第15話 バランスの取れた提案と、既婚保母の意見

「そうですか・・・。じゃあ、うちの両親とお話していただければ。私、週刊誌に取上げられるような女子大生社長ではありませんので、権限ないですから(苦笑)」

「もしあなたがこの店の社長だとしたら、清美ちゃんを雇われる?」

「雇うかどうかはともかく、お手伝いいただきたい人材であると思っております」

「そうなの。じゃあ、あなたの御両親とお話してみるわね」

 そう言って、書店主夫人は夫とともに、本田夫妻と話を始めた。


 このとき店内では、本屋と喫茶店の両店主夫妻の他、いくつかのグループに分かれてそれぞれ話が進んでいた。

 一つは、十数年ぶりの再会をした父親と娘。

 もう一つは、養護施設よつ葉園の園長と保母。

 さらにもう一つ、O大学の男女学生。

 これらのグループが、それぞれの内輪で、そして時にその輪を超えて、かれこれ話が進んでいる。

 最初のうちこそ重い空気も漂っていたが、それもだんだん、薄れてきた。


 マスター夫妻が書店主夫妻と話しているため、マスター夫妻の娘である女子大生が人数分の珈琲を用意し、それを、定時制高校に通う女子高生が、テーブルをかこっている人たちにそれぞれ、珈琲とともに水の入ったグラスを用意していく。

 その間、大宮青年は森川園長と山上保母たちと、この件について協議している。


「おじさん、基本的には、あの子は下川さんのところに住んで本屋に勤めていた方がいいと思うけど、無理のない範囲であれば、この店を手伝わせるという方向も、悪くはないと思う。これが、リスクを回避しつつ、彼女の将来をさらに広げていく上で一番の正解ではないかと、ぼくは考えた。どうでしょうか?」

 大宮青年はバランスの取れた提案をしていると、老紳士は感じた。

「哲郎は、賢いのう。この喫茶店で少しでも手伝うことで、あの子もさらに広い世界を知れよう。わしは若い頃十数年、県庁に勤めた。確かに熱心な職員もおった。わしがそうであったとは言わんけど。じゃが、ただただ天から降って来るかのごとき俸給を目当てにちんたら勤めておる者も、少なからずおった。はたで見て情けないと思ったが、そんな者らでも、家に帰れば妻子を養っておったわけじゃ。それを一概に責めるわけにもいかんが、あの子には、そんな職員らのような人生を送ってほしくは、ないのでな」


 ここで、既婚の若い保母が、口をはさんだ。

「でも、今、本屋さんにいるのなら、本屋さんの仕事をきちんと覚えて、『手に職』をつけないといけないでしょう。そこを何ですか、喫茶店にも手を出して、とか。辛抱というのも大事ではないでしょうか?」

 彼女の弁に、老園長が答える。

「山上さんの懸念も、わからんではない。じゃが、あの子は単に手に職をつけてとか何とか、そんなところで終わる子ではない。言いにくいが、あんたはしかし、およそ世上というものに疎いのう。ええお育ちをされて来られたのは、わかるけどな」

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