真昼の三日月

横浜流人

第1話 真昼の三日月 貧乏な出会いと度合い

 飯山美宇は、三十歳になった。

 二歳の子供を最新のイタリアのスーパーカーブランドのバギーカーに載せて保育園に向かう。

(私は、なんでこんなに貧乏な生活をしているのだろう?)

(なんで、お金のことを、始終考えなければならなくなったのだろう?)

と考えるのである。


 彼女は、男には魅力的な感じの中肉中背である。

 中学、高校、そして大学、と一貫校に通い、一貫して青春を好き放題に謳歌してきた。気がついたら、こうなっていた。


 彼女の祖父母が資産家であった、というか、むか~し昔からの畑や山、林や森が、何もしないで放っておいたら、いきなり都市開発、高速道路開通、私電開通によって知らないうちに資産になったのだった。

「何でも、何があっても、金払えば良いんだろ?」

と、人を小バカにしたような、代々、一族全員おバカ経済の住人である。金持ちとしては続かない。人の物、親の物、兄弟の物、友達の物などを奪い取りあう金持、次の世代で、教養なく、道徳のない馬鹿なその子供たちに食い散らかされる。親が困ろうが、兄弟が困ろうが、絶対に自分が手に入れたものを渡さない。人など助けない。困っている身内を助けるどころか、骨までしゃぶって奪いつくす。

 無尽蔵に、あると思っていた資産が、あたりまえだが、自然に減り続け、全ての物の殆どを失なってしまったのだ。この国の税制は、大体、三代財産は受け継げない仕組み、というか、兎に角、住人から、何が何でも、召し上げ、自分らが喰らうのが当たり前の官僚階層に支配されている。また、それらに召し上げられない様に仕組み作りを生業とする人間も多くいる。彼らは、知識無き資産家に取り入り、骨までしゃぶり、奪い取ろうとする。金払えば、何でも、大丈夫!そう、その通り!ただし、削り取られる資産が有る限りである。

 彼女の旦那の方も似た様なもので、なんもしない、能力も、知識も、人望も無いまま美宇の父、義父に与えられた会社の社長になった。会社では、周囲はゴマスリを命がけでする者ばかりである。

 こんな息子たちは、昔から、土下座までして親からお小遣いをもらう。勉強などしている時間はないし、教養も道徳も必要ない。奪い取る!それが生きる知恵である。こんな彼女や旦那の様な一族の、金持ちは続かないのであろう。直ぐに、貧乏神という神様のご加護がある。

 会社自体を、社長の椅子を、優秀な側近も、全て失った。

 美宇の旦那は、自分で、「自分は、頭悪い」と言っているので、相当、頭の悪い奴ではある。進学する為の、受験勉強をしたこともなく、将来の為の就活もしたことがない。義父の会社に雇ってもらわなければ何も出来ない。しかし、会社にとっては、ただの不用品でしかない。

 ところが、彼は、プライドだけは、ずば抜けて高かった。教養なし、道徳無しではあるが、金持ちしか入れない一貫学校に通っている事を、

「自分は、育ちがヨイ」

と言い切っている。

 必死に勉強し、高学歴、高収入になった人間は、

「育ちが悪い」

と言い切る。自分達は、人の困るのを敏感に察知して、それにつけこみ親兄弟であろうとむさぼり喰ってきた一族の一員であることは理解していない。


 美宇は、子供の保育費を、銀行の自分自身の秘密の口座から降ろしておいたのだが、お昼には、ドコドコのフレンチのお食事会、何々ホテルのランチ、アフタヌーンティーとか、バイキングお試し会だとか、なんやかんや、見栄の張り合いの、付き合いで殆ど使ってしまっていた。保育費の納入期限が、明日に迫っていたのである。

 美宇は、今までお金に困ったことなんてない。お金は有るところにあって、何処からか湧いてくるものだと思っていた。


 美宇は、目の前を、トボトボ歩いている、スラッと背の高い、黒のバーバリーらしきトレンチコートを着込んだサラリーマン重役風の男に声をかけてしまった。

「あの~、すみません。お金貸していただけませんか?なんでもしますの・・・」

などと言ってしまった。言ってしまってから美宇は、慌てた。

「いえ、あの、なんでもないです」と、言った。

 生涯で、初めて、そんなことを言われた男は、まじまじと美宇をみつめ、

「お困りの様ですね?いくらくらい必要ですか?」

と、聞いてきた。

 美宇は、顔を俯せ、赤らめて小声で答える。

「あの、三十万くらいなんですが・・・」

 男は、かなり驚いた。 

「ハッ?なんか、高級娼婦みたいですね?で、取り合えず、今はおいくら必要でしょうか?」

 美宇は、

「十万くらいかな?・・・三十万、それくらいか・・・」

と、困り悩んで、小声で、まごつきながら男に答えた。

五十代らしき、自分の旦那とか親族とは違う匂いのする、裕福そうなその男は、美宇に手招きをして、

「部屋に行けば十万くらいは置いてあったと思うな。後は、今の時代カードローンとか、何んかあるでしょうに?」

しかし、美宇は、

「ちょっと、そういうのは、やった事がないので・・・」

と答えるしかなかった。ず~っとゴールドやプラチナカードは持ってはいた。それを出せば何でも出来た。だから、それがなくなった今、現金経済しか知らない。

 美宇は、唐突に何てこと言ってしまったのか?という戸惑い、恥ずかしさで、頭が混乱していた。ただ、呆然と男について部屋に上がってしまったのだった。

 関東平野、その西北部の川辺のマンション街にそびえる、高層マンションである。美宇は、子供と供に、バギーカーごと、男の部屋に入った。1LDKではあるが、かなり広い。窓越しに武蔵野の森や街並みが望める。

「ちょっと、キッチンお借りします」

と、美宇は、子供用のミルクを造りにキッチンに向かった。小奇麗なアイランドキッチンもある。使っている気配はないので、独身なのか?と、哺乳瓶にお湯を注ぎミルクを造り、フィルター越しの水道水で冷まし始めた。


 昼間に三日月が、ゴミ焼却炉の煙突の真上に見える。

 半分かけている?月の形は半分である。半分が消えてなくなっている。誰にも見られないように、淡い光を反射して、薄い白色である。空は、雲一つない青である。

 半分、身を隠した月は、恥ずかしそうで、誰にも見られたくないように、薄くぼんやりと白を浮きだたさせていた。消え入るように。やがて暗闇となる空で輝くのを待つ。


 美宇みうは、男の高層マンションの部屋のソファーに赤ん坊を寝かしつけて、広いリビングの片隅に置かれたベットのある方に向かった。

 しかし、そこに男はいない。シャワーの音がしたので、美宇はバスルームに向かった。バスルームの手前の洗面所 兼 脱衣所?は、何もかもが整然と収納さられている。男はかなり、几帳面で、清潔好きなのだろう。

 男は、バスルームの扉を少し開けて、毛深く筋肉質な腕を出して、あらかじめ用意してあったブルーのバスタオルを握り、バスルームで身体を拭き始めた。そして、バスタオルを腰に巻きバスルームから出てきた。

 胸板は厚く、筋肉が少しついた身体、細マッチョとでも言える身体つきである。肌色は全体的に浅黒い。

 普通の女性であれば、ぞくぞく、ムラムラしてくる身体つきである。しかし、不思議に、この中年といえる男の部屋には女っけがないのだ。


(もしかして、オッサンラブ系?BL?)


 そう思うと、美宇は,これから自分は何をされるのか?身震いがしてきた。

 シャワー室から出てきた美宇は、武蔵野の森を見渡せる部屋を見回し、男を探した。男はソファーに寝かしつけた赤ん坊を、微笑みながら眺めているのだった。

 美宇は、

「あの・・・」 から声が続かなかったのであるが、男は美宇に気が付いた。

 男は、少し微笑んだと思う。

「じゃ・・・」とか言ったとも取れた。ベットでの事は、美宇が思ったよりもアッサリと終わった。ただ、じゃ、と言って一緒にバスルームに連れて行いかれ、シャワーを浴びながら後ろから攻められたのである。良くある事とは言えなくはないが、想像していなかったので、不覚にも燃えてしまった。

 男は体を拭き、また先ほどのバスローブ姿でキッチンに向かった。

 男が先に口を開く。

「私も独り身なので、時々利用します。仕事として、ソープとか、ファッションヘルスとか、キャバクラとか、デリヘルとか、あっという間にお金など稼げるでしょうに・・・」

と美宇に質問するでも教授するでもなくつぶやいた。

 美宇は、即答する。

「私、子供いるし、キャバクラとかクラブは、知った人が来るんですよね・・・、その度に店の奥に逃げていると、直ぐに首にされて、なんとも・・・」

 男は、すこし間を置いてから、

「それで、いきなり知らない男に身を売ろうとしたんですか?」

と不思議そうに美宇に聞いてきた。

 美宇は、少し両頬を紅色に染め、

「いや、身を売ろうとしたんじゃなくて、お金が無いのを、どうしてよいのか考えていたら、すみません!目の前に裕福そうなアナタがいて、何にも考えずに声かけてしまって・・・」

 美宇は消え入るように答えた。

 男は、少し微笑みながら

「これ」

と銀行名の印刷された封筒を美宇に渡す。

「やはり部屋には十万しかなかったです。近くの、ATMで後、二十万おろしますから、準備が出来次第、外に出ましょうか?」

 男は、素早くセーターと、綿地のチノパンに着替え、バックスキンのジャンバーを羽織る。

 美宇は、バギーに載せた我が子と、男とともに部屋を出る。


 コンビニから出てきた男から、美宇は二十万円の入った封筒を渡された。

 美宇はそれを一礼をして受け取り、俯き加減うつむきかげん

「近々お返ししますので・・・」

と、美宇が言った時、男は、すかさず、

「無理に早く返そうなんて思わないで下さいね。無理すると貴方、何するか分からない。危なっかしいですから。時々、私の部屋に遊びに来てください。私、故あって独身ですが、決してBLではないですから」

と言って、美宇に名刺を渡した。

 投資コンサルタント 九竜くりゅう株式会社

 代表取締役 社長 九島くじま 劉人

 そこには、マンション入口のパスワード番号がメモってあった。


 美宇は、これから人生で最も輝ける時がおとずれる予感がした。


 美宇は、九島に会うために、売らずに残しておいた大学生時代のブランド品に身を包み、免税店で買い込んでいた、香水を耳たぶの後ろに、ほのかに香らせた。

 美宇は、九島にれてしまったかもしれないと感じていた。兎に角、男に会いたいのだ。ズ~っと一緒に居たいのである。

 しかし、二人には別々の生き方がある。男は、投資コンサルタントのような仕事をしているらしい。そして、男が独身ひとりみであるのは確かなようだ。

 美宇とは時間が合わない。先日の出会いが、奇跡的偶然きせきてきぐうぜんなのであった。

 美宇は、九島から玄関のパスワードを知らされており、彼のいない時、部屋に入ることになる。何もしないのも悪いので、掃除と、夕飯の準備はしておく。材料や必要な物は、九島が、部屋のテーブルに置いてあるお金を使う。二人は中々会えない。美宇は、不思議と欲求不満のような感じになっているのだ。行為自体は、夫が、毎晩のように迫ってくる。しかし、どうでも良いというか、面倒なだけなのである。九島に抱かれてから、夫では全く物足りない状態。

 美宇は九島に会いたくて仕方がない。

 美宇は、何気なく冷蔵庫をチェックし、生ごみをチェックしている。彼は毎回、ちゃんと美宇の料理を食べてくれているようだ。

 少し探偵めいた観察ではある。

 男は、必ず、このテーブルで食べると分かっていた。そして、美宇は、テーブルに用意した食事の片隅にメモを残す。


(今度の日曜、十一時に近くの河岸公園に行きませんか?そこの公園に子供と行ってます。美宇)


 そして、日曜日。美宇は、バギーカーに子供を乗せて、十時には河岸のマンション近くの公園に来ていた。しかし、男は、先に公園のベンチに座っていた。

 美宇は興奮してしまう。こんな幸せな感覚は、いつ以来であろうか?学生時代?

 彼の方に、小走りにバギーを押しながら走っていた。

「遅くなりました」

といいながら、小首をかしげた。

 男は苦笑いをしている。二人とも待ち合わせの時間よりかなり早めなのであるから。


 美宇は、彼の座っているベンチの横の空スペースにバギーカーを置いて、座った。

 彼はバギーカーの中の赤ん坊をみつめている。

 子煩悩である。優しい顔になっている。

 美宇は、こんな幸せな時間は、止まって欲しいものだと思った。

 彼、九島と会えない間、(彼は誰といるのだろう?その時、彼は何をしているのだろう?)と考えてしまう。そんな想いを募らせ、美宇は、彼に、ついに聞いてしまったのだ。絶対に聞くべきではなかったのである。

「あの~、結婚とか、一緒に暮らしていらっしゃる人とかは、いらっしゃるのですか?」


 男は、天を仰ぎ、しばらく考え込み、暗い目をして静かに語り始めた。

「以前は、家庭がありました。妻も、娘も私が殺しました」


 聞くべきではなかったのだ。


 二人は深い海の底に落ちていくような感じがした。

 二人とも、一気に深い、深い闇の海の底。あるいは、沼の底。

(これから、どうすればよいのか?どう、男と接すればよいのであろか?)

美宇は、うつむくしかなかった。あまりにも唐突で、衝撃的な会話で、美宇は、何の返す言葉も思いつかない。

 男は静かに、さらに語り始めた。

「私ね、こう見えても、結構優秀なトレーダーなんです。ズ~っと忙しくて、世界の投資家相手にコンサルと、資産の運用をしてきました。家庭なんて、無いようなものだったんです。全財産、自分の口座で投資していた。妻が、娘の進学や教育やでお金が全然工面できなくて、ノイローゼになっているのさえ気が付かなかったんですよ。明るく、社交的な妻は、娘の友達の付き合いとかで、娘にひもじい思いをさせないようにと、懸命に努力してました。私には何も言わずにです。私は、何も気づいてあげられなかった。何かあれば、相談してくれるもの、と思っていました。妻は、私に気兼ねばかりして、怒られると思って何も言えなかったのです。そして、挙句の果てに母子無理心中をしてしまいました。私が殺してしまった様なものなんです。私が、少しでも、耳を傾ける時間をつくり、妻が相談してくれれば、何とかなったものを」

 男の頬を涙が伝う。

 美宇は、ハンカチで、それをそっと拭いてやった。やはり聞くべきではなかったのだ。(どうしてよいか?どうするべきなのか?)

美宇には分からない。

分かろうとして無理に結論を出すと、まちがった考えに陥る。ジタバタしても事態は変わらない。そして、悩んでいる内は、意識の焦点が、つい不安なコトひとつに絞られがちになる。そこばかり気になってドンドン苦しくなる。

意識を不安な事に集中せず、大きく拡げて物をみて、今のソノママをみる。


 美宇は、思う。

(この男と生きていこう。二人、半分づつで生きていこう。目立たなくても、薄っすらでも、真昼の三日月のように。そして、いつか、二人は輝くであろう!)


 美宇は、辛かった。恋した男は、自分の所為で妻を、娘を死なせてしまったと苦しんでいる。他の誰も入っては行けない、深い深い闇の底にいる。生きることを苦しんでいる。苦しみを半分にできなくても、一緒に分かち合いたい。しかし、知ってしまった事が辛い。


 辛い(つらい)、の一歩先は幸い(さいわい)であると、字体をくことがあります。辛いに、横一本線を足せば幸いになる。

 辛い過去は変えられない。自分以外の他人を変えようとしても無理である。自分で変えられるのは、自分と、自分の未来だけなのである。あの人が酷いとか、あの失敗がなかったらとか。あんな経験さえ無ければ・・・

 過去のことは変えられないし、他の人を変えることはなかなか出来ない。変えられるのは、自分だけ。そして、自分の未来だけである。


 楽しいこと、辛いこと、全てをそのまま受け入れる。ただ、そのままをながめる。自分の人生を、良い、とか、最悪とか考えない。そんなものの評価などしない。過去を忘れられなくても構わないのだ。ただ、今あるがままを生きる。何処の誰がし等々、社会的な自分の地位、立場、評価などを気にして、自分でない自分の役割を演じるのをやめる。自分は自分で、誰でもないし、何者でも何様でもない。


 人生の生き方などは、星の数ほどある。悪いところをずーと視ない。そして良いところだけをみる。受け入れる。

 あの、日本人の代名詞ともいわれる、男はつらいよ!の寅さんは言いました。自分はメンドクサイことが大嫌いなのに、人が面倒くさがると、説教します。

「幸せっていうのは、メンドクセーの向こうにあるんじゃないのかい?」

「そんで、生きててよかった、と思えることが、一度か二度、感じる為に、人は生まれて来たんじゃないの?」

 世の中、大体のことを覚悟さえしておけば、大概のことが当たり前のことに見えてくるのでしょう。


 美宇は、男に決断させた。

過去を背負わない!今を生きる!

 九島の仕事は、投資コンサルタントである。パソコンとEメールとインターネットがあれば世界のどこでも仕事は出来るのである。学生時代に旅行した、タイ、バンコクへの移住を進めた。自分達は、この国にいるから、保険だ、年金だ、税金だと悪徳な輩にむしり取られる。人の幸せなど考えたこともない、出来損ない官僚の生き残るこの国では、自分は貧乏になるし、彼は過去を引きずっているのだ。

 美由は即決である。離婚はしない。パスポートだとか保険証とか面倒になる。いずれすればよい。子供と供に、この男に貧乏から脱出させてもらう。そのかわり、私がこの男を暗い闇の底から引きずり出してあげるのだ。

 タイ、バンコクでは、大きな病院、スーパーから、学校までも日本語が通じるところがある。物価も高くなったとはいえ、まだ安い。思いどおりの生活ができる。タイは戦前からヨーロッパ貴族の保養地である。タイ、バンコクは、近代的であり、魅力が多い。ミュージカル、王さまと私、のように、素晴らしい生活が待っている(はず)

 人生の幸せは、彼と半分づつにする。今まで隠れるように半分、自分を失っていた真昼の三日月は、夜空で神々しく輝くのだ。そう思えば実行、即座に明るい未来が見えてきた!



 美宇は、自分の子供と、そして九島と、タイ王国の首都、バンコクのマンションに住むことになった。ビザの関係もあるが、日本にはチョクチョク戻る。ダンナには、ママ友達と海外旅行と言ってある。

 バンコク市内の高層マンションにはたまにしか住まない。殆どがホテル暮らしである。南国の樹木に囲まれた大きな川沿いのホテルだ。

 美宇は、家事などしなくて良い。食事は何時もホテルのレストラン、もしくはルームサービス。それだけではない。世界的に有名なレストランへも頻繁に通う。掃除もしなくて良い。学生時代の実家暮らしよりも快適であった。

 移動は、ハイヤー。たまに、ボートでクルーズがてらの移動。

ショッピングは、日系デパートでVIP扱いである。休日とは言わず、時間が出来た場合、ゴルフに行くか、高級リゾートのエステサロンに行く。

育児は、シッターにしてもらっている。ベビィー向け家庭教師もついている。メイドさんも数名。

 美宇は、やっと考えていた自分の人生を取り戻した気分だった。不満と言えば、男は、仕事に何時も没頭している。かなり厳しい顔をしてパソコンのモニターに向合っている。24時間、世界中と取引をしている様子だ。急に叫んだりもする。たまに、お茶を入れて持って行ったりすると、気分しだいで抱かれる。

 性暴力とか、そういうのでは無いが、自分が性の道具のように扱われている気がして気分が滅入るのだった。

未だに、好きとも、愛しているとも言えなし、言われてもいないまま・・・・・・


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