第17話

 あ――、良かった。立食で。壁側に設置してある椅子に座りながら思った。

 自己紹介も終わり、なんやかんやで自由時間となった。普通を装っていたが、やはり他の参加者と違うのか声をかけられなかったため、早々と座りに来た。会場を見渡すと参加者の人達は、しっかりと自分の目的を果たしている。ここに参加したのだから出会いを求め交流をするのが参加すると言って参加した人の責務だとは思う。

 どう時間潰そうかなーと思いながら、赤いスニーカーに目をやった。

 この靴で散歩にでも行きたいな。どこ行こうかな。あと、靴に合う服装も買いに行かないと。

 何もない日常だと思っていたけど、いろいろ予定を考えると楽しい。明日にでも出かけようかな。日曜日だし。いや、このまま買い物行くのもいいかも。なんて思いながら時間を潰す。

「ただいま!残り時間が30分となりました!!!心残りがないよう、いろんな方とお話ください!!!」

 時計を見た。あと、30分。自己紹介とか地味に長かったし、終わってからもしばらく拘束時間があった。その間、一応は話しかけられたりしたけれど相手に興味を持てず会場に用意されている軽食と飲み物をもらっていたら1人になり、自由時間となったのですぐ座りに来た。

 絶対あいつ何しに来たんだとか思われている。

 つまむ物と飲み物をもらって時間を潰す。残り時間が少なくなっているため、あまりいいものが残っていない。どれにしようか考えていたら

「さきはどうだった?」

 と陽子がゆっくり声をかけてきた。

「びっくりしたー。陽子こそどうだったの?」

「私は一応連絡交換した。さきが1人でいたから声をかけたの」

「そうなんだ。来た甲斐があってよかった。私は疲れちゃったからのんびりしてた」

 すると、稲田さん!と呼ぶ声が聞こえた。

「そうなんだ。あっごめん、一旦戻るね。終わったら話そう」

 そう言って陽子は元の場所へ戻って行った。

 人の人生を邪魔したくなくて、陽子が戻ったことに少しほっとした。

 程なくして、街コンは無事に終わった。

 本当は誰かしらでも、連絡交換するべきだったという後悔は微かにある。お金も時間も多少だけ使ったし。

 すぐに会場を出たかったが、陽子がまだそうだったのと、さっさと1人で出ていくのは気が引けたため2、3人が外に出るのを確認してから出た。

 会場の出入口近くにベンチがあったので座って陽子が出るのを待った。

 陽子は、なかなか出て来ない。

 半分ぼーっとしながら待っていると、1人で陽子が出てきた。

 陽子の視界に入るか入らないか際どいタイミングで立ち上がり、陽子の元へ歩いた。

「ごめん待った?」

「全くまってないよ。ちょうどいい感じ」

「街コンどうだった?」

 歩きながら陽子に質問された。

「いい経験だったって感じかな。いろんな人がいるなぁって」

 何も考えず、陽子の質問に答えた。

「そうかぁ、いい経験だったんだ」

 地雷踏んだ気がした。

 出会いを求めて来た建前で私も参加している。試しに来たが、この感想は陽子に対してズレていたのかもしれない。

「なんとなく思ってたんだけど、はるは結婚から逃げてるの?」

 陽子の言葉にびっくりした。陽子は結婚したい。その反面、私は中途半端な態度を取っている。その時点で違和感があり疑問に思うのが当たり。街コンに参加したら、よっぽど悪くなければ連絡を交換するなり、最低限の会話を行うのがセオリーだ。なのに、最低限の会話すら放棄してる私は陽子から見たら逃げてるように見えたのだ。

 でも、私にとってこの街コンへ参加したことはとてもいい経験だった。私は逃げてはない。言葉で具現化できないのがもどかしい。逃げへの言葉に言い返すこともできない。  

 私はスニーカーを履けて満足してるなんて文章が短すぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る