第2話 文化祭準備

高校入学時に、僕とキヨくんの母親たちは自分達の息子が揃って松陰高校へ合格した事を喜んで、正門で一緒に写真を撮った。僕たちが一緒に話をしたのはそれが三年ぶりの事だった。


キヨくんの母親がその時に言った言葉が僕には意外な気がした。


「うちの子ね、相当必死に勉強してたのよ。模試でもギリギリだったし。だから玲くんが合格圏内だってママに聞いて、その事話したら急にスイッチ入っちゃってね。ふふふ、玲くんと一緒の高校行きたかったのよね?」


キヨくんは母親に余計なことを言うなって怒っていたけれど、僕には不思議な気がしたんだ。僕たちは今ではもう接点が全然無いっていうのに…。その証拠に中学時代、僕たちが面と向かって話しをした記憶は無かった。



案の定、高校へ入ってもキヨくんは相変わらず皆の中心で人の注目を集めていた。僕はと言えば、勉強は少し出来たかもしれないけれど、目立つ事は苦手で、気の合う仲間とのんびりと過ごしていた。


中学時代と違って、女子がいない男子校は僕には性に合っていた。明らかなクラスカーストもなく、お互いの干渉もなく放っておかれたからだ。何度か先輩からの妙なちょっかいはあったけれど、部活に入っていたわけでもないから、気づけばそれも無くなっていて困ったことにはならなかった。



高三になって、僕たちは同じクラスになった。小学校以来の事だ。クラス委員長であるキヨくんが、どうして生徒会をやらないのかと皆に揶揄われていたのは知っていた。キヨくんが生徒会長だった中学時代を思い出して、委員長も凄いけど、やっぱり実力あるんだなと思った。


本当に僕たちは世界が違っちゃったんだと改めて見せつけられて、同じ高校へ進んだのが何だか苦しい気がして、僕はため息をついた。



「橘、最近ため息つき過ぎだろ。」


そう声を掛けてきたのは、仲良しの箕輪君だ。


「そう?…文化祭の準備って楽しいけど、疲れるね。」


僕が盛り上がっている三浦くんたちの方を眺めながらそう言えば、箕輪君は眉を上げて首を振った。



「自分で気づいてないのか?ま、良いけど。しかし三浦たちは相変わらず盛り上がってるな。来校女子たちもきっと選り取りみどりだ。委員長は総括だけど執事役もやるんだな。似合いすぎるのが癪に触るよ。

この高校は中学で生徒会やってた様な奴らが多いけど、その中でも委員長って頭ひとつ抜け出てるだろ?本当に弱点とかが無いんだよ。ま、ちょっと冷静過ぎる感じだけど、それって弱点でも無いしな。」



僕はチラッと運動部の箕輪君を見上げて言った。


「箕輪君だって本当はあっちのグループでしょ?どうしてメイドか執事しないの?」


すると箕輪君は僕をじっと見つめて言った。


「俺は彼女が来るから接待優先な訳。やきもち焼きだから裏方って決めてんの。それに俺がメイドになるくらいなら、お前の方が向いてるよ。どうして誰も気づかないのか分かんないけどね。」


そう言って僕の頬を指で突っつくと、ニヤリと笑ってペイントの筆を動かし続けた。



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