魔法令嬢アリスは星空に舞いたい ~病弱だと思い込んでる少女は『世界最強の魔法使い』に弟子入りして~
チョーカー
第1話 アリスは魔法に目覚めます
アリスは、マクレイガー公爵家の1人娘だった。つまり貴族令嬢になる。
そんな彼女は――――
唐突に余命宣告を受けた。
「残念ですが、アリスさまは成人を迎えるのは難しいでしょう」
主治医が両親に自分が大人になるまで生きれないと説明している声。
アリスが眠るベットにまで聞こえて来た。
普段は、聞こえるはずのはない隣の部屋での話声。
泣き崩れる母親とそれを慰める父親。
しかし、奇妙な事に、それが聞こえているということは――――
いや、彼女――――アリスとって、死より怖いものはない。
まだ、彼女は7歳なのだ。 今でも恐怖に怯え、ベットで1人で震えている。
そんな時だった。
「え? なに? 手が光って……」
彼女の体に変化が起きた。 それは風の紋章。
将来、魔法使いになる事を約束された魔術を宿す紋章。
後に『星渡りの魔法使い』と言われるアリス・マクレイガーが、魔力を得た瞬間だった。
ただ、紋章の輝きは、窓から見え星空の光に似ていて、
「……凄く綺麗」
それが印象的な思い出として、記憶に残った。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
1年後、アリスが8歳になった頃。
「お嬢様、お嬢様……どこです?」
メイドがアリスを探している。
彼女の名前はメイ・ウェザー。 アリス専門の従者として育てらている。
そのため、メイドと言っても年はアリスより2歳上の10歳だった。
そんな彼女をアリスは屋敷の屋根から観察していた。
「まったく、メイたら。一生懸命になって、そんなに私に婚約をさせたいのかしら」
今日、彼女は両親から、婚約者の話が出たのだ。
相手は王族の関係者らしく、王位継承権もあるとか、ないとか……
しかし、まだ8歳のアリスは逃げ出した。
彼女は他者に(それが両親であろうと)自分の将来を決められることに抵抗をもっていたからだ。それが幼い頃に、医師から余命を告げられたことと無関係ではないだろう。
彼女は、魔力を得て1年。魔法使いの家庭教師の指導もあってか、アリスの風魔法は自身を屋根まで飛ばすことができるようになっていた。
彼女にとって、屋敷の屋根は都合の良い隠れ場所だ。
「ここも、見つかるかもしれないわね……そうだ」
アリスは体を起こすと足場の悪さを気にせず、屋根を上を走り出した。
そして、屋根の端。 勢いをつけてジャンプ!
「風の精霊さん、お願い!」
風の紋章に力を込めると、彼女の体は羽のように軽くなる。
屋敷の庭を越えて、壁を越えて……敷地の外に着地した。
彼女は、こうやって屋敷を抜け出して、遊びに出かけていた。 もちろん、誰にも内緒だけど。
彼女の両親は、アリスが成人まで生きられないと医師から告げられて以降、アリスを甘やかしてきた。
結果――――
こうして、お転婆に……いや、元気に育った。
医師からは「もう心配ありませんね。20歳を越えても大丈夫」と太鼓判を押されていたのだが……それをアリスは知らない。
本人は、
「どうせ20歳までの短い人生! 人の5倍は楽しまないと!」
それを信念に生きる事にしたのだ。
そうして、トテトテと彼女は歩く。屋敷を囲む森の中を……
(あれれ、どこか変。魔法の精霊さんが騒いでる感じがする)
アリスには風の精霊が見える……わけではない。 なんとなく、その存在を感じる事ができるだけなのだが……
普段とは違う精霊たち。 妙な不安を感じていると……
「あら?」と人の気配に気づいた。
(珍しいわね、こんな森の中に人がいるなんて……もしかしたら、悪い人が隠れているのかもしれない)
ゆっくりと、様子を窺う。すると、川辺で釣りをしている少年がいた。
よく見ると釣り竿を石と木で固定していて、横になっていた。
「寝ているの? こんな場所で、よく寝れるわね」
アリスは少年を真似をして、自分も横になった。
(あら、意外とお日様の光が気持ち良いわ。洋服が汚れてしまうかもしれないけど……)
目を閉じて、ウトウトと自分も睡眠へ――――
でも、その時だった。 少年の釣り竿が
「ちょっと、ちょっと君! 起きなさいよ。魚が釣れているわよ!」
「……ん? 何? 君は……誰?」
「いいから! アレ、アレ! あれを見てよ」
「おっと!」と少年は、釣り竿を手に取った。
「これは大物だぞ!」
興奮状態の少年だが、その小さな体が振り回されているように見えたアリスは――――
「ん? いや、お前!? な、なに抱きついてきてるんだよ!」
「い、いいから、釣りに集中しなさい! 私の力を貸してあげるから」
「力ってお前何を言って……いや、お前の体を光が包んで……これは魔力?!? お前、魔法使いか!」
「そうよ! 風の力で助けてあげる」
「……(風が後押ししてくれてる? なんて精密な魔力操作。何者だ?)」
「いいから、釣りに、魚に集中してよ!」
「あぁ、そうだな! タイミングを合わせて……ここだ!」
水面から魚が姿を現した。
その魚は、大きい。もしかしたら8歳のアリスよりも大きいかもしれない。
それを少年は一気に釣り上げてみせた。 ピチピチと地面を叩くように暴れる魚。
それを見たアリスは少年と見つめ合うと、互いに笑い合った。
「俺の名前はエドワード……本名で呼ばれるのは少し嫌いなんだ……そうだな。仲が良い奴にはクロって呼ばれている。アンタもそう呼んでくれたら嬉しい」
クロと名乗る少年は、右手を差し出した。 それを握手だと理解したアリスは握り返すと――――
「私はアリス。アリス・マグレガーよ。この先に家があるの……そうね、名前は好きに呼んで頂戴」
「アリス? マクレイガー? そうか、アンタがあの……」
「あなた、私の事を知っているの?」
「一応……な。ここら辺の領主の名前なら、みんな知ってて当然だろ?」
「ふ~ん、そういうものなんだ」
「……変な奴。そうだ! できたら、早く家に帰った方がいいぜ。妙な魔物が森を荒らしてるって聞いて俺は来たんだ」
「? どういうこと? あなた、昼寝をしながら釣りをしたじゃない」
「あぁ、この魚は惜しいけど、魔物を呼び出すための罠に使おうと思ってな。手伝ってくれたアンタには悪いけどな……」
「そんな、気にしてないわよ」とアリスは首を横に振る。
「ん~」とクロは考え始めた。
「どうしたの、急に?」
「いや、流石に魔物が現れる森を、アリス1人で家に帰すわけにはいかないだろ? 送って行くよ。ただ……」
少年の視線は魚を向いた。 アリスを送る間に、魚が魔物に取られないか、心配になったのだろう。
「それじゃ、私が魔法で家まで運ぼうかしら? そこで料理長に頼んで、持ち運びやすくして貰えばいいと思うのよ」
「なるほど! でも良いのか?」
「構わないわよ。それじゃ、こっちね」
そうして、2人は森を歩き始めた。
「ところでクロは猟師とか、冒険者なの?」
「そう見えるかい」とクロは、お道化たように両手を広げる。
「いえ、見えないわ」
「そりゃ、どうも……実は修行中なんだ。剣の師匠から1人で魔物を倒して来いって命令があってね」
「へぇ、クロは剣士なんだ。まだ私と歳が変わらないみたいだけど、厳しい師匠なんだね」
「あ~ いや、俺は剣士じゃないんだ。俺は――――」
クロは最後まで言えなかった。 彼は気づいたのだ。
ゴソゴソと草木を揺らす、何かが接近してくることを――――
「アリス、どうやら魔物が近づいて来てるみたいだ。その魚は地面に置いて、ゆっくり……家に向かえ。決して走るなよ」
「え? でも、あなたは?」とアリスは、そこで気づいた。
クロは剣どころか武器と呼べるような物を持っていないことを。
「あ、アナタはどうやって、魔物と戦うつもりなのよ!」
「大丈夫だ……俺にはこれがある」
「これがあるって……それ、ただの釣り竿じゃない!」
「確かに、コイツはただの釣り竿だけど、秘密があるんだよ」
「秘密って?」
クロは答えなかった。代わりに、
「……出てくる」と釣り竿を剣に見立てて、構える。
草木から姿を現した魔物。それは熊によく似た魔物だった。
しかし、熊とは明らかに違う、獰猛な赤い瞳。 そして、巨大過ぎる肉体。
そんな魔物に対して、クロはアリスを庇うように前に立つ。
そこでアリスは初めて気づいた。 クロが持つ釣り竿に変化が起きていることに
「アナタの釣り竿に魔力が流れて……クロって剣士じゃなくて魔法使いだったの!?」
そんな彼女の驚きにクロは首を振った。
「いや、違うよ。俺は、魔法使いにも成れず、剣士にも成れない。ただの魔法剣士さ!」
クロの魔力が彼の持つ釣り竿を赤く輝かせる。
そして、対峙する魔物へ――――袈裟斬り。
斜めに、肩から腰に向かって、釣り竿――――いや、もうソレは釣り竿ではなく魔剣だ。クロは、その魔剣を振り落とした。
斬られた跡、魔物に赤い線が残る。どうやら、それは血の色ではないみたいだ。
(あの赤色……斬った部分に魔力が残っている。その魔力が魔物の体に、何か悪さをしているんだわ)
アリスの予想は正しかった。 クロの剣技は、斬った物から生命力や体力、あるいは魔力を奪う効果――――エナジードレイン。
しかし、魔物は斬られた痛みから、野生の獰猛性を向上させていた。
ただの破壊の権化。それが、純度の高い暴力がクロを襲う。しかし――――
『肉体強化』
今度は剣だけではなく、クロの魔力が彼自身を覆った。
アリスの目には追えない素早い動き。 速さに翻弄されるのは彼女だけではなく、目前で戦う魔物も同じ――――
「ごめん。命を奪わせてもらう」
クロの剣が魔物の首を通り抜けた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
倒れた魔物を前にクロは深呼吸を3回。
戦いの恐怖。 生への執着。
深い呼吸は、その2つを忘れて、精神を通常時に戻すための儀式。
それでも彼の両手は震えていた。 まだ恐怖を追い出す作業がうまくいって――――
「やった! 凄いじゃない!」
「え? う、うわぁ!」とクロは驚いた。
体当たりのようにアリスに抱きつかれたからだ。 力を抜いていた彼は耐えきれずにアリスと一緒に地面に転がった。
「凄い! 本当に凄かったよ、クロ!」
「あはははは……そりゃどうも。感動してもらって俺も嬉しいよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます