第6話 俺の過去と決壊する心・・・

さて、俺はなぜ先生方に囲まれていいるのでしょうか?

これから何が執り行われるというのか?

先ほどまでいた菅原すらもこの場からは居なくなっている。


今日はバイトが休みの日だからまだ時間的には余裕があるが、それでも早めに解放されたい。


バイトがない今日は母方の祖父と祖母の家に帰らなくてはならないからだ。

別に帰るのが嫌なわけではない。

母にさえ会わなければ居心地もいいし。


父さんが行方不明になって、大騒ぎになった後、母とは顔を合わせてもまともに話をしていない。非常に気まずい空気になるから、あまり会わないようにしている。妹とはうまくやっているようだけど。接点があるのはお金のやり取りがあるときや強制3者面談になった時。怒られるイベントがあるとき。

母も看護師として第一線に立っているから忙しいのは分かっているが、淋しいものは寂しかった。


祖父母のことは大好きだ。昔から甘えさせてくれたし叱ってもくれた。変な比較もされなかったから本当にありがたかった。

事故で行方不明になっている父さんのことについても一切否定的なことを言わなかった。

それが俺にはとても嬉しかった。母方の祖父母にとって父さんは本当の息子ではないにも関わらずだ。


本当に尊敬できる人たちだ。そんな祖父祖母と、10歳の頃から昨年まで一緒に暮らしていた。

ちなみに、父方の祖父祖母とはしばらく会っていない。別に関係が悪いわけではなく海外にいるからだ。

日本に帰ってきた時には会っているし。というか日本にいる時は大体、母の実家である鈴木家で過ごしている。そこで、いろいろな話をする。


だけど、今は、そんな母方の祖父祖母の元から離れ、10歳ころまで暮らした家、俺にとっては実家で一人暮らしをしている。

父が行方不明になって、マスコミやら周囲の人間やらが大騒ぎした結果、小学生だった俺は一時期何も信じたくなくなった。

そんなときにも、過去の幸せの詰まったこの家があれば父が戻ってくると信じられたし、この家が心の支えだったから、ここが好きだったから、たとえ一人であってもこの家に暮らしている。


家電はほとんど残っている。数年前マスコミなどから避難するために鈴木家に引っ越した時のままだった、祖母がたまにきて風を入れたり掃除をしてくれていたので生活はすぐにできた。


違うのは、母と妹の荷物がすっりなくなっていることだけだ。


一人暮らしをするにあたって祖父母とは何回も話し合った。

最終的に祖父母の出した、一人暮らしの条件が、食費は自分で負担する事。掃除はまめにすること、テストで赤点を取らない事。

それから安否確認のためアルバイトが休みの日は鈴木家で食事をする事。これを破らない限り俺はこの家にいられることになっている。


閑話休題

そんなわけで俺は、早めに帰らねばならないのだけど。と、ソワソワしている俺に校長が苦笑いしながら話しかけてくる。

「まだ、私のことが苦手かな?こうして話をするのも久しぶりになるね?以前より元気にしているようで何よりだよ。友達のおかげかな?勉強はもう少し頑張ってくれると嬉しいかな。ちなみにそんなにそわそわしなくても、先ほど君のお婆様には連絡をしてあるよ。帰りは私が送るから安心して欲しい。」

「ありがとうございます。勉強の方は...もう少し頑張りたいと思いますが、帰りは一人で帰るから大丈夫です。お気遣いなく。」


何故かこの人たちは、俺のプライベートを把握している。ちょっと怖い。たぶん菅谷とか磯部あたりに聞いているのだろう。


「先ほどの菅谷くんの話じゃないがもう少し大人を頼りなさい。」


そうじゃなくて、最近はバイク通学してるから本当のことを言いにくいだけなんだけど。と、そんなことを考えていたら石井先生から、びっくり発言が出た。


「バイクが、磯部のうちにあるのだろ?今日は諦めて大人しく叔父さんの車で帰りなさい。なんだ?私が知らないとでも思ったか?お前、通学カバンの中にライジャケとグローブしまっているだろ?大きめのリュックだからわからないと思ったか?バレバレなんだよ。怜雄にも伝えといた、泡吹くくらい驚いていたぞ。www」

すると校長から、

「石井先生、学校では校長ですからね。それからあまり生徒を揶揄わないように。君もだよ、君の事情を知っているからバイクの件は容認しているとはいえ、少し自重してくれると嬉しいです。

今日ここに残ってもらったのは、君のお父さんのお話をするためです。

お父さんの件は残念でしたね。行方不明になられて7年が経過し、死亡届も提出されたそうです。それでもまだ探しに行きますか?

きっと、お父さんは安全なこの国で元気に育ってくれることを望んでいると思いますよ?・・・・・っゴメンな。私にもからこんなことを言ってしまうが、君の気持ちはわかってあげたいと思っているのだよ。しかし、もう事故から7年も経ってしまったのだ。時間とは残酷なものだ。痕跡も残っているかどうか。」


「母から説得するように言われたんですね?申し訳ありませんがそれだけはできません。父のことは諦めたくないんです。母は諦めて死亡届を出したみたいですけど。俺は納得してません。現に父方の祖父と祖母は現地で父の事を探しています。俺はせめて父が生きた痕跡だけでも探したいとおもっています。父は空手家です。暴力には負けない。それに父は救助技術のエキスパートでした。そんな父が二次災害くらいで簡単に死んだりしないと今も思っています。子どもの頃はそのせいで周囲から偽善者扱いされたり、マスコミからも勝手なことを言われ、書かれ悲劇の人扱いされて色々な人に叩かれました。妹もだから何も言わず沈黙した。周りの目を見て上手に生きようとしている。

変わり者は俺一人で十分だ・・・・・・・・・・・、

信頼すれば裏切られる。平気で嘘をついていきやがる。だから他人は信じられない。信じたくないっ!!!!!」


色々あって疲れていたせいもあったのだろう、俺はつい感情的になってしまった。バツが悪くなり下を向いて奥歯をかみしめていると。石井先生が、

「泣いていいんだぞ。そんなに堪えてなくていい。もっと気持ちを吐き出していいんだ。溜め込みすぎて壊れるよりよっぽどいい。」

そう言いながら俺を抱きしめてくれた。


「あ”あ”あ”ぁぁぁう”ぁぁーーーーーーーーーーーーーー!」

気が抜けたのか、感情が爆発したのか、恥ずかしながら大声をあげて泣いてしまった。

15分ほども泣いただろうか?


すこし、落ち着いてきたところで、再び校長が今度は優しい笑顔を浮かべながら説明してくれた。

「実は、君のお母さんは私の生徒だったんだ。それはもうね、すごいスケバンでね。ずいぶん手を焼いたものだよ。

あっ、スケバンってわかるかい?女性版の番長のことだよ。」


「校長、たぶん番長がわからないのでは?」といいながらさっきから空気になっていた神田先生がスマホので画像を見せてくれた。

要は不良だったということらしい。それも筋金入りの・・・。


「そのスケバンのお母さんが、君のお父さんと交際するようになって、まるで人が変わったようにおとなしくなってね。僕の言うこともきちんと聞いてくれるようになったんだよ。

君のお父さんの消防官になるという夢を傍で手伝いたいから私は看護師になるといってね。本当に看護師になった時には驚いたものさ。お父さんは大学を出た後消防官になったようだし。夢を叶えた二人は私の誇りだ。」

「父と母は同級生だったんですか・・・。知らなかった。」

「それはそれは仲の良いカップルだったよ。学年でも有名だったよ、今でいうバカップルとして。」

「そうなんですね、なんか恥ずかしくなってきた。」

「そして君は、その二人の愛を受けて生まれてきたんだ。

とても、愛しているはずだよ。

今はすれ違ってしまっているかもしれないけどね。お母さんはね、お父さんがいなくなったときすごく混乱していたんだ。

すぐにでも現地に行きたい。でも、君たちを連れても行けないし、ましてや君らを残して自分だけ行くことなどできないとね。

君は知らないかもしれないけど、お母さんはね、とても優秀な看護師なんだよ。国内で大きな災害が起きたときは災害派遣ナースとして一番に飛んで行って救護をしてきたんだ。それがお父さんの一助になると信じてね。」

「そうなんですか・・・・。知らなかった。」


「でも、そんな彼女だから気が付いてしまったんだ。被災後、救命のタイムリミットは72時間とされている。それがどんどん過ぎて行っていることにね。」

「たった、72時間・・・・。それは、知ってはいました。でも!」


「でも、それでも君はお父さんの生存を信じ続けたよね。それが痛ましかったんだ。最初は、先に諦めてしまったことが後ろめたかったらしい、それから君と顔を合わせることが怖くなったそうだ。

その分、幼かった妹の楓ちゃんを可愛がるようになった。

それが君との仲を決定的に悪くしてしまったのだろうね。

お母さんは君のことは心配していたよ。本当だよ?

先日も私のところに来ていてね、お父さんのことを泣きながら報告してくれたよ。あと、君のことをよろしく頼むと。君はいろいろな人から傷つけられてそれでも父親を信じる強い子だと。君のお母さんが自分の誇りだという。私は、そんな君のことも誇りに思うよ。」

「ありがとうございます。母がそんなことを・・・。でもやっぱり俺は・・・。う”ぅ”ぅ」


また涙を流し始めた俺を優しく抱きしめながら、石井先生は言った。

「さっき、仁も言っていたがゆっくりでいいんだ。

ゆっくりでいいから友人でもいいさ、先生でもいい。頼ることを知りなさい。」


俺が、泣きやみ落ち着いたタイミングで、校長先生から

「さあ、今日はすっかり遅くなってしまったね。約束通り私が、君の実家に送らせてもらうよ。でないと、君のお婆様に怒られてしまう。」


「ありがとうございます。お願いします。」


「ああ、帰りの準備は仁がしてくれている。ハジメの荷物は職員室にあるはずだ。取りに行こう。」

「菅谷が?まさか、この話のことまで知っていたのか?あいつ。」

「まあ、菅谷はお前のこともきにしていたみたいだしな。でも、お前のことを心から信頼しているはずよ。あいつもハジメとは違った意味で孤独だったみたいだからね。たまにはあいつの悩みも聞いてあげなさい。信頼関係は持ちつ持たれつから始まるもんだよ。」


「押忍。ありがとうございます。先生」


「大切な弟弟子だからなお前はwww」


神田先生って無口ではないはずなのに静かだなって思ってたら後ろ向いて号泣してんじゃん。さすが熱血漢だ。感情移入半端ない。


こうしてやっと家に帰れる俺であった。








※ このお話はフィクションです。消防関連の事故を題材に取り上げておりますが日本からの災害派遣に於いて消防官(消防士)の死亡例はありません。実在のお店、メーカー、バイク・車も登場しますが一切、実在の物とは一切関係ございません。ご了承ください。




















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