第32話 救援
最初に僕に剣を突きつけてきた男がまた僕の体を上から下へと視線を巡らせた。
「綺麗な顔をしているから女だと思ったが女じゃなくて男だったか。…まぁ、それでもいいっていう奴はいるからな。坊や、怪我したくなかったら大人しく付いてきな」
そう言って男は更に僕に剣を突きつけてくるが、こんな奴らの言いなりになんてなる気はない。
僕は男達をキッと睨みつけると「シヴァ」と声をかけた。
すると僕の影からシヴァが飛び出すと男達に向かって風魔法を繰り出した。
突然現れたシヴァに驚いたまま、風魔法にあおられ、男達が吹き飛ばされる。
馬車の外に倒れた男達に、「おい、どうした?」という声がかけられた。おそらく御者台の見張りに立っている男の声だろう。
やはり他にも仲間がいるようで、もう一人別の男が倒れた男達に駆け寄ってきた。
あと何人仲間がいるのかはわからないが、御者達を無傷で救い出す事ができるだろうか?
シヴァが僕を庇うように僕の前に立ち、唸り声をあげて男達を威嚇する。
倒れていた男達が立ち上がり、僕に向かって剣を構えた時、遠くの方から蹄の音が近付いてきた。
男の一人が音のする方、つまり僕達が走ってきた道の後方に目をやって叫んだ。
「兄貴! 大変だ、騎士団の奴らだ!」
それを聞いて男達は慌ててそちらに目をやった。
「不味い! さっさとずらかるぞ! …チッ! 運のいいガキめ。今度会ったら覚えてろよ」
男達はそう言い残すと森の中に逃げ込んでいった。僕に対峙していた三人とは別に二人の男がかけていったが、そのうちの一人は少し小柄だった。
蹄の音が更に近付いてくるが、かなり大人数のようだ。
僕は馬車から降りると御者台の方に向かった。そこには手足を縛られて地面に転がされた御者と使用人がいた。
「大丈夫? 怪我はない?」
近寄って縄を解こうとしたが、かなりきつく縛られていてすぐには解けそうにない。
これは切ったほうが早いな。
「アーサー」
呼びかけるとスッとアーサーが姿を現した。
僕が口を開くより早く、サッと短剣にその姿を変えた。
僕はその短剣を手に取ると跪いて二人の縄を切ってやる。
その間に騎士団が僕達の馬車の所に到着したようだ。
「ご無事ですか?」
到着した騎士団は六人いたが、そのうちのリーダーらしい人が僕に声をかけてきた。
僕は縄を切り終わって立ち上がると、声をかけてきた騎士に向き直った。
「大丈夫です。攫われそうになりましたが、皆さんが近付いて来るのが見えたので、盗賊達は逃げて行きました。ありがとうございます」
べコリと頭を下げると騎士は馬から降りて僕に跪いた。他の騎士達も馬から降りて御者達を助け起こしてくれる。
「ご無事で何よりです。申し遅れました。騎士団を率いるシリル・ハルフォードと申します。あなたの父上である公爵とは学院で同期でした」
なんとこの人は騎士団長で父上の同級生だったのか。
「はじめまして、ジェレミーと申します。改めて助けていただきありがとうございます。それにしてもこちらにいらしたのは偶然でしょうか?」
たまたま通りがかったにしてはあまりにも偶然過ぎる。僕が問うとシリル団長は「いやいや」と首を横に振った。
「最近、この街道に不審な連中がうろついているという情報が寄せられまして警備を強化する予定だったのです。それがアルフレッドから先程あなたが公爵領に向かっていると聞き、万が一を考えて追いかけて来たのですが間に合って良かった」
不審な連中というのがさっきの強盗団なんだろう。狙いやすそうな馬車を物色していたに違いない。
「父上が目立たないようにとこの馬車を用意してくれたのですが、却って強盗団の目に留まったみたいです。やはりそれなりに護衛をつけないとだめなんでしょうね」
至って普通の馬車のはずたが、どうして強盗団の目に留まったのかがわからない。
するとシリル団長は御者と使用人に目を向けてふっと息を吐いた。
「御者と使用人の着ている服が少し高級な物に見えますね。もう少し平民に近い装いをさせたほうが良かったと思います」
シリル団長に言われて僕は二人に目をやった。確かに二人とも公爵家で雇っているから、着ているものもそれなりの素材である。
「二人の衣装までは気が回っていませんでした。これじゃ狙われても仕方がないですね」
僕もそこまでは気が回っていなかったせいで御者達には随分と怖い思いをさせてしまった。
そのことを謝罪するよりも先に僕に怪我はないかと聞いてくれた二人には感謝しかない。
「これから公爵領に向かわれるんでしょう。私が護衛して行きましょう」
シリル団長が申し出てくれたので有り難くお願いすることにした。
幸い馬車に問題はなく、すぐに出発出来るようだ。
馬車を挟んでシリル団長と別の人が護衛に付き、残りの四人はしばらくこの周辺を捜索するそうだ。
途中立ち寄った街で少し休憩を挟んで予定よりは少し遅れて公爵領についた。
公爵領がある街はのんびりとした田舎のようだ。ふと孤児院があった町を思い出した。
あそこと同じようなのどかな風景になんだか泣きたいような気持ちになる。
町の中を進んで行くと大きな門構えの屋敷についた。シリル団長が迷わずにここにたどり着いたと言うことは以前に来たことがあるのだろうか。
門番にシリル団長が取次を告げるとすぐに門が開けられ、馬車が玄関へと進む。
馬車の音を聞きつけたらしく、玄関の扉が開かれ家令が顔を出した。
「おや、シリル様もご一緒でしたか。ジェレミー様、ようこそいらっしゃいました。どうぞお入りください」
いよいよお祖父様達と対面だ。
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