第4話 邂逅
はむっ、と最後の一粒を食べ終えた。そんな私を見たモエは慌てたようにおにぎりを早食いしようとする。
「いやいや、そんなに早食いしなくたって……」
「そ、
モエは口に含んだご飯をゆっくりと飲み込み、もう一口かぶりつく。可愛い女の子は何をしても映えるね。私は可愛げが無くなっちゃってるけど、モエはまだ若いし。いつまでも見たくなる。
……おじさんみたいなこと言ってるな。
「はむっ……ごちそうさまです」
「よしっ、行こうか」
「あ、何かしらの装備だけ買っていきましょう。短剣とか」
「わかったー」
二人はトゴーのいるカウンターに向かい、食事代を払うついでに短剣を買うことにした。
「おにぎり代が四百エン、短剣が三千二百エンね」
「あれ、通貨単位は円なの?」
私が居た日本では、近代的な貨幣の発行は明治時代以降に行われている、と習った気がする。それなら、このニホンという別世界でも円が流通しているのは少しおかしな気もする。しかも、おにぎりが四百円ってことは元の世界との貨幣価値もそこまで差異がないと推測できる。やっぱり少しおかしい。
「ええ。現在の王府が誕生したと同時に制定されたものです。魔法によって作られた特殊な金属が使われているらしいです」
つまり、金や銀でもないのか。この国はどことも外交をしていないわけだし、大きく貨幣価値が動くこともなさそう。しかもこの国は完全独裁国家。そんな国に株式があるとも思えないから、二百年前から大きく貨幣価値が変わることもなさそうだよね……不思議だな。
「えっと、再立さん?お金はお持ちですか?」
「――そー……だねぇー」
「……ないんですね?」
「ごめんなさい……」
「いや、倒れてた人にお金を請求するほどワルじゃないですよ。三千六百円ですね?ちょっと待ってくださいねー」
モエはそう言いながらジャラジャラと革の袋の中身を転がし、綺麗な銀色の硬貨を取り出す。トゴーはそれを受け取り、短剣と交換した。モエはそれを腰に付いた皮のケースのようなものにしまった。恐らくしまうところのない私を気遣った行動なんだろう。
そんなふうに思いながら彼女を見つめていた、その時だった。
「オラァ!」
ドン!!という音と共に扉が勢いよく開き、明らかに悪党っぽい屈強な男が多種多様な剣を持って四人入ってきた!!
「オイ!!そこのお前ら!!ありったけの金を出せ!!」
まさか、強盗……!?なんでこんなところに??
「この店に銃はねぇことは調査済みだ!!」
「あるのは本体じゃなくて火薬だけらしいな?」
な、何とかしないと!!でも、体が動かない……た、短剣を使えばいいのかな……
店主であるトゴーは唾を飲んでから短く話す。
「……わかった。金は出すよ」
え!認めていいの?武器屋なんだし、抵抗とかした方がいいんじゃないの?
私が驚嘆するそんな中、モエが小声で私に話す。
「……再立さん」
「なに、モエ?」
「――逃げてください」
「む、無理だよ!入口は塞がれてるし、武器は短剣しかないし、魔法は使えないし!」
「そ、そうですよね……」
「モエは魔法使えない?」
「屋内では無理です!あいにくこの施設は完全木造ですし、使ったら全焼確定ですよ!」
「保護魔法でなんとかできるんじゃないの!?」
「できませんよ!保護されてるのは的だけです!」
ど、どうしよう……な、なにか無いかな。短剣だとリーチが短いから四人相手だと確実に負けるだろうし……
「へへへ、金は貰って……客の嬢ちゃんたちは奴隷商にでも売り飛ばすとするかな」
男どもが近づいてくる。ど、どうすればいいんだろう……なんでもいいから守らなきゃ……
そうだ、盾を使えばなんとかなるかな……?
私は急いで壁にかけられた扇形の盾を取り、モエを守るような姿勢を見せた。多分とてつもなく滑稽な姿だと思う。現に、男たちは私を見て笑いだした。でも、何かしないと始まらない……!
「アーハッハッハ!!なんじゃそりゃ!そんなに小せぇ体で守れるわけねぇだろ!」
「再立さん!私を守っている場合じゃないでしょう!」
こいつらを跳ね除ける方法……なにか無いかな……魔法……かな?水とか岩の魔法なら店を壊さなくて済む、かもしれない。
――とりあえずやってみよう……!
「り、リピート!」
私が叫ぶと、盾を持つ右手とは反対の左手にずっしりとしたなにかがのしかかる。
その正体は、魔法とはかけ離れたもの……『鉄砲』だった。
私が銃を認識してからは早かった。手が勝手に盾を捨てながら男の一人に照準を合わせ、その脳天を……
ズドーン!!
……と撃ち抜いた。
まさに一瞬の出来事……といった感じだった。私は反動でぶっ飛ぶし、撃たれた男は銃弾の勢いのまま後ろに倒れていくし。コップ一杯分ほどの鮮血が辺りに飛び散ったが、もうそんなことはどうでもよかった。人を殺めてしまった。どう考えても犯罪。なんなら死刑になるかもしれない。
あー。どうなるのかな、私。
キーンっという音が耳を突き抜けると同時に、手に現れた銃は空気に溶けるかのように消えていく。
「……て、てめぇーー!!」
「う、撃ちやがった!」
「おい、この店に銃はないんじゃなかったのかよ!」
男たちは焦りや怒りを顕にした。私はそれをぼーっと眺めていた。
「し、仕方ねぇ……『奥の手』、使うしかねぇか」
「そ、そうだな」
男たちは急に組体操の騎馬戦のような姿勢を取り始める。明らかになにかとてつもない隠し技を発動させようとしているが、その姿は少し滑稽だ。
「「「うおぉぉぉ!!!」」」
男たちの体がビキビキと割れ始める。これは比喩ではない。本当に割れている。飴細工でコーティングしたお菓子に強い力を加えたように硬い衣が剥がれていく感じ。それが溶けだしひとつにまとまっていく。倒れた男の体すらも取り込まれていくその様子は恐怖映像そのものだ。
モエはその姿を一目見てひどく驚いたように目を見開いた。
「改物!?」
モエの驚きにトゴーが反応する。トゴーはあまり改物を見たことがないようだった。
「えっ?あれが?人間だったよな?」
「ええ……どういうことなのかは分かりませんが、あの形容しがたい姿は……」
男たちは、ほぼ一瞬にして人間の面影を残しつつも人のそれとは異なる、虫のようなあまりに醜い化け物に変わった。
「『改物』、そのものですよ」
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