し訳ないって…なんで?」
「え?いや、だって…」
「申し訳ないのは私の方だよ」
「いやいや、そんなわけないでしょ」
「どうして?昨日、私、帰っちゃったんだよ?怒ったよね…」
「そんな、怒る要素ないですよ」
「私、昨日、あなたのお兄さんが私の、その…好きだった人だったって聞いて、なんか混乱しちゃって、分かんなくなって」
「仕方ないですよ」
「でも、今、私が好きなのはあなたなの」
「え?なんで?」
びっくりして素で聞いてしまった
「確かに、私、最初はあなたにお兄さんを重ねて見てたのかもしれない。でもね、昨日一日一緒にいて、蒼介の事が好きになって」
「俺は兄さんみたいにかっこよく助けてあげられないですよ」
「でも私のこと気遣ってくれるわ」
「そんなこと…」
「そんなことない?じゃあ、なんで申し訳ないって思うの?」
「それは…」
「私が初めてだったから?」
「っ!……はい…ごめんなさい…」
「なんで謝るの?」
「それは…だって…速水さんは俺じゃなくて兄さんが好きなのに…」
「それは小学校の時の話よ?」
「でも…」
「終わったあとだって私の体を心配してくれてたじゃない」
「それは…当たり前というか…」
「私が料理失敗した時だって、作り直して一緒に食べてくれたじゃない」
「だって、俺のために作ってくれたのに…」
「ね?私のこと気遣ってくれてるじゃない」
そうなのか…?
俺は特にそんなつもりはなかったと思う
「今日ね、バイトも休んで、ゆっくり、ちゃんと考えたの」
「はい…」
「私は、やっぱりあなたが好き」
「…速水さん」
「だから、私と、ちゃんと恋人同士になって欲しいの」
真剣なその彼女の眼差しに、俺は固まる
いいのか?本当に俺でいいのか?
だって、だって兄さんの方が優しいししっかりしてるし頼りがいがあるし頭もいいし、それに…かっこよく女の子を守ってあげられるような人なんだよ…
「ねえ、だめ…?」
今度は上目遣いで瞳を潤ませて、悲しそうに俺に聞いてくる
そんな…そんな……
どうしたらいいんだよ…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます