第七話 スーパーマーケット

 調味料の売り場にしゃがみこんで上白糖を手にとった汀は、その感触に興味を持った。砂糖なんて珍しいものではないが、スーパーに売られている状態で手に触れたのは初めてだ。

 ぴっちりとしたビニール袋に詰め込まれた上白糖は板のようだった。グラニュー糖だったらきっと持った瞬間にさらさらと形が崩れるだろう。別の上白糖を手に持ってみても、やはり板のようだった。


 なにこれ不思議……。


 上白糖とグラニュー糖の違いはなんなのだろう。ジャガイモの種類にもどんな違いがあるのかなんて知らないし、汀にはまだまだ知らないことがたくさんある。

 汀はジャガイモやたまねぎ、肉、味噌、みりんなんかの入った買い物籠を床に置いたまま上白糖の感触を楽しんでいた。するとそこへカラカラとカートを押す誰かが近づいてきて、汀の腰に軽くぶつかった。

「いたっ」

 汀がその誰かを見上げると、同じクラスの高橋くんだった。

「あれー、本間じゃん」

「わざとでしょ」

 高橋くんは憎たらしい顔でにやにやと笑っていた。汀はまだ制服を着ていたが高橋くんは私服で、彼の押すカートの買い物籠にはポテトチップなんかのお菓子が入っている。買い物カートなんて大げさだ。押してみたかっただけなんだろう。

 そこへ伊藤くんが、やはり私服で現れて一・五リットルのコーラを放り込んだ。伊藤くんは汀に気がつくと、「おう」とだけ言ってまたどこかに去っていった。

 汀は砂糖を手にとって籠に入れた。それを持ち上げると、それなりに重くなっていた。

「カート使えよ。ほら、これやるよ」

 高橋くんは自分の買い物籠を持ち上げて、カートを汀に押し付けようとするので汀は遠慮した。

「いいよ。どうせ片付けるのが面倒になっただけなんでしょ」

 汀はそれだけ言って、こんどは後ろの棚で唐辛子を探し始めた。

「なんだよ、むかつく奴だな」高橋くんは憎まれ口を叩いて、どこかへと去っていった。


 籠に野菜なんかが入っているとたしかに重いのだが、カートなんか使って本格的な買い物をするのもはばかられる。制服で夕方に、それも頻繁ひんぱんにカート使って買い物をしているなんて知られたらなんだか面倒くさいことを聞かれる羽目になりそうだ。だから汀はいつもカートは使わなかった。実のところ、高橋くんに何も聞かれなくてほっとしたくらいだ。


 汀は唐辛子を発見し、手を伸ばしてそれを取ろうとするが、そこではたと手を止めた。一味唐辛子と七味唐辛子はどう違うんだろう。汀は唐辛子なんて好んで使ったことはないが、至に頼まれたのだ。汀が唐辛子を見上げていると、また高橋くんがやってきて肩をぽんと叩かれた。

「じゃあな、本間」

 そのまま去ろうとする高橋くんを汀は引き止めた。

「あ、高橋くん」

「なんだよ」

「一味唐辛子と七味唐辛子ってどう違うの?」

「一味なんて辛いだけだ。通は七味だ。じゃあな本間」

 高橋くんは逃げるようにして去って行った。わざわざ何をしに来たんだろう。

「じゃあ七味にしよ」

 汀は七味唐辛子を手にとって、買い物籠に入れる。すると籠の中には覚えのない商品が入っていた。ピンク色のパッケージの食玩、三百九十円。黄色い髪の魔法少女の家だった。シリーズを集めると、組み合わせて二階建ての家が完成するというものだ。

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