第32話

『西部動物公園に怪人が発生しました!繰り返します!西部動物公園に怪人が発生しました!怪人名ファントム!怪人名ファントム!ヒーローは至急現場へ向かってください!繰り返します!』


 オペレーターの声がスマホから響く。柚希は靴ひもを強く結びなおした。

「柚希……」

 玄関で柚希の背後に立つ母は心配に顔を曇らせている。

 父はそんな母を支えるように肩を抱いた。

「柚希、母さんも心配しているよ。それでも、行ってしまうのかい」

 柚希は立ち上がり、両親に向き直った。

 スマホからはオペレーターの声が響き続けている。

「親父、おふくろ。ごめんなさい。わがままだってわかっている。それでも、私は行かなければならない」

「その行動が、どんな結果を招くかわかって言っているんだね、柚希」

 柚希は静かにうなずく。

「私は憧れでヒーローになった。けれど、今はそれだけじゃない。ヒーローとしての責務。守るべき命。その全てを、充や要と共に背負うために、怪人の前に立っている。私はその全てを捨てることはできない」

 柚希は、涙を湛える母を、優しく見つめ返した。

「私は守るよ。私を育ててくれた家族も、私と育ってくれた幼馴染たちも」

 涙を決壊させた母は、それでも柚希を強く引き留めることはできなかった。

「ごめん、おふくろ。このわがままを許してくれなくていい。ただ、見守っていてくれ」

 膝から崩れそうになる母を父は支える。

 玄関を出る柚希に投げかけた。

「行ってらっしゃい」

 その言葉を背に、柚希は駆け出した。

 ガジェットを構える。

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