第3章 リア充爆発 しない!させない!許さない!
第8話
「充、私は思った。要は体は大きくなってしまったがその本質は変わっていない。いつだって、心は純粋な子供なんだ」
「……え、えっと」
女子トイレの前で仁王立ちする柚希に、充は返答に困る。
「ユリブターのまえで撤退するとき、私は恥じた。あいつの中身は昔から変わっていないのに、私はあいつの体の変化だけ見ていたんだと。これは、女性を不埒な目で見る男と同じだと!」
「……そ、そっかー」
女子トイレ前にいる男子二人に対して、女性方の視線が痛い。
「ただ、何事にも限度がある。これは仕方がないことだ。いくら純粋とはいえどこまでも子供のままであっていいはずがない。そうだろう?充」
「……う、うん」
はたしてこれは女子トイレの前でする話なのだろうか。
「私は思う。要もそろそろ分別がついていいころだろうと」
だから、と柚希は一歩前へ進む。
「大便は人に見せず流した方がいい!」
「ま、ままま、まって、まって!」
女子トイレへ強行する柚希を止める。
「柚希―!でっかいうんこあっから見てみろよ!」
そこへカオスの原因が現れた。
「すげーんだぜ!バナナうんこ!うんこうんこふごっ」
新しい言葉を覚えた小学生並みに繰り出される単語を、柚希は強制的に辞めさせる。
「た!の!む!か!ら!いいかげん!うんことちんこで笑うのやめろ!」
「ゆ、柚希、健康的なことは、いいことだと思うよ」
混乱した充はわけのわからぬフォローをする。
「止めるな充!私にはこいつの笑いの沸点を小学校低学年から年相応に成長させる義務がある!」
「そ、そこまで?」
はたして年相応の笑いとは。
充はよく要と仲良くしている派手な女子たちを思い出すが、彼女らも確か国語教諭の頭皮の反射で爆笑していたではなかろうか。
毛根の枯れた頭皮を笑う行為が年相応と言えるのだろうか。要と柚希以外に友人がいない充にはわからない。
とはいえ、思春期真っ盛りの高校生にもなれば羞恥心というものも養生してくる。さすがに、幼馴染の大便を自慢する行動は慎んで、やめてほしいと思うのもしようがない。
三人の横を、くすくすと水着姿の親子やお年寄りが温かい目で通り過ぎていく。それに気づいた柚希は、はっと固まった。
ここは、西部動物公園に併設された温水プールだ。年間を通じて利用できるこのプールは人気の施設だ。
一連の騒動はプール手前の女子トイレ前で起こっていた。
音が反響するこの施設で、三人の騒ぎも、当然要のうんこ発言や柚希の大便発言も、かなり響いていた。
思考の追いついた柚希は、耳まで顔を赤くしてしゃがみこむ。
「消えさせてくれ……」
早々にとんずらをこきたいものだが、だが柚希の願いは聞き入れられない。
「おうおうおう!絶望するにはまだ早い!儂の特訓がまだまだ待っているのだからな!」
そこに現れた熱田は、なんということでしょう、水着代わりのふんどしを着用していた。
「あんなのと一緒にいたくない……」
柚希の正直な発言に、充も同意する。夏祭りでもないのにふんどし姿の大男と知り合いだと思われたくない。
「ふんどしだ!ふんどしだ!どすこいどすこい!」
気にしていないのは要くらいである。
「というか、ルール的にセーフなのか?ふんどしは?」
「ルール的にアウトよ、ふんどしは」
答えたのは我らが叡智、響子博士である。
「水着と違ってほつれた繊維が排水溝を詰まらせる上に、そもそもふんどしは下着でしょう?公然猥褻罪で捕まる前に着替えてきなさい」
「やーい熱田先生チンチン陳列ざ「やめろ」
小学生男児がごとくからかう要を柚希は幼馴染として辞めさせる。
博士の指示に、とぼとぼと熱田は水着を買いに行く。その背中は随分と小さく見えた。
「いいか、要。お前も私は認めていないとはいえヒーローだ。ヒーローとして胸を張れないことはやるんじゃない」
「わかった!」
要は柚希の言葉に元気にうなずく。
「人のことはからかわない」
「おう!」
「大便は流す」
「おう!」
「ちんことうんこで爆笑しない」
「おう!」
「変身したらすぐ服を着る」
「おう!」
いい返事に、ちゃんとわかっているのか、と柚希は不安だ。
「若いっていいわねー」
おほほ、と博士は高笑いする。
「そういう博士もだいぶあれ」
「か、体には自信あるんだよ」
博士の年齢に対して若々しい肉体を、惜しげもなく強調した紐の多い黒い水着に、年頃の男子二人はこそこそとする。
「チャーシューみて゛えっ」
特にそういったことには興味のない要の正直な感想は、博士による鉄拳で叩き落とされた。
「だからやめろと言ったのに」
注意したことを早々に忘れている幼馴染に柚希は顔を覆った。
そこに新たに水着を着用し復活した熱田が現れた。
「よし!お前たち!特訓を始めるぞ!」
「特訓!特訓!イエイイエイ!」
「う、うわっ」
「始まったよ」
「なーに。男ならしゃんとしろ!しゃんと!」
「やめてくださいやめてください」
熱田にケツを叩かれ充と柚希は転がるようにプールへ向かった。
「橘柚希!準備体操はちゃんとしたか!足をつって沈んでも今度は助けんぞ!」
「やりました」
柚希のうんざりとした顔に、よし! と熱田は満足している。
「椎名要!褌のはきかたは今度教えてやる!」
「おす!」
要の元気な返事に、うむ! と熱田はやりがいを感じている。
「稲垣充!水着はちゃんと着ているか!Tシャツは脱がなければだぞ!儂のようにな!」
「こ、これ、スイムウェアです」
充の必死の抵抗に、そうか! と熱田は納得する。
「では!お前たちにはまず基礎体力をつけてもらう!今日使うのは流れるプールだ!」
「「えー」」
「プール!プール!」
「返事はイエッサーだ!」
「「「イエッサー!!!」」」
「よろしい!」
三人そろって並び、仁王像のような男に敬礼している姿は大変目立った。周囲からは好機の目で見られている。
「お前たちにはこれから流れるプールを逆走してもらう!もし足が着いた時には二倍泳いでもらうぞ!」
本来逆走は許されていないが、今回は特別である。流れるプールだけを怪人対策室の権力で貸し切り、三人の特訓に利用させていた。
「貸し切りかーすげえなー」
「こ、この動物公園自体、怪人対策室の持ち物だからね」
「飲食も経費で落ちるぞ!」
「やったー!食い放題!」
「要に変なこと教えないでください!」
経費なくなりますよ! と柚希は要の耳に蓋をする。
「食べることはいいことだ!かくいう儂も!この食堂で育ったと言っていい!」
と熱田は自慢の筋肉を見せつける。
「お前たちも儂のように立派になるがいい!さあ!特訓に励め!」
「「「イエッサー!!!」」」
次々と入水する後輩たちに熱田は満足げにうなずいた。
「楽しそうじゃない」
フライドポテトを博士は熱田と共有する。
「ああ、骨のあるやつらだ。昔を思い出す」
「そうね、私たちにもあんな頃があったわ……ところで、ふんどしの履き方を教えるのはやめなさい」
「何故だ?あのように向上心がある後輩、儂はその期待にぜひ応えたい!」
「冷静に考えなさいよ、
「そうか……だめか……」
博士の言葉に、熱田はしょもしょもと縮んでいった。
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