第26話 新大陸と出会いですか?

 アリスとミライの戦いだったが、ミライが戦意を消失したことでアリスの勝ちとなった。


 その後、地獄耳のミゲールに


「おいおい少年、アリスの何が見えて戦う気がなくなったんだ? このこの!」


 とミライをからかっている姿を何度か見かけたが、アリス本人には何のことかわからなかった。


「それじゃ、負けた俺を総本山に送り帰すわけか?」


 そうミライは言い出したが……


「いや、お前が持っているのは水の紋章だろ? 正直に言えば、実力が知りたかっただけだ。 わざわざ、海の旅で水属性を追い返す馬鹿はいないだろ?」


 そう言うミゲールの言葉に、「納得いかねぇ!」とミライは叫ぶのだった。



 ―――そして一週間が経過した――――



「いやぁ……いろいろあったね」とミゲールは船の上。


 目前に見える大陸に感慨深い言葉を呟いた。


「襲い掛かって来る巨大な船の正体がミミックだったり、空を飛ぶ幽霊船団、海の魔物を操る少女――――」


「全部、先生がぶん殴って倒してしまいましたね」とアリス。


「よせやい、誉めるね。世界が脆すぎるだけだぜ」


「いや、誉めてるわけじゃないと思うぜ……」とミライは呟いた。


「そんなことよりも……」と興奮を隠せ切れていないのはヨルマガだ。


「皆さん、新大陸が見えてきましたよ!」


 前人未踏のはずの『新大陸』 皆、感動がないわけではないが……


「さすがに、どこかの船が国旗を突き刺して帰ったって形跡はないか……」


 ミゲールの言う通りだ。『前人未踏』は形だけ、非公式なら漁船団は海が続く限り、どこまでも船を進ませる。


「当初の計画通り、新大陸ならでは食材を採取でも行くかぁ」


 そう言って、船から陸地に飛び降りようとするミゲールにヨルマガが待ってをかけた。


「おい、なんだよ。人がやる気になっているのによ」


「今回、依頼をしたのは晩餐会で出す料理の食材です。過去に例のない料理への挑戦として『新大陸』で……」


「あ~ いかにも、新大陸にしかいませんって言い訳できない獲物は都合が悪い……そう言う事か?」


「はい」とヨルマガが頷く。


「それじゃ、今回の獲物は――――」


「新大陸付近の魚介系がメインになります」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


「どうよ? この日のために新調した釣り竿は?」


 ミゲールが見せびらかす釣り竿。 その見た目から「本当に釣り竿か? 武器じゃなくて?」なんて思わなくもないが、誰も口に出さない。


「糸は鉄性だ。簡単にゃ切れやしない。竿も国一番の剣匠に、無理を言って作って貰った……糸は切れない。釣り竿を折れない……コイツは無敵だぜ?」


ミゲールはご機嫌で餌を付けると、海に向かって――――


 30分後


「釣れねぇな……」


 そう呟く、ミゲールの周囲。 アリスも、ミライも、ヨルマガも普通に釣れていた。


「ヨルマガさん、この魚はどうですか? 新種ですか?」


「う~ん、新種ではありませんが、非情に珍しい魚ですね」


 釣りに必要なのは忍耐力……だけではない。 時間帯、水面の気温によって魚は移動する。


 魚の動きを想像して、その居場所を狙うのだが……


「暇だ。飽きちまったぜ。どうせなら、潜って直接、魚を掴んで……」


 そんな時だった。 ミゲールの釣り竿がしなった。


「――――ッ! コイツは大物だぜ。特別性の釣り竿がしなってやがる」 


 こうなると釣りは競技スポーツだ。 魚の動きに逆らわず、体力勝負に持ち込む。


 駆け引き、人間と魚の心理戦だ。そして――――


 水面に徐々に、黒い魚影が見えて来た。


「オラっ!」とかけ声と共にミゲールは釣り竿を上に跳ね上げさせた。


 そこで初めて見えた獲物の正体は――――人間だった。


 いや、正確には人間ではない。


 亜人だ。なぜなら、下半身は魚……人魚マーメイドだ。


「……」と人魚を目を合わせたミゲール。 予想外の出来事に思考が停止した。


 だから、反応が遅れる。 人魚の腰、鱗の隙間に釣り針が引っかかっていた。


 そこを人魚は手にしていた武器――――三又の槍――――で糸を斬る。


 鉄でできた糸だ。 簡単には切断できないはず。 しかし、水面で何度も抵抗していたのだろう。


 何度も斬撃を受けていたと思える鉄糸は、ついに切れた。 自由になった人魚は水面に逃げ込んでいく。


「させるか!」とそれを追ってミゲールは水中に向かって飛び込んだ。


 水に入るよりも早く獣の紋章を使っている。 ミゲールの魔法は変身魔法。


 彼女も追跡する対象である人魚と同じ姿に変身を終えていた。


 そして始まったのは水中の鬼ごっこ。


(やっぱり本物の人魚――――こっちが想像していたよりも、数段速いぜ。けど、私だって!)


 距離に差が生まれていた両者。ここでミゲールは加速を始めた。


 そもそも――――なぜ、ここまでミゲールが必死なのか?


 それには、深い理由があった。 


   

   

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