字の類型

 この節では、次の項目について説明する。

  • 【どう

  • 【そうしょたい

  • 【ごう

  • 【こく

  • 【こっくん

  • 【

  • 【ゆうれい

  • 【たい

  • 【じょすう

  • 【じょうようかんひょう



      †



どう

 〈異なる字形になっているが同一である文字〉の意。

 〝あ:ア〟〝せんせん〟などがこれ。


 なお、同字のなかで最も新しいバージョンを「しんたい」、それ以外のすべてのバージョンを「きゅうたい」と呼ばれる。

 一般に旧字体は、字形が複雑で読みづらいため、一般的な記述ではつねに新字体を選択したほうがよい。

 一方で創作中などでの場合においては、あえて複雑な旧字体を採用することで、いかつさやいかめしさを演出することもできる。


 ただし〔恋〕に対する〔戀〕のように、一般には同字とされているが実は別字、という可能性が高いものも有ったりするから気をつけろ。



      †



そうしょたい

 〈草書(下書き)を速記するために字の書き順各画を極力つなげた新字転化〉の意。



      †



ごう

 〈既存の複数の文字を組み合わせて産み出した新しい文字〉の意。

 〝麿まろ〟〝百合ゆり𠷡ゆり〟〝ユーユーダブルユー〟などがこれ。


 〔㍿〕は〈株式会社〉を一字集約したもので、一般には略記号に分類されるが、これも考えようによっては合字とせるのかもしれない。



      †



こく

 〈日本独自に定めた漢字〉の意。

 〝働〟〝腺〟〝糸〟などがこれ。

 [][][せいかん]と書いて同義。


 〝え、そういうのアリなの?〟と思われるかもしれないが、「そういう事をしては行かん」というルールは無いので、勝手に漢字を作るのは私人公人問わず、アリである。

 ただし、それが受け入れられるかどうかは、また別の話。

 そして新字とは民間主体で産まれ、それを公人が認める形が一般的であるため、公人が新字作成をする事は基本的に無い。


 そういう観点では、漢字を覚えれない民を思い、公人主体で産み出した「チョソングルチョソングル)」は、世界的に珍しい奇跡のような文字と言える。

 なおかんこくにおいては「ハングルハングル)」と呼ばれるし、一般にもそれで通用しているが、朝鮮語を記述するために朝鮮国で産まれた文字であるから、チョソングルのほうが適切かとは思われる。

 なおチョソングルは表音文字、つまりであるので、日本でもうすでにそろっていたひらがななりカタカナなりを輸入するのが手っ取り早かったはず、とは思われるもの。

 しかしそれは結果論で、当時は中国本土の思想の影響により、日本は〝より下位の蛮地〟という認識が強く、そんな事をするわけには到底行かなかった、との事情が有ったと思われる。


 実際、チョソングルが産まれるあたりまで日本は中国の真似事ばっかりしていたし、その直後には戦国時代に突入したしね、日本は蛮地で間違いなかったよ。

 ドラマとかのせいで戦国時代がどうも美化されすぎてる感あるけど、戦争というのは基本的に蛮族がやる事で、どんな言い訳をしても戦国武将は野蛮人の部類だって事は忘れないでほしい。

 まあそれが治まった後の日本は逆にヤヴァイ感じだったけどね、秀吉がちょっとにらんだだけでスペインがガクブル……いや、あれは秀吉が単体でヤヴァイだけか(

 なんか世界に君臨してもおかしくないレヴェルだったみたいだけど、まあそれくらい国力が無きゃその後に鎖国なんて実現できないよね。

 事実が小説より奇すぎるの顔になるやつ。


 なお〔丼〕〔畑〕〔鱈〕などの国字が中国語へ逆輸入されている。

 日本の語が中国へでんする場合、台湾を発端として香港を経由し、やがて大陸本土に伝わるという経路が一般的なようである。

 この台湾は、こちらが頭下がるほどの親日国であり、中国本国から強い弾圧を受けている土地でもあるため、何かぼくらにできることは無いのだろうか、のような事は常々思わされるもの。



      †



こっくん

 〈日本国内において原義と異なる字義で機能する漢字〉の意。

 〝芝〟〝森〟〝鮭〟などがこれ。


 既存のものが有ると認識しないまま国字として作られたり、日本独自で意味を追加された形で生じたもの。

 原義を無視した形で運用されているものゆえに、本則と呼べるものではない。



      †



 〈原義を故意に無視して別字を代理させた漢字〉の意。


 複雑な字をより簡便なものとしたり、ぶんげい的効果をねらう目的で、同じ発音のものや姿の似るものを代理字として、差し替えが行なわれることが有る。

 漢語レベルでのそれと、日本語レベルでのそれが存在する。

 そのいずれにも起因して、同字ないし同義と誤解される漢字が多数出てしまっているが、忘れるべきでない原則こそ〝漢字はほぼイラスト〟。

 意味的にたんするにもかかわらず、ひんぱんに差し替えられがちな漢字としては、主に次のようなものが有る。


  • おこ〈盛んで激しい〉←おき〈一見落ち着いているが内部がしゃくねつしている〉

  • ウンくさる〉←ゲイ〈わざ〉

  • ガイ〈ふた〉←カク〈たしか〉

  • ガイ〈傷つける〉←ガイさまたげる〉

  • 〈ゆるがない〉←〈前語の強調〉

  • 〈ひとまとまりの人格や性質〉←〈物を数える単位〉

  • ゴウ〈呼び掛ける〉←ゴウ〈大声で叫ぶ〉

  • こい〈切実に請う〉←こい〈心が惑う〉

  • 〈こども〉←〈指導者〉

  • つかえる〉←〈する〉

  • シュウ〈あつる〉←シュウ〈あつる〉

  • ジョ〈順序づける〉←ジョ〈心をくむ〉

  • ショウゾウ〈ゾウ〉←ショウ〈うかがえる様子〉、ゾウ〈形やりかた〉

  • センたたき交わす〉←セン〈ふるえる〉、←そよ〈わずかに揺れ動く〉、おののわなな〈おびえ〉

  • テイチョウ〈ちょうど合う〉←テイチョウ〈くぎ〉、テイチョウ〈図画を張り出す〉、テイチョウ〈ぬきんでる〉、テイ〈ねんごろにする〉、テイ〈礼儀正しい〉、チョウ〈文書や合図〉

  • なんじ〈自分〉←〈そこへ属する〉

  • ベンベン〈花びら〉←べん〈切り分ける〉、ベン〈言い分ける〉、ベン〈編み分ける〉、ベンさばき分ける〉

  • むな〈中身が無い〉←おき〈岸から見えるが遠く離れた水域〉


 無論ほかにも多数存在する。

 もしも読む文章に登場したなら注意深く意味をうかがい、または自分で書く場合には誤用をそのまま通して構わないかよく検討されたい。

 実際、〝ようようたいけい〟のような決まりは無く、「正しいかどうか」よりも「どう通用させたいかという筆者の意志」が重要になるので、さじ加減はきわめて微妙。

 ただあえて誤用を通すなら、ツッコミを受けたときどう対応するか、という考えはまとめておいたほうが良いと思われる。


 ちなみにぼくは、「かんづき」が〈神不在の月〉などではなく、もと〈かんつき〉が転化した〈かんづき〉であるうえ、そこに全然関係ない{無}が当て字されたと知った日には「下手人は逮捕で死刑ええぇぇえ‼」って思ったよ(


 ところで現在では中国語においても、特に外来語を漢字表記するには限界がきており、それらに対する当て字表現がとみに増加している、とのこと。

 それをもって、〝漢字は必ずしも表意文字とは呼べなくなった〟という指摘も聞かれる。

 これはぼくに言わせれば、〈音のみを表現する文字〉は飽くまで「」と呼ぶものである以上、それは「万葉」に相当するもの。

 よって、どれだけ漢字のように見えていても、それはもはや漢字ではない別の何かであり、ゆえに当該指摘は的外れ、という事になる。

 とすると、もしかしたら近くない将来、中国語もまた日本語に近い、文字まじりの表記スタイルに化けるのかもしれない。



      †



ゆうれい

 〈由来も正体も不明で意味解釈も発音もできず扱いに困る漢字〉の意。

 〝彁〟〝暃〟〝閠〟などがこれ。


 おそらくふつうに単なる誤字と思われるが、いくつかの歴史的文書などで遣われてしまっているため、漢字であると「とりあえず仮定」して扱うことにしたもの。

 ただそれは便べん上の話であり、結局はの要件を満たさないため、記号に分類される。



      †



たい

 〈文面上でのかいざん抑止のためにあえて複雑化させた漢数字の語形変化〉の意。

 〝れいいちさんろくしちはちきゅうじゅうひゃくせんまん〟などがこれ。

 なお[だい]ともわれるが、意味に違いは出ないからどちらでもよろしい。


 たとえば{一}に対して一線加えれば{十}、さらにもう一線で{千}に無理なくかいざんできるため、正確な数字が重要である文面においてはこれだと本当に困るので、自然発生でなしに意図して定義された。

 専用に作られた字も一部有るが、大半は別字を当て字したもの。


 「れい」は当て字のほうであり、その字義は〈雨垂れ〉。

 漢数字での〈0〉は〔れい〕であって、国訓としても〈0〉を意味する際の読みは〈zeroゼロ〉を原語とする「ぜろ」である。

 ちなみに見た目では判別しづらいが、文字として「れい(#𝟹𝟶𝟶𝟽)」と「丸記号(#𝟸𝟻𝙲𝙱)」は別物で、コンピュータ上でも別字として定義されている。



      †



じょすう】⛏

 〈序数を特に表現するための漢数字の語形変化〉の意。 

 〝れいいちさんろくしちはちきゅうじゅうひゃくせんまん〟がこれ。


 「じょすう」とは数量を表す数詞ではなく、〈順番や番号をともなってそれに該当するものを示す〉であるため、計算などに用いれる性質のものではない。

 その混同を避けるため、英語における「firstファーストsecondセカンドthirdサード……」などに相当するものとして、いま例に挙げる通りにこれを新たな定義として提案する。

 ……一部たいと重複するが、ほかにとうな字が見付からなかったのでカンベンしてほしい(

 そしてわざわざたいと別個に用意したのは、以前〝「三人称」は「一人称」の三倍〟との残念な勘違いを犯したゆえに、本当に残念だったからである(


 なお〔弌〕〔弍〕〔弎〕は元より序数字として用いられている模様。

 また、〔貳〕〔弍〕が正式なのであって〔貮〕〔弐〕は誤字なのだとわれていて、〔武〕がその誤字の元と推定されるがこの字の部首は{止}であり、{⿱一弋}のような構えの部首は存在しないとされる。



      †



じょうようかんひょう

 〈公文書における漢字遣いの目安を示した内閣告示〉の意。


 次のサイトからPDFデータで入手できる。

  • 『文化庁 - 常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)』

https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/kanji/


 誤解されがちな所が、三点。

 まず、示されているのは「用いられるべき漢字」ではなく、「」。

 だから例えば〔求〕という字について、{キュウ}と{もとめる}の記載は有っても、{もとむ}は無い。

 よって、同じく{もと}という読みであるにもかかわらず、公文書に「求む」と書くことはすいしょうされないわけだ。

 漢字遣いの目安とはそういう事であり、い換えれば常用漢字表とは「かんててよいのリスト」である。

 つまり、ひらがなで「もとむ」と書くことはできる。


 次に一点、公文書を対象とする目安なので、私文書は必ずしもこの限りではない。

 またもう一点、そもそもこれは「規定」ではなく「目安」であるから、公文書でこれに沿わない記述をしても違法ではない。

 ただし、飽くまでこれは〝へいめることをもくてきとしてもうけられているやす〟。

 だから公文書ならば極力沿ったほうがいいし、私文書でも可能ならば「じょうようがいみにはルビをるのがしんせつ」かと思われる。

 ざっとながめるだけならば30分も掛からないと思われるので、ぜひ一度目を通しておく事をお勧めする。

 〝純文学ではルビを極力省くのが「つう」だ!〟とか言われても知らんがな、そんな事するから多くの人が入っていけなくてすたれるんや、禁忌とまでは言わんがせめて商業ではやめとけ、売れたいから売るんやろ(


 ちなみに、〝障がい〟という表記がよくみられる。

 これに対し〝わざわざ「配慮()」などして、「害」の字を避けるのはいかがなものか〟との指摘も、まれにみられるだろう。

 しかしこれは、〝「しょうがい」の{ガイ}が常用漢字表に載っておらず、それについてはひらがな表記している〟というだけの話。

 〔碍〕と〔害〕は不可換であり、「しょうがいdisabledディセーブルドのうよくせい)」と「しょうがいobstacleオブスタクルじゃ)」も別々のことばであって、つまりこれは完全なる「はだかおうさまげんしょう」である。

 要は、「しょうがいしゃ」とは〈体機能を抑制された者〉であって、〈障害を抱えた者〉ではない。

 しょうがい者が必ずしも障害に困らされているわけでもなければ、健常者が必ずしも障害に悩まされないわけでもなく、そうでなければカウンセラーやコンサルタントは繁盛しない。


 常用に該当する読みかどうかは、次のサイトで漢字けんさくし、その種別欄に〝常用漢字〟と表示されていて、かつ表外読みを示す「(△)」マークが読みに附記されていないかどうかで確認する事ができる。


  • 『漢字辞典オンライン』

   https://kanji.jitenon.jp/


 残念ながら、一部の変態的()な読みや漢字については掲載されていないものも有るが、標準的な読みかどうかだけ確認できれば十分だろう。

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