第3話 王宮魔術師からの告白
疲れた。
一刻も早く自室のベットに戻って眠りたいです。
よほど気分が悪そうに見えたのでしょうか。
「大丈夫ですか? 何なら私の肩に」
傍を控えるように歩くダルタニアスが身を寄せてきます。
「今は結構です」と首を振りました。
指摘する気力はありませんが、少し距離が近く感じます。
そういう性分なのか、彼は私に対してやや過保護気味です。
「ル、ルイーズどの」
再び声をかけられます。
「アズベル様」
王宮魔術師のアズベル様でした。
突然目の前にぬっ、と現れ少し驚きます。
長い黒髪を腰まで伸ばし、頭からフードを被ったいでたち。
高身長と相まってどこか異様な空気を漂わせています。
相当に目に付く姿ですが、今まで接近に気づきませんでした。
気配を消す魔術を使っていたのかもしれません。
「き、君は、今とても困っているんじゃないか」
「はい? どういうお話でしょう」
「あの王子と、男爵令嬢の件をずっと観察し、記録していた。これから国王に訴えるのであれば、証拠の提出をしたい」
「それは助かりますが……」
「だから、詳しい話を別室でしないか。積もる話もある」
「申し訳ありませんが、今はそれどころではないのですが。あ、魔術の使用はお控えください」
彼の周囲か淡い光が溢れたので、何かをしようとしたことを察します。
私は魔術は使えませんが、感覚は鋭い方です。
「いや、この場から離れようと」
「急に姿を消しては周りの噂になります。お話ならこちらで」
「オレは、君の助けになりたい。その、ずっと前から君のことを想っていた、オレと付き合ってほしい!!」
「はい?」
思わず聞き返してしまいました。
おっしゃっている意味は分かりますが、今夜はあまり聞きたくない言葉です。
どうして次々殿方からのお声がかかるのでしょう。
そんなに、尻軽な女にでも見えるのでしょうか。
少し悲しくなります。
「君が望むならあいつらに制裁を与える。秘密裏に、誰にも気づかれないよう。君が彼らの断罪を強く求めるのならば毒や麻痺等の苦痛を与えることもできる。憂さを晴らすなら協力する」
話が不穏な方向へ流れていくのを感じます。
若干恐ろしくなり、彼を押しとどめました。
もしも急に抱き締められたりしたら、と思うと背筋に冷たいものが走ります。
「いえ、結構ですわ。私は彼らが今後受けるであろう罰だけで十分です。本当なら、ここまで話が拗れるよりも前に解決するのが私の望みでした。ご親切には本当に感謝いたしますわ。証拠を頂けるのは後々大変助かります。ですが、今は非常に気分が良ろしくありませんので……」
「すまない、俺が手をこまねいていたせいで。あの男爵令嬢には魔術で警告は発していたのだが、多少の痛みを与える程度では生ぬるかったようだ」
「は? あの、ひょっとして彼女に何かされていました?」
そういえば、原因のわからない嫌がらせを受けていたというような話を聞きました。
「あぁ、君の婚約者にすり寄っていたのを知っていたから。様々な呪いをかけていた」
「ミナ=アルカナ男爵令嬢に色々と仕掛けていたということは。あのそれは、アンドリュー様や彼女の誤解を加速させる原因の一つだったのではないでしょうか」
ことと次第によってはこの方にも詳しい話を聞く必要がありそうです。
「あの女が悪い。婚約者が居る男に近づき、あまつさえ恋人のように振舞っていた。あぁ、あの男も一刻も早く呪いを」
「申し訳ありませんが、無関係の方が余計な手を出すことで拗れてしまう場合もありましてよ」
「それは、オレは君のためだと思って」
「お気持ちは嬉しいのですけれど、状況が複雑化したのはその嫌がらせも一因だったかもしれません。ハッキリとお伝えさせていただければ、若干迷惑に思います」
「め、迷惑……?」
どうもこの方、いささか他者との対話力が不足しておられるようです。
悪人と言うよりも少し厄介な人と言うべきでしょうか。
というか、これで王宮魔術師が務まるのか地味に心配です。
焦ったように、あわあわと何やら話をまくしたてられました。
どもりながら、切れ切れの言葉を紡がれます。
「元引きこもりで女神様から与えられたチート能力を持たされた転生者? はぁ、それはすごいですわね。でも、今はそれは特に関係はないと思います。私は貴方に特に好意は抱いておりませんので、申し訳ありませんが、一切のお誘いはお断りしますわ」
「あ、うぅぅぅぅぅ」
何なんでしょう。元引きこもりとかチート転生とか。
よく意味は分かりませんでした。
ご自分のことばかり話されても、困りますわね。
一連の騒動の黒幕、としては何だか子どものようで力が抜けてしまいました。
「すいません、気分が悪いのでこれで」
ともあれ部屋へと戻ります。
親しんだメイドの姿を見つけると心底ホッとしました。
椅子に腰かけ、飲み物で喉を潤わせます。
目を閉じて、しばらく気持ちを静めることに致します。
頭の中でぐるぐると不穏な音が響いています。
しばらくすると、不意に声をかけられました。
「お嬢様、大事なお話があります」
「なんですの、ダルタニアス」
額に手を当てながら周囲を見渡すと、何故かメイドの姿がありません。
「私はお嬢様をお慕いしております! どうか私の想いを受け入れていただけはしないでしょうか!」
お前もですの。
唖然としてしまい、何も返せませんでした。
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