黄金
この国のどこかに、黄金で出来た花があるという。小説で読むようなありきたりな、けれど夢のある噂を聞いてから早十年。俺は今日もリュックを背負い、花を求めて各地を歩く。
どうやら噂によれば、花は金を加工して出来たわけでは無く、地面から生えているらしい。花弁はもちろん、茎や葉、根までも本物の金で、水分と日光を栄養に育つのだとか。
朝起きて、新聞やニュースやSNSをチェックする。黄金の花発見の一文は無い。つまり誰にも先を越されていない。
今日はどこを歩こうか。明日は山を越えてみようか。花を見たらすぐに刈り取れるよう、鎌を片手に散策を続けていたある日、知り合いからメッセージが届いた。
黄金の花の在処を知っている人が居る、と。
俺は詳細を聞く時間すら惜しく、すぐに住所を名前を聞いてその人物のもとに飛んだ。
その人はいかにも仙人らしい見た目の男だった。自己紹介もそこそこに、俺は黄金の花がどこにあるのか問い詰めた。彼はおっとりした足取りで野原を歩き、そこに咲く一輪の黄色い花を指さす。
これが黄金の花だ。亡くなった妻からの預かり物で、自分には他のどんな花より輝いて見える。だから黄金の花なのだ、と彼は幸せそうに笑う。どうやら噂は、男が誰かに話した話がいつの間にか拡大解釈された結果の産物らしい。
ふざけるな。そんなはずがない。俺のこの十年が、こんなちんけな花で終わるなんてあり得ない。
俺は無我夢中で鎌を振り回した。黄金の花と謳われたそれは、気がついた時には目にも鮮やかな真紅に染まっていた。
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