07 夜会

夜会が始まった。ワタヌキは我が物顔でポテトチップと箸の前に陣取り、箸を振り回したり、イズミを箸で指差して「あいつはこっちに来るなり帰りたいと騒いだやつなんだ」と大声で話していた。


イズミとアレンは反対側の隅に立っていた。イズミは昼間と同じ服装の紺色の上下に昼間はなかった銀色がかった灰色のマントを羽織り、髪飾りが派手なものに変わっていた。

銀髪に紺色の目のアレンはグレーの上下だ。上着に控えめにはいった刺繍は黒だった。

二人は静かに立って挨拶に答えていた。ただイズミが神官を引き止めて話をしたのが、注目を集めていた。


「イズミ様、今度お茶にいらして下さい。アレン様もぜひ」と一人が言うと


「うちで園遊会を開きますので皆さん揃っていらして下さい」と隣国の公爵が言うと周りが拍手をした。


公爵が園遊会のことを語りだすとアレンがイズミをバルコニーに連れて行った。


人いきれでちょっと疲れたイズミはほっとして椅子に座った。そこに侍従がやって来るとアレンになにか、囁いた。


アレンは飲み物のおかわりを頼みそれをイズミに渡すと、王族のもとに向かった。


一人になったイズミに話しかけたいと何人か寄ってくるが、皆が牽制している間に一人の令嬢がイズミに近づいた。


「あなた、アレン様に付きまとっているんですって・・・無能のくせに生意気だわ」


「確かに無能ですが、付きまとってないですよ」


「うそ言わないで、今までだってずっと引っ付いていたでしょ。アレン様は迷惑なのに優しいからあなたを振り切れないのよ。やっとご自由に動けるようになって・・・生意気なあなたなんかこうしてやるわ」とワイングラスを振り上げてイズミにかけた。


シャツとマントに赤い染みがついた。


「おやおや、無能は退散しますね。皆さん失礼します」というとイズミは席を立って出口に向かった。


「イズミ様、お待ちください」と侍従の声がしたが


「こんな格好でこの席にいるのは失礼でしょう。神子様のご迷惑になります」と言うとさっさと歩き去った。



アレンは国王に呼ばれて、令嬢たちを紹介されていた。別の日に改めて紹介されるよりはと思ってイズミを残して国王のそばに来たのだった。


アレンがイズミのそばを離れたのをみたレオは、さっそくイズミの元へ行こうとしたが、ある令嬢のほうが先にイズミに話しかけた。


ワインをかけた令嬢は、仲間から拍手で迎えられていた。


レオはイズミの後を追った。



「おい」と声をかけるとイズミは振り返った。


「レオ、神子様をほっておいていいんですか?」


「イズミこそアレンと離れているではないか?」


「当たり前です。僕は神子じゃないんで」


「・・・・そうか」


しばらく黙って歩いていたが


「あの時はすまなかった」


「あの時とは?」


「召喚された時だ」


「えっと」


「無能とか言って」


「あぁあの時ですか?」


「そうだ、すまなかった」


「はい、わかりました」とニコリともせずにイズミは答えた。


「戻ったほうがいいのでは?」


「いや、ちょっと話していいか?」


「なにをですか?」


「いや、箸の使い方を教えてもらえれば」


「箸ですか?いいですよ」


「ワタヌキに習えと言わないのだな」


「彼ははっきり言って箸使いがへたです。あれを広めて欲しくない」


「なるほど・・・・・!」




「来ましたね。足止めくらいはできますので逃げて下さい」

侍従の格好をしているが、害意を放つ三人をみてイズミが言った。


「だが・・・」

「殿下、お立場を考えて、お逃げ下さい」



そう言った瞬間、イズミの体は宙に舞った。


一人が声もなく倒れた。その横にいた者は石をぶつけられて倒れたが、すぐに起き上がろうとした。そこをイズミが蹴り飛ばした。


ナイフを取り出した男はそれを取り落とし、手を抑えて呻いた。イズミは走って逃げようとしたが最初に倒れた男が足に抱きついて引き倒した。


押さえつけたイズミの頬を男がおもいきり殴りつけた。


やっとその時、城の衛兵が駆けつけた。


一緒に戻ってきたレオはイズミを助け起こした。痛そうに呻くイズミの頬に手をあて手当できるものを呼ぶように言うがすぐに


「わたしが手当を」という声がした。向かい側に神官が座ると頬に手をかざした。


白く柔らかい光がイズミを包むと腫れていた頬と唇、体中にあった擦り傷が癒えた。


ふらつきながら立ち上がったイズミはレオに向かって


「助けて頂きありがとうございました。さすが王子殿下でらっしゃいますね」と頭を下げた。


イズミを支えていたアレンは素早く抱き上げると、部屋に送って来ると歩き出した。




「こいつら、誰に雇われたと思いますか?」


「狙いはイズミのほうだと思いますね」


「異世界人としてのイズミ、ただのイズミ。どちらにしても攫いたくなるな」





アレンは給仕三人を見下ろした。


「王子を殺せと命じたのは誰だ?」


「王子なんて狙うか。首がいくつあっても足らないだろう」


「異世界人を連れてこいって言われただけだ」


「そうだ、それだけだ」


「連れていこうとしただけなのに・・・・あいつ・・・いきなり・・・なにもできないと」


「どこに連れて行くと?」


「馬車までだ」


「どんな馬車だ?」


「「こいつが知ってる」」と一人を指差した。


指さされた一人は真っ青になって


「いや、行けばわかるから・・・・」


「君はこちらでじっくり話そうか」


その男を連れてアレンは部屋を出た。



その男の話をアレンは整理した。


給仕をしていたら知らない男がイズミを連れて来て欲しいと言ってきた。報酬もすぐにくれたので、他の給仕を誘った。


会場を出たので後を付けた。王子がいて面倒だと思ったが、すぐに逃げ出してくれて助かった。


王子を逃がす判断をしたのか?


夜会の時も・・・・夜会慣れしていた。貴族の中で気後れもせずに・・・・


その上、三人を相手にしたのか。


何者なのだ?













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る