第37詩 【村の空はパレット】


向こうの山に小さく見える


茅葺きの小屋から煙が立ち上る



山径を人は小さく滲(にじ)んで


牛と一緒に帰ってゆく



村中のトタンの屋根から


夕餉の煙が雲と湧く


そうして村ごと雲の原



何処かの屋根の朧(おぼろ)からしきりにする


縞シャツの猫の足音



バナナの下の洗濯物の一群(ひとむれ)も


活発に魚のようにはねている



つぶら影絵に扇をひらき


夕焼けを載(き)る鳥の一群(ひとむれ)もある



遥かに浮かぶ山稜は


もう透明な眠りの中に居る



……おまえは もう

  紫紺の着物の娘に抱かれて眠れ……



村の空はパレット


絵の具のチューブは全部(すべて)


バナナのむいた皮のよう



山は静かにねんごろに


山の世界のコーランを読む


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