第12話 父娘の十数年ぶりの再会の傍らで・・・

ジリリリリン ジリリリリン


 程なくして、店の黒電話が鳴った。

 ママさんが電話をとった。その電話は、よつ葉園からであった。


「園長先生、よつ葉園の唐橋先生からです。来客がありまして、今から、山上先生とその方をこちらまでお連れしてもよろしいかと、お尋ねです」

 ママさんは受話器をテーブルに置いたまま老園長のところまで来て、ささやくように述べた。

 どうやら、大っぴらにこの場で言えない事情があるような、そんな話である模様。

 少し間をおいて、老園長はそっとママさんに伝えた。

「では、山上さんとお越し願うよう、唐橋君にお伝えください」

「わかりました」


 ママさんは電話口に戻り、唐橋修也児童指導員にその趣旨を伝え、電話を切った。

 一方のマスターは、珈琲を仕立て、来ている人たちに改めて振舞う。


「清美さんは、珈琲、大丈夫かな?」

「はい、好きです」

「それなら、あんたも是非飲んでもらいたい。これが、うちのブレンドじゃ」

「ありがとうございます」

 少女は、添えられた角砂糖をまずは入れて溶かし、その上に、ミルクを注いで、再びスプーンでかき混ぜ、一口、飲んだ。

「おいしい、です」

 かねてこの手の飲み物を飲み慣れている大学生や老紳士たちは、黙って彼女の言葉に頷きつつ、自分たちなりの飲み方で、カップの黒い液体をすすっている。


 珈琲を飲んで少し落ち着いた頃、30歳に手の届きかけた既婚女性とともに、40代半ばと思われる男性が来店した。年相応の背広姿である。


「ごめん下さい、よつ葉園保母の山上敬子です。岡山和彦さんを、お連れしました」

 若い女性の一人が、自分の苗字を呼ばれたせいか、一瞬、声の主に振り向いた。

「お邪魔します。岡山と申します・・・」

 中年男性は、ふと、質素な普段着を着ている少女に声をかける。


「あんた、きよみ、か・・・? 私の娘の?」

「は、はい。そうです。お父さん?」

「そ、そうじゃ。あんたの父の、岡山和彦、です。申し訳、なかったな・・・」

 この父娘の再会は、約12年ぶりという。

 その再会の周囲には、黙って見守っている老紳士と中堅になりかかった保母、それに、大学生男女が立ち会っている。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 感動的な再会から少し時間が経過した頃から、この店のマスター夫妻は、あわただしい動きを始めた。マスターは、電話でどこかに連絡を取っている。一方ママさんは、さらに珈琲や水を用意するとともに、洗い物の片付けを始めている。


 期を見てマスターが、大宮青年を呼び立てた。

「すまん、大宮君、ちょっと、よろしいか?」

「はい、マスター、どうされました?」

 マスターは、電話連絡で得られた情報を大宮青年に伝えた。

 それを受けた大宮青年は、いつになく丁寧な口調で、老紳士を呼び出した。


「森川先生。申し訳ありませんが、少し御席をお外しください。重要なお話です」

 席を外してマスターのところまでゆっくり歩いてきた老紳士が、尋ねる。

「どうされたかな? 本田さん」

「実は、・・・、ありまして、それで」


 

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