第8話 良い顔立ちの男
食事を終え、椀を水場に持って行けばやる事が無くなる。
すると当然気になって来る。
少し前までやえが寝ていた布団で規則正しい寝息を立てる存在。あれの喋り声は
だけど、声の響き。里に住む者とは少し言葉も違う。
奥様は元々里とは違う地方から来たと言う。だから話言葉が違う。その方が上品な話し方だなどと言う人もいる。
奥様の話し方に似ていたような、それともまた違うような。そんな主様の話し方とすれ違った人との話し方はそっくりであった。
やえは布団で横になってるものを良く観察する。顔を近づければハッキリと見えて来る。やはり人間の男性だ。高い男性的な鼻筋と弓なりに整った眉。
目を閉じているので睫毛が長いのが分かる。里の者より少し白くて立体的な顔。
年齢はやえよりは上だろうが、子供っぽさが抜けきらない
やえはしばらく見惚れる。
下女たちの言っていた良い顔立ちの男とは……
もしかするとこんな顔の事なのでは。
「ん、んん」
と男が寝言とも寝息ともつかぬ物を口から漏らして。気付けば驚くほど、男の顔とやえの顔は接近していて。やえは慌てて飛び離れる。
まだ寝に入ったばっかりじゃ。起こしちゃいけん。
この男性が何者なのか。
それはまだ分からないが、起きたら訊ねてみればいい。
やえは手持無沙汰になり家を見回してみる。と何やら汚れている。床も壁も近づいてよく見ると分かる。埃が汚れが溜まっている。
やえが現在着ているのは真っ白な着物。これで掃除は出来ない。打掛を脱いでも中身は長襦袢。それまで脱いでしまうと中身は薄物。多少はしたない恰好ではあるのだが、こんな真っ白な着物を汚す事は出来ない。少しくらいの寒さをガマンするのは慣れている。
布団に入っていた男はお日様が真上に昇った頃目を覚ました。
「あっ、起こしてしもうたかいね。
騒がしくしてすまんね。
掃除してたら夢中になってもうた」
上半身を起こした男だったが、いきなり目を伏せる。
「娘、なんて格好をしてるんだ?!
下着姿じゃないか。
男の前だぞ。
服を、服を着ろーーっ!!!」
男は顔を真っ赤にしていた。
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