第7話 私で良ければ、喜んで……
ある日の夕方。ベッドで横になりながら、携帯でSNSをみていると、また君と踊りたいの映画情報が目に入った。
「今週、公開か……」
観てみたいけど、一人じゃ嫌だな……家族を誘う? ──もっと嫌だ。かといって男友達の中で好きそうなのはいるか? う~ん……居ない事はないだろうけど、実際、そんな話をしたことないから良く分からない。
とすると……思い切って星恵さんを誘ってみる? 一緒に帰った時、興味ありそうだったから、成功する可能性はありそうだ。
「でもなぁ~……」
まだ仲良くなったばかりだし、めちゃくちゃ勇気がいる。どうすっかなぁ……。
※※※
次の日。俺はとにかく話をしようと、休み時間に入るとチャンスを窺っていた。でも……高橋さんと話していて、なかなかチャンスが来ない。
──あ! 星恵さんが立ち上がったぞ。これはチャンスかもしれない!? 俺はいつでも立てる準備をした。
予想通り星恵さんは立ち上がり、教室の前側の出入り口の方へと歩いていく。俺は付け回していると思われるのが嫌で、後ろの出入り口に向かった。
廊下を出ると、星恵さんに駆け寄り「──星恵さん」と、声を掛ける。星恵さんは後ろを振り向くと「あら、光輝君」と微笑んだ。
「──どうしたの?」
話をしようと、授業中に色々とシミュレーションしていたけど、いざ対面すると言葉を失う。廊下に出たって事は何か用事があったに違いない。早く言わなきゃ。
「えっと……今日、一緒に帰らない?」
「え?」
いきなりの俺の誘いに、星恵さんは目をキョトンとさせ驚く。
「ダメかな?」
星恵さんは直ぐに首を振ると「ダメじゃないよ。じゃあ、校門で待ってるね」と言ってくれた。
「うん、分かった」と俺は返事をし、恥ずかしくて直ぐにその場を離れる。
本当はその場で話を済ますつもりだった。でも言葉がなかなか出てこない状況下で、待たせない為には、あぁ言うしかなかった。
体が熱くて、手には汗が滲み出ている。時間は取れたけど……こんな調子で誘えるかな? 不安な気持ちを抱えたまま、俺は教室へと入った。
※※※
放課後になり、俺は掃除を済ますと直ぐに校門に向かった──まだ星恵さんは来ていないか。
俺は制服のズボンから携帯を取り出し、ソワソワしながら星恵さんを待つ──少しして星恵さんは駆け寄ってきて「ごめん、お待たせ」
俺はゆっくり歩き出し「大丈夫。そんなに待ってないよ」と答えた。星恵さんは俺の横に並び、「思ったより掃除が長引いちゃってさぁ~」と、歩き始める。
「そんな時もあるさ」
──そこで会話が途切れてしまう。自分で誘っておいて会話がないなんて、まずいだろ。早く本題を話そうと口を開くと、星恵さんは自分の髪を撫でながら「この間の競技大会の時さ──」
「あ、うん……」
「何で早く帰っちゃったの?」
「え……それは……だって、恥ずかしかったから……」
俺がそう言うと、星恵さんは後ろで手を組む。
「──頑張ってたんだから、そんな事ないよ」
「あ、ありがとう」
良かった……ちゃんと伝わっていたんだな。星恵さんの優しい気持ちで安心した俺は「──前に、また君と踊りたいが映画化されるって話してたじゃん?」と切り出した。
「うん」
「今週、公開なんだって」
「へぇー、そうなんだ」
あれ? 声の感じは明るいが……興味ない? でも、ここまで言い出したんだ。俺はゴクッと固唾を飲むと「一緒にどう?」と、誘ってみる。
星恵さんは「ふぁ!?」と、目を丸くして、こちらに顔を向ける。そして「わ、私と!?」
「うん。一人で行くのはちょっと恥ずかしくて……」
「私で良ければ、喜んで……」
星恵さんはそう言って、照れ臭そうに頬を掻く。なるほど、興味がないというより、完全に自分が誘われると思っていなかったのか。油断している星恵さん、可愛かったな。
「じゃあ、待ち合わせ場所とか、後でメールするね」
「うん!」
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