捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます〜

伽羅

プロローグ

 ジュリアは辺りに人がいない事を確認すると、空間魔法を発動させて宝石類を手当り次第に亜空間エリアに放り込んだ。


 (これだけあれば暫くは生活して行けるはずだわ)


 そんなジュリアの目を盗んで小さな影が亜空間エリアに飛び込んだ事には気付いていなかった。


 ジュリアはホッとため息を付くと大きなお腹を抱えてソファーに座った。


 あとひと月もすれば生まれてくるだろう我が子に想いを馳せた。


 (新しいパパはきっとあなたを可愛がってくれるわ。あの人みたいにおざなりの愛情なんかじゃなくて、心の底から愛情を注いでくれる)


 そしてジュリアは自分の夫である公爵と結婚した経緯を思い返していた。


 それはジュリアが18歳の時、学院の卒業を半年後に控えた時の事だった。


 公爵家主催のパーティーが開かれる事が通達され、年頃の娘や息子を持つ伯爵家以上の貴族の家に招待状が届けられた。


 公爵家は王族の血筋を継ぐ者の家系だ。現在の公爵夫人は現王の王妹で、公爵家に降嫁している。


 ジュリアの実家の侯爵家にも勿論招待状は届いた。


 招待状を受け取った両親は殊の外喜んでいた。


 両親の話に拠ると何でも公爵家嫡男のアルフレッドの婚約者を決めるパーティーになるそうだ。


 それを聞いてもジュリアはさして関心は無かった。


 アルフレッドはジュリアの2歳年上で学院でも面識はあったが、特に深い関わりは無かった。


 友人の中にはあの容姿端麗な姿を称える人も居たけれど、ジュリアは何を考えているかわからない様な無表情さが好きになれなかった。


 (どうせ、私が婚約者に選ばれる事は無いわ) 


 そう思い、ただパーティー用に新しいドレスを作って貰えた事に心を踊らせパーティーへと参加した。


 それなのに…。


 気が付けばジュリアが婚約者に選ばれていた。


 ジュリアには納得がいかなかった。


 どうしてで婚約者を選ぶのかがわからなかった。


 そして、それを当たり前のように受け入れている公爵家の人々やアルフレッドの真意もわからない。


 だけど格下である侯爵家が公爵家の決定に逆らえるはずもない。尤も両親はジュリアが公爵家に嫁ぐ事を手放しに喜んでいた。


 ジュリアが婚約者に選ばれた瞬間からジュリアの環境は一変した。


 その場で護衛騎士が付けられ、一人での外出は禁止された。


 気軽に行っていた友人とのお茶会も制限がかけられる。


 公爵家の婚約者として世間に公表され、学院を卒業した後で一年間の公爵妃教育を終えて公爵家に嫁いだ。


 婚約が決まってからあまりにも目まぐるしく時間が過ぎて、ジュリアはただその流れに流されるだけだった。


 結婚して半年後に妊娠が発覚して、ようやく忙しい日々から開放された。


 無事に出産を迎えられるようにとゆったりとした生活を送る中で、ジュリアは自分がこのままでいいのかと疑問を持つようになった。


 夫となったアルフレッドはそれなりにジュリアを大切にしてくれてはいるが、相変わらず何を考えているのかわからない無表情が癇に障った。


 おまけに次期宰相として忙しい為、ジュリアとの会話はあまりにも少なかった。


 そこへ妊娠して体調が落ち着いた頃、参加を許されたパーティーで初恋の相手であったランスロットに再会した。


 想いは打ち明けなかったけれど、お互いに好意を抱いていることは明白だった。グループで行動を共にしている時も何度も目があった。その度に柔らかく笑いかけられてとても幸せな気分になった。


 学院の卒業の時に友人伝手に公爵家の婚約者にならなければ、その時のパーティーで交際を申し込むつもりだった、と聞かされた。


 そんな話を思い出しながら同級生達と思い出話に花を咲かせる中、ランスロットと二人きりになったときについ、ポツリと零してしまった。


『あなたと結婚すれば良かったわ』と。


 そこでランスロットも同じ気持ちであることを打ち明けられたジュリアは、彼と秘密裏に手紙をやり取りを繰り返して、彼と一緒になることを決意した。


 護衛騎士のエレインを味方に付けて、彼との駆け落ちを計画した。


 エレインが何故ジュリアの手助けをしてくれるのかは、さして気にならなかった。


 これからの新しい生活を夢見てただ有頂天になっていた。


 そして決行の日、白昼堂々とジュリアは公爵家を後にした。


 公爵家もまさか身重のジュリアがそのまま姿を消すとは思ってもみなかった為に油断をしていた。


 そのため、ジュリアの不在に気付いた時は既に遅かった。手を尽くして探したものの見つける事が出来なかった。


 そして、公爵家からジュリアが姿を消して数年が過ぎた。

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