嵐が去って

第42話 事後処理

「昨日はご苦労様だったな」


 機動部隊の詰め所の席に着いた誠達にランはそう言った。


「二度とごめんだぜ麗子の相手なんざ……アイツのラッキーを知ってて親切にした奴には良いことが起きねえからな……全く災難だったぜ」


 かなめは苦笑いを浮かべながらそう言った。


「まあ馬鹿と言うものがどういうものかよくわかった……今度の休みに新装開店するパチンコ屋があるからそこで元手二万でいくらになるか試してみよう」


 カウラもまたうんざりした調子でそう言った。


「いいんですか?隊長に報告しないで」


「よく気が付いたな……一応隊長に報告してくれ。本局も何事も無かったってことで安心してくれていると良いんだがな」


 誠のひらめきにランはそう返した。


「それじゃあ行くぞ」


 そう言ってかなめが立ち上がるのを見て誠とカウラは立ち上がり機動部隊詰め所を後にした。


「あら、カウラちゃん達も報告?」


 廊下にはさもそれが当然というようにアメリアが立っていた。


「オメエと一緒に寮を出たじゃねえか……カウラの車で……オメエはラッキーは何かあったか?」


 不意に声をかけられて不機嫌になったかなめはそう言いながら足を隊長室に向ける。


「ええ、無くしてたと思ってた古典落語のディスクがベッドの下から出て来たわよ……たぶん田安中佐のラッキーもこれでチャラね」


「それじゃあ入るぞ」


 カウラは今にも喧嘩を始めそうなかなめとアメリアを一瞥した後そう言ってノックをした。


『開いてるよ』


 嵯峨の間抜けな声が響くのを聞くとカウラは静かにゴミ部屋と陰口をたたかれている隊長室のドアを開いた。


「昨日はお疲れだったね……俺は何もしてないからラッキーも何もなかったけど」


 ゴミ部屋の主。嵯峨惟基特務大佐はそう言って誠達に微笑んだ。


「お疲れだ?全部アタシ等に押し付けやがって」


「いいじゃねえか。親友だろ、田安のお姫様は」


「親友じゃねえ!腐れ縁だ!」


 嵯峨に痛いところを突かれてかなめはそう叫んだ。


「でももうこりごりですよ。あんな世間知らずのお姫様の相手なんて……そもそも今回の件だってお姫様の思い付きでしょ?付き合ってる私達がいい迷惑ですよ」


「言うなよ、クラウゼ。うちは元々『特殊な部隊』だからな。あっちこっちから目をつけられてるんだ。今回はまだましな方だ……面倒な連中ってのはもっと他にいるのさ」


 オートレースの予想新聞を読みながら嵯峨はとぼけたようにそう言った。


「ですが、今回の件で何か上の方で動きは?」


「ある訳ねえだろ?麗子だぜ……どうせ暇してて気まぐれに寄っただけだって」


 かなめは大げさに手を振るとカウラにそう返した。


「まああのお姫様は甲武の義理で司法局に置いてやってるだけだからな……まあそれはともかくだ……お前等暇か?」


 嵯峨はそれまでオートレースの新聞にしるしをつけていた手を止めると誠達を見上げた。


「そんなの暇に決まってるだろ……分かってるのに聞くんじゃねえよ」


 かなめはぶっきらぼうにそう言った。


「そうつんけんしなさんなって……なんでもお姫様が聞きだした情報によると隣の工場の重要物資の輸送の手が足りねえんだと。神前。お前さんは大型免許持ってたよな?」


 明らかに雑用を押し付けてくる嵯峨に誠はうんざりしたような視線を向けた。


「そんな目で見るなよ……民間企業との関係はいつも良好でいてほしいんだ。なんとかやってくれよ」


「どうせ断ってもさらに上から命令が出るんじゃないですか?それに重要物資ってアサルト・モジュールの機材か何かですよね」


 カウラは察してそうつぶやいた。


「そう言うこと。なんでも法術関連の新素材を仕込んだアサルト・モジュールのフレームなんだそうな……島田に聞いても無駄だぞ。アイツは法術関連のメカをいじるのは勢いと部下の知識だけでやってるからな」


 嵯峨はそう言うと頬杖をついて誠達を見つめた。


「分かったよ……で?それだけじゃねえんだろ、話は」


 かなめはくだけた口調でそう言うと叔父に向けて笑いかける。


「まあな。なんでも田安の将軍様が昨日のお礼に東都に招待したいそうだ、お前さん達を……受けるか?」


「そんなもん受けるか!」


 嵯峨の提案をかなめはにべもなく断る。


「だろうな。まあ俺から上手く言っとくよ……それと……鳥居とか言う部下が居たろ?」


 わかりきったことと言うように嵯峨はそう言うとアメリアに目をやる。


「ああ、ちっちゃい子ね……彼女がどうしたんです?」


 アメリアは嵯峨の意図がくみ取れないというように首をひねった。


「なんでもお前さん達の写真を撮ったのを見せたいとかでね……お前さん達の携帯端末に画像は送っといたそうだ。後で確認しといてくれ」


 嵯峨はそれだけ言うと誠達に向けて出ていけと言うように手を振った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る