愛恋
医者から余命を宣告された。僕の体を侵す病に明確な治療法は無く、進行を遅らせる薬しかないという。
最初はもちろん絶望した。なにせまだ二十歳も迎えていないし、やりたいことだってたくさんある。けれど日に日に体調が悪くなって、現実から逃げられないと悟ってからは、残された時間でやりたいことをやろうと決めた。
僕がどうしてもやりたかったのは、愛の告白だ。
幼稚園の頃からの仲で、気兼ねなく話せる子がいる。好意を抱いたのは小学校高学年の頃だろうか。いつの間にかただの友として見られなくなり、密かな想いを抱えながら日々を過ごした。
相手はきっと、僕の好意に気づいていない。
告白しようと思ったことはあるけれど、今までの関係が崩れるのが恐ろしくて踏み止まった。
僕が死ねば、あの子は僕のことなんて忘れるだろうか。告白すれば記憶に残れるかもしれない。
結局、容体が悪化して入院してからも、告白は出来なくて。それでも諦めきれなかった僕の目に、見舞いでもらったぬいぐるみが目についた。
ああ、そうだ。あの子はぬいぐるみが好きだから、贈ればずっと残しておいてくれるかも。僕は母に頼んでクマのぬいぐるみを買ってきてもらい、目の代わりのボタンを取り除いて布を裂く。
綿に埋もれるように、抉り抜いた自分の目玉を沈めた。これなら死んでしまっても、あの子の未来を見守れるし、そばに居られると思ったのだ。僕なりの愛の証である。
これを渡す時に、いっそ想いも告げてしまおうか。土壇場で止めるんだろうなと思いながら、布を元通りに縫い直した。
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