第24話 過去と今の自分

僕は自室で落ち着かない気分で着替えていた。白いTシャツに、グレーの緩めの綿パンを履いた。いつもなら気にしない姿見に映る自分の姿をじっと見てしまう。


僕は貧弱だ。シャワーを浴びて濡れた真っ黒い髪は目元ギリギリに、長めで切り揃えられている。僕の表情はよく見えない。メイドの時はカツラをかぶるからと、おでこを出したんだ。あの時、僕は自分が曝け出された様で不安だった。



でも本当にそうだったんだろうか。僕は目の前が開けたそのままに、自分を今よりは出せていたんだ。視線をずらして辿る僕の身体は華奢で、細い。運動が苦手だったからって、何もしてこなかったのだから当たり前だろう。


少なくとも小学校でキヨくんと遊んでいる最中は、僕は今より日に焼けて、身体を動かすのは嫌いじゃなかった。僕はキヨくんと離れる理由になるからと、運動することからも逃げ出したんだ。



馬鹿だな、僕は。僕はあまりにも眩しい幼馴染のキヨくんから逃れたくて、必死で離れようと努力してきたんだ。僕が見つめなきゃいけなかったのは、自分自身だったと言うのに。


僕は冴えない綿パンを脱ぎ捨てると、以前家族でハワイへ行った時買って履いた、黒い植物模様のついた煉瓦色のハーフパンツを引き出しから出して履いた。


まだ夏は終わってないんだからおかしくないだろう。キヨくんの家に行くだけだし。鏡に映る僕はいつもよりずっと高校生らしく見えた。



キヨくんの家のチャイムを押すと、思いの外直ぐにキヨくんが出てきた。


「いらっしゃい。どうぞ。」


キヨくんもシャワーを浴びたんだろう。少し髪が濡れてる。僕はそれこそ6年ぶりにこの家に入った。小さな頃から自分の家の様に入り浸っていたこの家に、僕はノスタルジーを感じた。


キヨくんの後を着いて二階へ続く階段を登っていくと、懐かしい部屋のドアが開いていた。



「部屋の雰囲気変わったね。」


僕がそう言って部屋の中を見渡すと、キヨくんが落ち着かない様子で眼鏡を机に置いて言った。


「それはそうだろう。玲が来てたのって小学校時代なんだから。あー、適当に座って。て言ってもあれか。ベッドの上でも座ってて。俺、今飲み物持ってくるから。」


そう言うと、キヨくんは部屋を出て行った。僕はすっかり大人っぽいモノトーンでまとめられている部屋を眺めた。余計なものが何もなくて、殺風景過ぎるくらいだった。未だにぬいぐるみなんか置いてある僕の部屋とは大違いだ。



「俺の部屋って何にもないだろう。ゲームでもする?」


そう笑って飲み物をテーブルに置いて僕を見たキヨくんは、眼鏡を掛けていなかった。そのせいか、僕にはあの頃の優しいキヨくんがそこにいる様に見えた。


「キヨくん、キヨくんは全然変わっていなかったんだ。変わったのは僕の方だったんだね。」




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