第49話 死ぬほど恥ずかしいな、これ……。
今日、二度目だけど扉の前に立つとドキドキする……さっきよりは大丈夫だと思うけど、今度は星恵を置き去りにしない様に気を付けなきゃ。
「──それでは新郎新婦の入場です」と司会者の女性の声が聞こえ、扉がゆっくりと開く。盛大の拍手と共に、また君と踊りたいの曲が流れる。
高校時代の思い出の曲……俺達がお色直し後の入場曲はこれが良いと選んだ曲……感動しない訳がない。俺はまたまた感動して涙をグッと堪える。
俺が星恵を見つめると、星恵も俺を見つめる。俺は「せーのっ……」と声を掛けながら、星恵と共にゆっくり歩き出した。
キャンドルサービスのため、薄暗くなった部屋に入り、俺はスタッフさんからトーチを受け取る──手前のテーブルから中央にあるキャンドルに点火していった。
テーブルを回るごとに皆がお祝いの言葉を掛けてくれる──恥ずかしいのか……嬉しいのか……泣きたいのか……もう感情がグチャグチャで、何が何だか良く分からないが、胸一杯に込み上げて来る高揚感で、これだけは分かる。俺はいま、とても幸せな状況にいるんだって!
──最後にメインテーブルの横に置いてあるメインキャンドルに火を灯すと、更に拍手が強くなる。
「メインキャンドルが点火されました。メインキャンドルには、これからの日々が光あふれる毎日であるようにと願って点火されます」と司会者が紹介し、「さぁ、ここで光輝様から星恵様へ一言いただきましょう」
スタッフが俺に近づきトーチを回収し、マイクを渡していく。BGMがしっとりした洋楽へと変わり、周りに聞こえやすいようにボリュームが下げられた。
新婦への手紙がある事は分かっていたけど……死ぬほど恥ずかしいな、これ……。
「それでは光輝様、よろしくお願い致します」
俺は星恵と向かい合い、胸ポケットから手紙を取り出す。マイクのスイッチを入れると大きく深呼吸して、手紙を開いた。
「星恵へ。君とは高校の時、あるキッカケで仲良くなりましたね。それからお互いの趣味を知って、俺の趣味である釣りを一緒に楽しみました」
「最後の文化祭の時、とある占い師の言葉をキッカケに、結婚がゴールじゃないけど、まずは君とそこを目指したいと言ってくれた事、いまでもしっかり覚えています」
冗談交じりで俺がそう言うと、星恵ちゃんは誰だか分かったようでニッコリと微笑む。
「それからイルミネーションを見ながら俺が告白して、付き合って……その後も色々あったけど、ここまで辿り着けたこと、とても嬉しく思います」
「最後に、君と一緒に行った遊園地で俺はメリーゴーランドに乗りながら、こう思いました。恥ずかしがり屋の可愛い君をメリーゴーランドのように永遠に追い続けていたいって。だから……これからもずっと、一緒に居させてください。光輝より」
星恵は感動してくれた様で涙ぐみながら「うん……うん……」と頷いてくれた。
そして口を開くと「メリーゴーランドは追いかけるだけじゃないんだよ。あなたが追いかけられる方も、ちゃんとあるんだからね。私も永遠に貴方を追いかけたい。だから……そんな二人になれる様、お互い頑張ろうね」
なんでそんな素敵な返しがパッと直ぐに浮かぶんだろ? まるで前々から考えていたようだ。
俺が驚いていると司会者は「光輝様、ありがとうございました。これにてキャンドルサービスは終了です」
俺達はスタッフさんの案内で、高砂席に戻る。
「続いては、ゲストの方に御二人へのお祝いの言葉を頂きましょう。まずは光輝様のご友人の圭子様。お願い致します」と司会者が言うと、圭子はその場で軽く一礼をする。
そして、緊張している様で目をキリッとさせ、真剣な表情で立ち上がり、ゲストに向かってお辞儀をした。
服装は黒のパーティドレスで、髪をスッキリとまとめていて、場にふさわしい恰好をしているので大丈夫だと思うが、親心の様なものなのか、大丈夫かと心配してしまう。
──圭子はマイクの前に立つと、俺達に向かって「本日はおめでとうございます」と言って、お辞儀をした。
立っていた俺達もお辞儀をすると、圭子は「どうぞ、ご着席ください」と、おしとやかに言った。
おぉ、圭子! いつもの圭子じゃないみたいだ! と、失礼な事を思いながら、ゆっくり座る。
「光輝君、星恵さん、ご両家ご親族の皆様、本日は誠におめでとうございます。ただいまご紹介に預かりました新郎友人の松下 恵子と申します」
「新郎の光輝君とは小中高と同じ学校に通った幼馴染で、星恵さんとは高校の時に仲良くなった関係で、これまで光輝、星恵ちゃんと呼んでいるので、本日もそう呼ばせて頂きます」
「光輝との思い出は、やはり学生時代に私の事を、身を挺して守ってくれたことです。その事は今でも感謝しています」
「星恵ちゃん、光輝は頼もしい男です。そして、とある占い師の言葉を真摯に受け止め、結婚を実現させた実行力のある男です。きっと貴女を幸せにしてくれると思いますよ」
それを聞いた星恵ちゃんはコクンッと大きく頷く。
「星恵ちゃんとの思い出は、学生時代に私の気持ちを考えて、会いに来てくれた事です。光輝。星恵ちゃんは一途で可愛いのはもちろんの事、相手の気持ちを真剣に考えて、向き合ってくれる素敵な女性です。きっとその性格は、光輝の力になってくれると思いますよ」
当たり前だ……俺はそれを聞いて、大きく頷いた。
「光輝、星恵ちゃん。二人に共通している事は優しいという事ですね。披露宴の招待状ですが、実は私。二人から貰っておりました。最初はどうしようかと迷ったのですが、二人とも私の事を大事にしてくれているんだと嬉しくて、両方に返事をさせて頂いたんですよ」
それを知らなかった俺は、星恵ちゃんと顔を見合わせて微笑む。
「そんな優しい二人だからこそ、私は幸せになって欲しいと思うし、なれると信じています。二人には既に話してありますが、二人のお蔭で私も来月には結婚を致します。お互い幸せな家庭を築ける様、頑張りましょうね。では、これにて私のスピーチとさせて頂きます」
「本日は御招き頂きまして、ありがとうございました。これからも宜しくお願い致します」と圭子は締めくくり、深々とお辞儀をする。マイクから離れると拍手と共に自分の席へと戻っていった──。
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