第16話 母上の話
僕の驚きをよそに父上は母上に話の続きを促す。
シヴァが神獣っていうのはスルーしちゃってもいいんだろうか?
そう思ったが口には出さずに母上の話に耳を傾ける。
「ランスロットはジェレミーを神殿に連れて行ったと告げるとわたくしに早く起き上がる事が出来るようになれ、と命令しました。わたくしもジェレミーを連れ戻す為に何とか体調を戻そうとしたのですが、何故か日に日に弱っていくばかりでした」
そして母上は僕をチラッと見たあと、言いにくそうに話を続けた。
「そのうちランスロットはわたくしの体に触れようとしましたが、何故か弾かれていました。普通に手を握ったりは出来るのですが、それ以上の行為は出来なかったのです」
母上が言い淀んでいることが何か僕にはピンと来た。つまり母上を抱こうとしたけれどそれが出来なかったと言う事だろう。
以前、アーサーが言っていたのはこのことだろう。
流石にここで母上の話がわかったとは言えないので、何もわからないといった顔をしていよう。
僕のキョトンとした顔を見て、母上はちょっと安心したように更に話を続けた。
「そこでランスロットは非常に腹を立てました。何の為にわたくしを連れ出したのかわからないと言ってわたくしを罵って来たのです。そんな風にわたくしを責められてもわたくし自身も何故そうなるのかわかっていませんでしたのに。そのうちランスロットは家を空けてはお酒や女の人の匂いをさせて帰って来ることが多くなりました。そしてわたくしが持ち出した宝石が底を突いた頃帰って来なくなったのです。わたくしは起き上がる事も出来ずにただ弱っていくだけだした。そのうち意識が遠くなったのを覚えています。あれから9年も経ったのですね」
母上の話を聞いていると、顔も覚えていないランスロットに非常に腹が立った。いくら母上が自分の思い通りにならなかったとはいえ、病気の母上を見捨てて逃げるなんてどういう了見だろうか。
ランスロットを見つけたら母上の代わりに僕がこの手で八つ裂きにしてやる。
そう決意していると母上が父上に尋ねた。
「そう言えばエレインはどうなりましたか? わたくしの我儘で巻き添えにしてしまったのですが、無事ですよね?」
それを聞いて父上は少し苦い顔をしたが、首を横に振った。
「エレインは君が居なくなった時点で投獄された。君が見つかるまでは生かしておいたが、君が救出されるとすぐに処刑した」
その言葉に母上は息を飲んだ。
まさかそんな事になっているとは思ってもみなかったのだろう。
「そんな! わたくしが巻き込んたのに?」
母上の言葉に父上はかぶりを振った。
「エレインは最初からランスロットと共謀していたのだと取り調べでそう証言した。おまけに私に言い寄ろうとしてきたからな。何を勘違いしていたのやら。エレインとランスロットの実家にはそれぞれを切り捨てる代わりに家の存続を約束した。そして秘密裏に君とランスロットの捜索を行わせたんだ。大っぴらに探せないから少し時間はかかってしまったがね」
貴族にとっては一人を切り捨ててでも家を存続させる事の方が大事なのだろう。ましてや犯罪者ともなればなおさらだろう。
いくら母上の意志で家を出たと言っても、公爵家が攫われたと言えば、格下の貴族は否定出来ないだろうからね。
「君の事は出産による体調不良で療養していると公表した。生まれた子供も少し病弱だと言うことにしていた。ようやく二人が戻って来てくれてこれ以上の喜びはない」
父上がそっと母上の額にキスを落とした。
昨日から人のラブシーンを見せられてばかりのようなんだけど、ここは黙って目を瞑るべきだろうか。
「アルフレッド様。先程アーサーとグィネヴィアがわたくしを回復させるときにグィネヴィアが少し見せてくれました。ずっとわたくしの世話をアルフレッド様がしてくださっていたのですね。ありがとうございます」
グィネヴィアはそんな事までしてたのか。
アーサーが公爵家に戻ったら凄いんだぞと喚いていたけど、この事かな。
いや、待てよ。
あの時はまだ母上が寝たきりで意識がないとは知らなかった時だから、他の事を言っているのかな。
やがて母上は起き上がって通常の生活に戻りたいと告げた。
「もう、十分休みました。これからは公爵家の人間として、そしてジェレミーの母として、そしてアルフレッド様の妻として生きて行きたいのです」
父上は頷いて母上が立ち上がるのに手を貸した。
流石に9年も寝たきりだったので最初は少しふらついたが、父上が支えてヒールをかけたので、すぐに態勢を立て直す事が出来た。
こうして父上と母上が並んで立っているのを見ると非常にお似合いのカップルだとわかる。
父上は表情が乏しいのが玉に
父上が母上をエスコートして隠し部屋から出ようとする。僕も後に続こうとして!、サイドテーブルの上のアーサーとグィネヴィアの事を思い出した。
「父上。アーサー達も連れて行っていいんですよね」
僕が尋ねると父上は振り返って一瞬悩んだようだ。
「グィネヴィアはともかくアーサーがな。居なければ困るが居たら居たでうるさいんだが…。放っておくと余計にうるさくなるから連れて来なさい」
僕はサイドテーブルの上からアーサーとグィネヴィアを手に取ると父上の後に続いて隠し部屋を出た。
父上は本棚を元通りに戻すと抜き出した本を本棚に戻した。
こうして僕達親子の新しい生活が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます