第7話 古代遺跡と怪しげな儀式
石を積み上げた作られた古代遺跡。 ピラミッドだ。
とは言え、砂漠の国で王の墓とは別物。 神聖さには違いないが――――
「おそらく祭壇。つまり、大がかりな儀式が行われた場所だ」とミゲールが説明しながら進む。
警戒は――――しているような、してないような。普通に歩いて入口らしき場所に進む。
「罠には気をつけな。お前の常時展開されてる風の防御魔法は、貫通されないだろうが……それでも、倒し方は幾つか――――」
ミゲールは最後まで言えなかった。 なぜなら、内部に足を踏み入れた瞬間に罠が発動。 落とし穴に姿を消した。
「ミ、ミゲール先生!」と飛行魔法で穴に飛び込もうとしたアリスだったが――――
「落ち着け、アリス。 この程度の罠で取り乱すんじゃない」
ミゲールは落ちた穴から、ジャンプした戻ってきた。
「――――っ」とアリスを驚かせたのは、その姿だった。
「なんだ? いい加減、私の魔法になれたらどうだい?」
「いえ、先生の変身魔法――――なんで人魚に変身したのですか?」
落とし穴から戻ってきたミゲールは人魚に変身していた。
「下は水路だったからな。 下手に流されると戻ってくるのに厄介だろ?」
彼女の魔法。 地属性から発展させた獣の紋章。
その効果は主に、魔物への変身だったが……
(初めて会った時も、猫の獣人でした。どうして、先生の魔法は本人の性格とはかけ離れて――――可愛いとされる魔物に変身するのでしょうか?)
そんな事を考えていると、表情に出たのだろうか?
「なんだい? 私の可愛い魔法について考察していたのか?」
「はい」とは言い難いミゲールの言葉だったが、アリスは素直に頷いた。
ミゲールは人魚姿から、元に戻った。遺跡内部を進みながら、ミゲールは教師としてアリスに説明を――――授業を始めた。
「コイツは私の経験則だけどよぉ。魔法ってのは、本人の願望が反映されている。私はそう思うだ」
「願望の反映……ですか?」とアリスは、自分の紋章を見た。
「そうさ。私の地属性は頑丈さ。始まりは強さへの憧れ……だったのかも知れないね」
いつも自信満々で『地上最強の魔法使い』と言われるミゲール先生。
その魔法使いとしてのスタート地点が、強さへ憧れがあったと言われても、今では想像が難しいとアリスは思った。
「そう言う意味じゃ、地属性から獣属性に進化したのも納得だろ? 魔獣は人間よりも肉体的に強いからな」
「それは、ずいぶんと単純ですね」とアリス。 それは軽口ではない。
複雑で精密な魔法は評価の対象となる。
それと同じ――――単純で強大な魔法も、評価は高い。
だから、アリスの言葉は、どちらかと言えば称賛に等しい。
ミゲールは続けてアリスの魔法についてに移る。
「お前やモズリーの風属性は、自由への憧れ。あるいは強い目的意識……そうじゃねぇのか?」
「私の……自由への憧れ……強い目的意識……」
「お前は何かやりたい事があるんじゃないか?」
「私は――――」とアリスは思い出していた。
初めて風の紋章が現れた日のこと。
大人になるまで生きれないという死への恐怖。それと同時に強いイメージ……
それは、夜空に浮かんだ満天の星空。だったら――――
(だったら、私は何をしたいのかしら? 星? 私は星に――――)
「おっと、自分探しは大切だけど、自分発見の前に命を失ったら意味がないぜ。そこを見ろよ」
ミゲールの言葉に考え込んでいたアリスは、緊張感を取り戻した。
ここは古代遺跡、危険地帯だ。どんな罠が――――
「え?」とアリスは驚いた。 そこには足跡が残っていたからだ。
埃と砂。 その溜まりを踏み抜いたためにできた跡。
「この足跡、古くないぜ。たぶん、男性のサイズ――――もう少し、情報を取ってみるか?」
そう言うと、ミゲールは獣の紋章を発動。 今度は獣人――――猫ではなく犬にも変身できるらしい。
獣人化による優れた五感。特に臭いを辿る。
「来たのは2日前……偶然と言うよりも定期的に出入りしている人間が数人。 鍛えられている――――文明の臭いがしないね」
「文明の臭いがしない……ってどういう意味ですか?」
「鉄とか、洗剤とか、そういう臭いさ。獣のように生活してる人間――――つまり? どう思うか、我が生徒?」
「――――」とアリスは無言で考える。 出した答えは、
「まだ、ここを祭壇としてる人たちがいる? ここが公にされた後でも、隠れて儀式を続行している原住民?」
「あぁ、どう見ても滅んだ文明の残された遺跡だと思っていたが、まだ生きているなら――――コイツはヤバいかも事件だぜ! 大規模な儀式を行おうとしているぜ?」
「大規模な儀式――――何をしようとしていると思います?」
「――――昔は、この遺跡を作るほどに栄えていた町があったはずだ。それが痕跡がなくなるほどの何か――――周囲から人が逃げ出すほどの何かを起こした大魔法」
ミゲールの言葉を聞くとアリスは頭がクラクラしてきた。
「流石の私でも、想像がつかねぇ。邪神でも呼び出そうとしてるんじゃないか?」
「そんな、見る限り誰も立ち入ってない……何百年も人が来ていないように見えるのに、どうして今――――よりによって私たちが来ているタイミングで!」
「まぁ不思議だよな。隠れてコソコソと儀式を受け継いできた連中が、なんで今のタイミングなんだ?」
そう言いながら、ミゲールは考える。
「やっぱり、あれだ……調査の前に国政と周辺各国の情報集めをサボっちゃダメだな。まるで見当がつかねぇ!」
「き、期待させないでください」
「邪悪な妖術師に騙されたか? 現実的なのは、原住民が自然災害で壊滅的被害を受けた。あとは土地を奪われ追い出されようとしている国への怒りと怨み……そこら辺がよくあるパターンだな。私の経験則だけど」
「よくあるって言うほど、そんな経験を積んでいるんですか!」
「そうだ。私の弟子になった以上はお前も慣れておけ」
「慣れたくありませんよ、そんな事件に」
「おっと静かに――――声を出し過ぎたみたいだ。誰か来るぜ?」
「……誰のせいですか」とアリスは声を小さくする。
そのまま、2人は物陰に隠れて様子を窺う。すると――――
人影が現れた。 3人――――ゴブリンと見間違うような武装をした人間だ。
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