第40話
光城涼介が命を落とすまで、残り四日。
もうこの四日という数字すら当てにはできないし、当てにする必要もなくなった。
なぜなら『ラストダンジョンメモリーズ』の世界に転生してからずっと抱いてきた不安を、今日中に解消させるからだ。
昨夜、星崎たちとメッセージで話し合った末に、『色褪せし魔城』に踏み込むことを決定した。
『色褪せし魔城』の推奨レベルは400だ。
俺のレベルは426なので、踏み込んでも問題はない。
星崎と朝美も、序盤こそ苦戦するだろうが、魔物を倒していけばすぐに推奨レベルを超えるだろう。
なので今日、星崎と朝美の学校が終わると、『色褪せし魔城』の石碑の前に集合した。鎧姿になって準備を済ませると、三人で石碑に触れてダンジョンへともぐる。
『色褪せし魔城』はファンタジー世界にある古城のような構造をしており、くすんだ白い壁に囲まれた幅広な廊下が続いている。
映画やゲームのなかでしか見たことがない、西洋風の城のなかを歩いていると、本当に異世界に迷い込んだと錯覚しそうになる。
階層はどこまであるのかわからないが、推奨レベルからするに、そこまで深くはないだろう。
第一階層には城門があったが、霧におおわれていて外に出ることはできなかった。そもそもこの城の外側が存在するのかどうかもわからないので、あまり不用意に近づかないほうがいいだろう。進むなら、下層へと降りていくしかない。
今のところ、魔城に踏み込んで帰ってきた冒険者は数が少ない。ダンジョンボスとは別の強敵、シャディラスがいるからだ。既に多くの冒険者がヤツの餌食になっている。
それがわかっていても、『行かない』という選択はなかった。ゲームシナリオと同じ展開なら、『色褪せし魔城』が開放されてから三日後となる明日には、ダンジョン災害が起きて、俺は狙われることになる。
もしそうなれば、明日にでも俺は命を落とすだろう。
だったら、先手を打つまで。殺される前に、殺してやる。
それにダンジョン災害が起きてしまったら、地上で暮らす人たちにも被害がおよぶ。未然に防げるのなら、それに越したことはない。
できれば魔城に入る前にレベルを450以上はあげておきたかったが、こうなってしまっては仕方ない。いまある武器を使って、戦ってやる。
『色褪せし魔城』の出現が早いことの他にも、ゲームとは異なることがいろいろと起きてきた。この先、どんなことが起きてもおかしくはない。
それこそ、これまでのことが些細だったと思えるような、とてつもないことだって起きえる。
そのことを肝に銘じて進んでいこう。
そして俺が魔城で果たすべき目的はダンジョンボスを倒すことではなく、噂になっているシャディラスを倒すことだ。
おそらくシャディラスは、ダンジョンボスよりも高い戦闘能力を持っている。ダンジョンボスを倒すだけなら、俺と星崎たちが協力すれば今日中に果たせるだろう。
けどシャディラスは、一筋縄ではいかない。多くの冒険者たちを葬ってきた実力を持っている。
星崎と朝美も、噂の強敵を発見して倒すつもりだ。そう昨夜のメッセージで言っていた。二人とも、これ以上は犠牲者を出したくないんだ。
周りを警戒しながら歩き進み、第二階層までやってくる。
周りの景色は変わることなく、相変わらず城内の風景が続いていた。
静寂な雰囲気の廊下を進んでいく。
そうすると、不意に音が聞こえてきた。重たい金属を地面に叩きつけるような音だ。
前方に向かって目を凝らす。
銀色の鎧を装備した騎士の姿が見える。右手には剣を握りしめていて、鋭い刃の光が足音を立てる騎士の動きにあわせて揺れている。
すぐに鑑定を行う。
【魔城の騎士】
レベル:400
魔城を巡回する騎士。剣や槍など、個体によって装備が異なる。
魔物のレベルをチェックして、胸を撫で下ろす。
この魔城の騎士とは、第一階層でもエンカウントしていた。といっても、いま目の前にいるヤツとは違って、槍を装備していたけどな。
そいつもレベルが400だった。どうやら装備している武器によって、強さが変化することはないみたいだ。
ちなみに第一階層で出会った騎士は、俺のほうがレベルが上回っていたこともあり、そこまで手こずることなく倒せた。星崎と朝美も、そのときに結構なレベルアップをしたはずだ。
「来るわよ」
白銀の軽装鎧を装着した星崎が呼びかけてくる。
魔城の騎士は剣を構えると、脇目も振らずに突進してきた。その殺気は俺に向けられている。
『修羅に挑みし剣』は使わない。あれは格上と戦うとき、ここぞというときに使わせてもらう。
腰に差した鞘から、『辺境遺跡の剣』を抜いた。
任せてほしい。星崎と朝美に視線でそう伝えると、二人とも意図を察して頷いてくれる。
剣を握りしめ、床を蹴って駆け出す。魔城の騎士を上回るスピードで距離を詰めていく。
こっちの速度に魔城の騎士は一瞬だけうろたえたが、すぐに殺気を取り戻し、握った剣で斬りかかってくる。
十分に目で追える斬撃を、こちらもすくいあげるように剣を振るって応戦する。金属音が響き、剣が弾かれると魔城の騎士が仰け反った。
その拍子に左手のなかに【追尾する短剣】を具現化。連続で二本、頭上に向けて放り投げる。
そして今度はこっちから『辺境遺跡の剣』で攻めかかる。
また金属音。繰り出した斬撃は魔城の騎士の剣によって防がれた。このまま腕力で押し切ることもできるが、その必要はない。
頭上から銀色に光る二つの線が降ってくる。
放り投げた二本の【追尾する短剣】が、魔城の騎士の両肩めがけて落下。肩当てを貫通して突き刺さる。
魔城の騎士が体勢を崩し、片膝を地面についた。
狙い通り隙を生み出すことに成功。握った剣を水平に一閃させ、魔城の騎士の首をはねとばす。
鮮血が噴き出すと、兜が床の上に転がる。頭部を失った胴体は傾いていき、灰に変わって白い魂精石を落とした。
「苦戦するようなら手を貸すつもりでいたけど、杞憂だったようね」
星崎がおもしろくなさそうな顔をしながら、残された白い魂精石を見る。
心配してくれていたってことなんだろう。
他の魔物の気配がないことを確認すると、『辺境遺跡の剣』を鞘に収めて、落ちている白い魂精石を回収した。
レベルは、あがらないか。
おそらくもう『色褪せし魔城』のなかにいる魔物を倒しても、レベルアップは望めない。やはり【好感度レベルアップ】を頼ることになりそうだ。
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