第38話 アーサーの昔話の続き
マーリンは突然現れたシヴァに噛みつかれそうになり慌てて後ろに下がる。
行く手を阻まれたマーリンはシヴァを睨みつけた。
「シヴァ!? お前、
シヴァはマーリンを警戒しながらグィネヴィアとアーサーの拘束を魔法で解いた。
そして代わりにマーリンの体を魔力の縄で拘束する。
「こんなことになるだろうと予想してたからこれを取りに戻っただけだ」
そう言って一つの魔石を宙に浮かび上がらせた。
「…それは、まさか!」
その魔石を目にした途端、マーリンは驚愕の表情を浮かべた。
シヴァが取り出したのは封印の魔石だった。
その魔石に封印された者は二度と復活する事が出来ないと噂されている。
しかしそれ故にその魔石の封印を発動させる術者も相応の魔力を必要とされる。
また封印を行った際、どれだけの代償を払うのかがわからないとも言われている。
「お前ほどの魔女ともなれば、たとえ命を奪っても幽体になっても魔法を使ってくるからな。それならばいっそ封印してしまった方が安心だ」
シヴァに言われてアーサーとグィネヴィアは納得したが、マーリンはクッと口を歪めて笑った。
「なかなか面白い事を考えるじゃないの。だけど一体誰が私を封印出来ると言うの? アーサーもグィネヴィアも私ほど魔力はないし、シヴァは私を封印なんて出来ないでしょ」
マーリンの言うことは最もな事だった。
マーリンは魔力量を見込まれて王国を興す為に協力を要請されたのだ。
当然この中で一番魔力量が多いのはわかりきっている事だった。
そんなマーリンを封印するなどと馬鹿げた話である。
「それでもやるさ」
シヴァは自分の魔力をアーサーとグィネヴィアに注いだ。
シヴァの体から魔力がゆらゆらと立ち登りアーサーとグィネヴィアの体へと流れていく。
シヴァの体から魔力が流れ出るのにあわせてシヴァの体が少しずつ小さくなっていく。
「アーサー、グィネヴィア。封印の呪文を」
シヴァの魔力を受けてアーサーとグィネヴィアは魔石の前に立つと魔石に手をかざし封印の呪文を唱えた。
魔石から黒い霧が出てマーリンへと流れていく。黒い霧がマーリンを包もうとするがマーリンが必死にそれに抗っている。
「アーサー、グィネヴィア、もっと魔力を注ぐんだ」
抗うマーリンも必死の形相だが、それ以上にアーサーとグィネヴィアの方が顔色が悪くなっていった。
「アーサー、酷いわ! 私の気持ちを知っていながらこんな仕打ちをするの」
しおらしそうな声でマーリンがアーサーに話しかけると、一瞬アーサーの魔力が緩んだ。
「アーサー! マーリンの言葉に耳を貸すな! こいつはグィネヴィアを排除するつもりだぞ」
シヴァに叱責されてアーサーは再び魔力を力一杯注ぐ。
マーリンがチッと舌打ちをする。
「シヴァ、余計な事を。こんなことならさっさとお前とグィネヴィアを始末すれば良かったわ」
黒い霧が徐々にマーリンの体を包んでいき、とうとう顔だけになった。
「おのれ。こうなったら二人とも道連れにしてやる」
マーリンの口から炎が吹き出し、アーサーとグィネヴィアに燃え移った。
それと同時にマーリンの体が魔石へと吸い込まれて行った。
「アーサー、グィネヴィア!」
シヴァが慌てて二人の体の炎を水魔法で消し止めたが、既に遅かった。
炎による火傷と魔力を大量に使った事で魔力枯渇を起こし二人は既に息はなかった。
かろうじて魂だけがこの場に踏みとどまっていた。
「アーサー、グィネヴィア…」
シヴァも魔力を放出し過ぎたせいで大きかった体が今は子犬ほどの大きさになっていた。
「…済まない。私が魔石を持ってきたせいで…」
アーサーとグィネヴィアは幽体のまま、シヴァを見つめた。
「シヴァのせいじゃない。私がマーリンの事をきちんとしなかったからだ。一番悪いのは私だよ」
アーサーはシヴァにそっと手を伸ばすがその手はシヴァの体をスッと素通りした。
「グィネヴィアも済まない。君を守るどころか死なせてしまった。私達の息子の成長も見れなくなってしまった」
グィネヴィアは何も言わずにただアーサーに寄り添った。
シヴァは少し躊躇っていたがやがて2本のペーパーナイフを魔法で出してきた。
「二人が良ければこのペーパーナイフに二人の魂を宿すことが出来る。その代わり生まれ変わる事は出来ないが、どうする?」
アーサーとグィネヴィアはしばらくお互いの顔を見つめていたがやがて決心したように頷いた。
「いいよ、シヴァ。そのペーパーナイフに乗り移って我が子孫の行く先を見てやろうじゃないか」
こうしてアーサーとグィネヴィアはペーパーナイフへと魂を移した。
王国は弟が国王となり後を引き継ぎ、アーサー達の息子は成人後、公爵家としての身分を賜った。
アーサーとグィネヴィアは息子と共に公爵家に行くが、何故か子供は一人しか生まれなくなっていた。
シヴァの尽力でアーサーとグィネヴィアはペーパーナイフの体を自由に大きさを変えられるようになった。
そしてマーリンを封印した魔石は人里離れた場所に祠を作りそこに納めた。
誰も近寄れないようにしていたからすっかり安心していたが、やはりそれは間違いだったようだ。
今も何処かでマーリンの魔石を持った人物が公爵家を狙っているのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます