第4話 自己中と独善とDQN・・・
さて、伊藤さんが加わり、困惑しているなか再び岳が口を開く。
「えー・・・と。俺としても想定外のことなんだけど、なんで瞳が来たの?今日のこと教えてないよね。俺はこのまま話を続けてもいいのか?」
「もちろん。わざわざ、この部屋を用意した上に関係者に根回しまでしているんだ。何も話さないで帰るなんて、俺は許さないよ。」
と菅谷がいい、俺は何も語らず岳の目をみて早くしろと再び促す。
「関係者か、どこまで話が及んでいるのか少し怖い気がするな・・・。」
「俺が何の話をしに来たのかお前らもわかっているのだろうが、一応けじめとして、あの時のことをきちんと説明する為に来たんだ。こう言っては何だが、あの時は、口を開くたびに殴られてたからな。碌に謝ることも出来なかったしな。それに、あの後は近づくこともためらうほど怖い雰囲気を纏っていたからさ・・・。」
「・・・俺は、お前に対して嫌悪感はあっても、お前を殴ったことについて罪悪感はないし、謝罪をしようとは全く思っていないよ。先に手を挙げてきたのだって、
「あ、ああゴメン。まずは、謝罪からだ。
許してもらえそうにないが、俺がまともじゃないことをしたのは事実だ。すまなかった。あと、悪いが少しだけ言い訳を聞いてほしい。」
「・・・・・・・・。」
「実は、瞳とは幼稚園から小学校までは同じところに通っていて、とても仲がいい友達だったんだ。所謂、幼馴染みというやつだ。
でも、中学に上がるタイミングで俺が急に引っ越ししてしまって。しばらくして瞳も引っ越してしまって、当時はスマホなんて持ってなかったし音信不通になってしまったんだ。」
「それで、会うことができなくなって、初めて瞳のことが好きだったんだって気がついてさ、初恋ってやつだったんだよな。でも、瞳とは連絡も取れないし、もう会えないって半ばあきらめていたんだ。」
「・・・・・。」
「実は、入学式の日、瞳の存在に気が付いて、すごく可愛くなっていたことに驚いて。でも、忘れられていたどうしようと考えてしまうと怖くて、声を掛けにも行けなかったんだよ。
部活もあったし、話しかける切っ掛けも見つからないうちに、モエ君と瞳の交際の噂を聞いて慌ててさ、瞳に声をかけたんだ。
それで、瞳も俺のことを覚えてくれていてくれたのが本当にうれしくてさ。」
「・・・・・・。」
「最初のうちは友達に戻れたことがうれしかったんだけど、瞳の話の中にモエ君が出てきて、瞳と交際しているって改めって知って。
横恋慕になっているのはわかっていたよ。それでも瞳とは俺の方が先に知り合っていて、俺の方が先に好きなったのにって、日に日に気持ちが強くなってしまって、それで、夏休みに久しぶりに2人で会った時に告白して、受け入れてもらったんだ。
あの時は俺の方が、モエ君に横取りされたくらいに思っていて、自分勝手な思いだけで行動していたから。
今はさ、自分のことをくそ野郎だと自覚しているよ。」
岳の言葉が切れたタイミングで、菅谷が、
「で?伊藤さんも速攻で岳に乗り換えたんだ?」
と、事実確認をした。
それにたいして、伊藤さんが頷く。
「伊藤さんからも言いたいことある?」
菅谷が、伊藤さんへ再度話を振った。
「私も最低なことをしたのはわかってるつもりよ。
ハジメ君とのカレカノ関係って、ハジメ君の話を聞いていて、あなたには誰かが寄り添ってあげなきゃいけないって思いだけだったの、母性?義務感ていうのかな?。」
「もしかしたら恋愛感情はなかったのかもしれない。」
「マジか・・・・。」
菅谷もありえない・・・と、つぶやいている。
「仕方ないじゃない。本当に好きだった人が、初恋の相手が、久しぶりに話しかけてくれて、昔から好きだったって告白までされたら・・・・。
それでもね、夏休みが明けたらハジメ君と会って、ちゃんと説明して、別れてもらおうと思っていたの。それが、あんなことになって・・・。
私は、
「なるほどね、だからあんな噂まで流したのか。俺が嫉妬して殴ったみたいな話だったっけ?伊藤さんに振られた俺が八つ当たりで岳をぼこぼこに殴ったというやつ。陰口たたかれたときにはびっくりしたよ。」
「やっぱり他人を信用すれば裏切られる・・・。」と心の中でつぶやく。
「伊藤さんの自己中さには驚きを隠せないね。あの後のハジメの様子は知ってるでしょ?噂のせいで大炎上って感じでさ。孤立していって悲惨だったよ。うわさが乱立するもんだから、しばらく俺とも話してくれなくてさ。生徒会にも顔を出さなくなるし。
伊藤さんならハジメの過去の話も聴いて、知ってるんじゃないの?それでよく自分の立場を正当化できたもんだね。」
菅谷のやつも苦笑いしながら言葉を吐いた。
それから少しの間、無言の時間が続いた。
ちなみに伊藤さんは自分が責められることを想定していなかったのか、俯いている。
表情は分からないが方が震えていることからショックを受けているのか。
自分のインモラルな行為に気が付いたかな?モラリストのつもりだったみたいだしね。
無言の状態が続いたためか、
「これ以上話すこともないだろう、謝る気もない人もいるみたいだし。今日は解散でいいかな?」
と、菅谷が話を締めようとする。
俺は頷き、岳は「本当にゴメン」と頭を下げている。
伊藤さんのみ無反応であった。なにを考えているのかわからない。
では解散とソファから立ち上がった瞬間。
顧問の石井先生がはいってきた。
そして、開口一番に。
「恋愛相談は終わったのか?www」
と気楽な様子で問いかけてきたのだ。
「「「え”?」」」
ていうか、ここを借りた理由、恋愛相談ということになってたのか。
「なんだ?仁からはそう聞いているぞww」
ニヤニヤしながらこっちをのぞき込んで見てくる先生。
先ほどの重たい空気が霧散し、カオスな空気へとバージョンアップ。なんて冗談言ってる場合ではないな。
「先生、ノックもなく入ってくるのはどうかと思いますよ。そういうガサツなところ治さないと嫁の貰い手が・・・・。
いえ、なんでもありません。本当に冗談ですからグーパンはやめてください。先生のグーパンもヤバイやつだから!」
「うるさいぞハジメ。私は嫁に行けないわけじゃない。だから大丈夫だ。それにな、嫁の貰い手なら・・・・・いる。」
「何が大丈夫なのかわからないけどわかりましたから、貰い手がいる??、って!痛い!暴力はよくないと思います。だあ”ーーぁぁぁ!菅谷も笑ってないで止めろよ!この人、目がマジだから!!
そうだ!おいしいコーヒーおごりますから!やめないと師範に言いつけますよ!?」
と俺が叫ぶと、急に石井先生は真面目な顔になり。
「ハジメ、そこに正座。」「押忍。」
「師範に言いつけるのはなしだ。」「・・・・」
「ハジメ、返事は?」「・・・押忍。」
「コーヒーは、アグスタがいいな。」
「押忍」
”アグスタ”は俺のバイト先の喫茶店だ。
ゴリマッチョなマスターの淹れるコーヒーがとても美味しい。また、喫茶店なのに良心的な値段でうまいイタリアンが食える店だ。
「さて、早速だが、渡辺、伊藤。
教師として、というより大人として子どもの喧嘩に過干渉になるのはよくないとは思っているが、そうも言ってられないな。」
そう言いながら苦笑いをする石井先生。
「ハジメの肩を持つわけではないが、渡辺は殴られても仕方ないことをしたんだぞ。それはわかるよな。大人の世界であれば痴情のもつれで恐ろしい事件も起きるくらいだ。」
「はい・・・。」
「まぁ、とは言え、ろっ骨を折るほど殴らなくてもいいとは思うけどな。反省しろよ、ハジメ。」「押忍」
「それから、自分のしたことを正当化したかったのだろうが、噂話を利用して生徒を扇動したのはやりすぎだ。伊藤。」
「・・・・・・・・。」
「実際、あの時はハジメと渡辺、二人とも停学になってもおかしくなかったのだが、芹沢生徒会長が状況を調べ上げたうえで、情状酌量の余地ありと教師側を無理やり説得したからね。ハジメは生徒会という首輪までされることになったんだが。」
マジか。生徒会に入れられた本音が首輪ですか。もう少し言い方ってもんがあるでしょ。先生・・・。でも、そんな気はしてたよ・・・・・・。orz。
「伊藤はなんで自分が責められているのかまだわからないって顔しているから、もう少し説明してやる。」
「・・・・・・・・。」
「貴女は噂を流しただけとはいえ、貴女が生徒を煽ることでハジメの学校生活を一時的にとはいえ壊したんだ。2年生に進級する前に仁と一緒に生徒会役員をやらせたおかげで大分状況が落ち着いたから良かったと思うよ。あのままで放っておいたら、単純ないじめよりもっとひどいことになっていたかもな。」
「わたしは、そんなつもりじゃなかったんです・・・。」
「そんなつもりはないといってもな。状況証拠もあるし、これは生徒指導部の教師が措置を検討すべきところであったが、ハジメと渡辺の喧嘩のこともあり、今回だけは厳重注意のみとした。それが良くなかったのかもな、まさか罪悪感もないとはね。反省文くらいは書かせるべきだったかな。」
「あんなに大ごとになるなんて思ってなかったんです・・・。」
「渡辺もだ。殴ったハジメも悪いが、渡辺の方から手を出したと聞いている。ハジメに伊藤を連れていかれるとでも思って逆上でもしたのか?短慮すぎるだろ・・・。
お前も1年でバスケ部のレギュラーメンバーだったんだろうが。
横恋慕しておいて、伊藤とキスしていたところをハジメに見られて、喧嘩を仕掛けるなんて。あまりに身勝手で、器が小さいにも程があるぞ。」
「・・・・・面目ないっす。」
やっぱり、あの時、芹沢会長と久美あたりがあの乱痴気騒ぎを見ていたのだろうか?
それなら止めてくれてもいいと思うんだけど。いや、止めないか。むしろ参加されなかっただけましだろう。
しかし、俺はいつまで正座をしていればいいのだろうか?
ん?菅谷のやつ俺を見て笑ってやがる。
「伊藤、お前は一人の男の尊厳を踏みにじったんだ。申し訳ないとは思わないのか?」
「ん?ハジメはいつまで座っている気だ。さっさと立て!」
「えっ?!理不尽?!」「あ?早くしろっ」
「押忍。」(あ”ぁ”ーー靴はいたまま正座はさすがに痺れたぁ)
「伊藤には、ハジメが孤独で寂しいやつに見えたんだろうな。それも、間違えではないのだが、恋愛と同情は違うぞ。履き違えるなよ。」
「私としては、ハジメ君が一人ボッチで、寂しそうだったから・・・、一緒にいてあげただけなのになんで・・・。それでも私が悪いんですよね?
それなら、謝らせていただきます。ごめんなさい・・・・・・。」
石井さんが納得がいかない顔をしている。
ここまでくると独善的というか毒善的だな。
「モエ君、改めて、すまなかった。許してほしい。ゴメン。」
「だそうだ。ハジメもこの二人、いや、渡辺の謝罪は受け入れておきなさい。」
「はい。岳、いや、渡辺君。痛い思いさせて悪かったな。ま、八つ当たりだったんだから勘弁してくれ。金輪際かかわることもないだろうが。」
「そうだよな・・・、友達に戻れるわけないよな・・・。」
「それから、伊藤さん。短い間でしたがありがとうございました。二度と言葉を交わすことはないと思いますので、最後に、もう2度と”ボッチで寂しそうだから”なんて独善的な理由で人の心を弄ぶようなことしないでほしい。俺からは以上です。
この部屋をでたらもう他人ですからね。用が済んだらお帰り下さい。ここは本来部外者立ち入り禁止ですので。」
そういって、俺は二人を突き放す。あ”ー疲れた。
菅谷は、俺がソファーに腰を掛けたのを見て、黙って二人を出口へエスコートする。イケメン紳士だ。
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