89種目 ミナミカマバエ

 一月はハエだらけになる可能性があるから、標本の話をするといった矢先に何だが、いずれどこかで書こうと思っていたハエの標本が出てきたので、その話をする。


    ◆


 双翅目ミギワバエ科のミナミカマバエ。

 以下リンク先に写真があるので、他の昆虫はともかく、ハエは苦手という方はご注意いただきたい。


https://kakuyomu.jp/users/r_hirose/news/16817330669653928911


 写真は側面からのもので頭は左側、左下側に前脚があり、大きく三角形に近い形をしているのが腿節たいせつと呼ばれる部分で、その先に続く脛節とそこから伸びるトゲが鎌状となっている。


 昔の本では、カマキリバエという名で載っていることが多かった。その名はもちろん、前脚がカマキリのそれに似た『捕獲脚ほかくきゃく』となっているためだ。

 かつては海外の種と同じと考えられていたが、研究が進んだ結果、東日本にはシキシマカマバエ(別名ニホンカマバエ)、西日本にはミナミカマバエが分布することが分かった。もう一種、九州南部にキアシカマバエというのがいるらしいが、これは見たことがない。

 ミナミカマバエとシキシマカマバエについては、分布域がきっちり区切られているわけではなく、関東北部あたりで両種が一緒に見られるところもあるようだ。


 基本的には、関西在住の筆者の行動範囲にいるのはミナミカマバエと考えていいが、関東や東北からの同定依頼の仕事もあるので、その際には注意が必要となる。


    ◆


 こういう、前脚がカマキリに似た捕獲脚になっている昆虫は他にもいくつかいる。


 半翅目の大型水生昆虫であるミズカマキリ。

 幼虫がアリジゴクとして知られるウスバカゲロウと同じ脈翅目(アミメカゲロウ目)のカマキリモドキの仲間。

 カマバチというハチの仲間もいるが、前脚は鎌というよりトングのような形に変型している。


 これらの種は身を守るためカマキリに擬態しているわけではない。


 同じ生態や機能を持つものがよく似た形に進化する、いわゆる収斂進化しゅうれんしんかというやつである。


 それが何のためかというと、カマキリで見られるように、獲物を捕獲するためのものだ。


    ◆


 ミナミカマバエは、水際蝿ミギワバエという科名のとおり、池や湿地、流れの比較的緩やかな川岸などの水際の泥のあるところでよく見かける。


 体長5mm弱の小さなハエで、さらに小さな虫を前足で捕らえる。

 泥の中に住むユスリカの幼虫を引きずり出して体液を吸うという話もあるが、その小ささゆえに捕食しているところを見たことはない。

 近付くとすぐ逃げるために、現地での撮影も容易ではない。


 ネットで調べると、本種の鮮明な生態写真を撮っている人もよく見かけるが、現場用に小さくて軽いコンパクトデジカメしか持っていない筆者には到底無理な話である。

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